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近況ノート小噺 その4「謎の無人駅」

 そこはどこにあるのか誰も知らない。どうやって行けないけるのか誰も知らない。噂だけが独り歩きしている謎の無人駅。
 無人駅と言うくらいだから田舎にあるのだとか、ある特定の時間に特定の方法で乗った列車でのみ辿り着ける駅だとか、その話のバリエーションは語る人の数だけ存在している。

 そもそも、その駅がなんなのか、駅を降りるとそこの何が待ち構えているのか、その無人駅に行くメリットは何なのか……。
 ある人は全く何もないと言い、ある人は会いたい人に会えると言い、ある人は過去に飛ぶと言い、歩い人は未来に着くと言い、ある人は平行世界に移動すると言い――。他にも夢の世界やら霊界やら荒唐無稽な話だけが無責任に拡散されている。

 この世のどこにもないとされる無人駅。どこにもないからどこにでもある。黄昏時の真っ赤に染まった世界の何処かで、普段見られない線路が影を伸ばしてどこまでも伸びていく。見上げればカラス達が空を黒く塗り潰している。

 見慣れた景色の中にその無人駅は浮かび上がる。列車が連れて行くばかりじゃない。そこから乗り込む事だった出来るんだ。誰もいない小さな無人駅は来るはずのない列車をずっと待っている。

 沈みかけて沈みきらない夕日がずっと世界を赤く染めていた。学校をサボった誰かが道に迷い、普段通らない道に足を踏み入れて知らない景色に侵食されていく。その駅はまるでずっと昔からそこにあったみたいに、時間のかけらをキラキラと反射させていた。

 いくら待っても列車は来ないんだよ。ずっと昔に廃線になったのだから。そのトンネルの向こうからは何もやって来ない。そのままいたら時間に取り残されてしまうよ。心が癒着してしまうんだ。

 その無人駅は語る人の数だけ存在している。忘れられた人の数だけ忘れられていく。

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