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近況ノート小噺 その3「都市伝説」

 とある小学校の2時間目の休み時間、5年生のヒロシが椅子に座ったまま背伸びをしていると、トイレから戻ってきた隣の席のジュンが興奮しながら話しかけてきた。

「ねぇ知ってる? 角店ってあるでしょ? あそこ、夜中の3時に行くと異次元の扉が出現して、近付くと吸い込まれて二度と出られなくなるんだって」
「何それ?」
「今流行ってる都市伝説だよ」

 キラキラと目を輝かせる彼女にヒロシはジト目で返事を返す。ジュンはこう言った普通じゃない話が大好きで、いつもどこからか話を仕入れてきては楽しそうに話しかけてくるのだ。
 彼はそんな与太話をいつも右から左へと受け流している。この年齢にして既に冷めている少しマセた5年生だった。

「ふーん、誰から聞いたの?」
「誰からだっけ? 気がついたら色んな人が同じ話してたから……」
「絶対嘘じゃん」
「だって都市伝説だもん」

 ジュン自身もこの話が本当でない事は分かっているようだ。ただ、話の内容が面白いからそれを広めているだけに過ぎない。大体、昔からのこの手の噂話なんて、相手のリアクション目当ての作り話ばかりだろう。口裂け女の時代から何も変わらない。
 そう言う諸々を分かった上で、ヒロシは彼女を追求する。

「じゃあみんな嘘言いふらしてるの? 先生に怒られるよ」
「都市伝説はいいんだよ、そう言うものなんだから」
「ふーん、変なの」

 普段は嘘をついてはいけないとか正論を訴える教師陣が都市伝説に関しては何も言及しない、それがヒロシにとってはちょっとした不満だった。何でもかんでも口出しする方が問題なのは分かっていても、時と場合によって言う事が違うと言うのは不信感へと繋がる。
 元々冷めている彼はいつもこう言う反応をするので、聞かされているジュンもまたその手の話題を平然とスルーしていた。

 2人がそんなやり取りをしていると、外に出ていたクラスメイトが教室に戻ってくる。この出来事にジュンの好奇心レーダーが直ぐに反応した。

「お、あいつ」
「おい、ちょっと……」

 彼女が興味を持ったのは普段からどこか怪しげな雰囲気を漂わせているメガネ少年のトヨヒコだ。ジュンは仕入れたばかりの噂を聞かせようとニヤニヤ笑いながら近付き、問答無用で彼に話しかける。

「おーい、都市伝説って知ってる?」
「知ってる」

 予想と違うリアクションが返ってきたためにジュンは戸惑った。ただ、面白い話が好きな彼女のこと、すぐに好奇心が勝ってしまう。

「へ、へぇ……どんな話?」

 ジュンはゴクリとつばを飲み込んだ。目を輝かす彼女のキラキラオーラを受けたトヨヒコは軽く咳払いをすると、自分の知っている”伝説”をスラスラと淀みなく語り始める。

「今から350年前、伝説の盗賊「幻惑丸」がこの街のどこかにとんでもないお宝を隠して、盗まれないように呪いをかけたんだって。だからこの街には変な話が多く語り継がれているらしいよ」
「マジか」

 意外に本格的なその話を聞いたジュンは圧倒されたのか一言しか返せないでいた。そんなやり取りを席に座ったまま眺めていたヒロシはポツリと一言。

「それ、都市伝説って言うか、本当の伝説じゃん……」

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