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近況ノート小噺 その2「季節切り替え爺さん」(改)

「あんた! しっかり仕事してんだろうね!」
「うっさいのう! ちゃんとやっとるわい!」

 婆さんに叱られて爺さんも負けじと言い返す。ここは空の上の天候管理室。この年老いた二人は最後の天候管理人だ。この星の生命の循環を維持するために毎日コツコツと季節の流れを調整している。

 二人共腕は確かなものの、なにぶん寄る年波には勝てず、たまにポカをやらかしてしまう事もある。メインの天候管理は主に爺さんが担当しているため、何か間違ってしまった時に爺さんを叱るのも婆さんの仕事だ。

 その日もまたついうっかり爺さんが季節の配分を間違えて、その地域ではもう春になっているのに雪を降らせてしまった。

「あ……」
「全く、何やってんだい!」

 ポカをした爺さんに婆さんの冷たい視線と言葉が突き刺さる。性癖によっては御褒美なものの、長年連れ添った夫婦にもうそんな新鮮な感情はない。
 ただただその言葉を素直に受け取って、爺さんは自分の不甲斐なさに首を傾げた。

「おかしいのう、昔はこんな事なかったんじゃが……」

 あまり自分のミスを気にかけていない爺さんに腹を立てた婆さんは、そこで言ってはならない禁断の言葉を言い放つ。

「言い訳はおよし! それとも道を譲るかい?」
「何を! 儂以外にこの仕事が出来るもんか!」

 自分の仕事を奪われる事が一番嫌な爺さんは婆さんの言葉に堪忍袋の緒が切れる。またミスをして本当に仕事を奪われては堪らないと、それから爺さんは自分の仕事に真剣に取り組むようになった。
 真面目に仕事をする伴侶の姿を見て、婆さんの表情に安堵の色が浮かぶ。

「全く、やっと気合が入ったかい。面倒な爺さんだよ」

 そうしてしばらくはマニュアル通りにちゃんと季節は巡っていたものの、ずっと同じ事を繰り返すと言うのは時に気が緩みがち。爺さんもまた例外ではなく、婆さんから怒られなくなって数カ月後、ついうっかりお盆を過ぎてすぐに秋の気配にしてしまう。

「あ……」
「ジジィ! しっかりおしっ!」
「わーっとるわっ!」

 爺さんは婆さんに怒られながらまた季節を残暑に戻すと、その後の季節の予定に目を通す。その予定は婆さんが書いたものだ。夫婦で協力してこれからも季節は巡っていく。

 たまに季節外れな天気になった時、耳をすませば空の上で爺さんを叱る婆さんの怒鳴り声が聞こえるかもね。

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