『さ』
時刻は深夜1時過ぎ。
配信も終わり、さて何をするかと思っていると鷲宮さんからDMがとんできた。
さは、作業通話の意味だ。
正直、昼夜逆転虫だからぜんぜん眠くない。
『り』と返すと直ぐに通話音が鳴る。
「おは」
「今何時かわかってる?」
「VTuberに時間感覚とか求めてんじゃないわよ」
「それもそうだ」
かちゃかちゃかちゃ、と明らかにアケコンを叩く音がマイク越しに音が聞こえる。
「起きて早々格ゲーを……?」
「これしないと目が覚めないのよ」
「音デカすぎて千虎ちゃん起きない?」
「は?四六時中一緒にいるあなたたちとは違って、こっちは週に一度会うか会わないかよ」
「倦怠期だ」
「通話は毎日してる」
「ごちそうさまです」
私は何をしようかな。
ツイートンに上げるようにイラスト描くか~~~
「……てかいいの?」
「なにが?」
「あいつの結婚式、断ったって聞いたけど」
「ああ」
結婚式というのはお兄ちゃんのやつだ。
だけど断った。理由はもちろん母で、あの人がいる限り、私が行くことはない。
「……なんというか、あんたもいろいろあるのね」
「同情?」
「は?寝言は寝て言いなさい。……私は良い家庭環境で育ったって自負してはいるけど、そういう家族を初めて目の当たりにしてちょっぴりショックだっただけ」
「家族じゃないよ。もう。私の家族はお姉ちゃんとお兄ちゃんと彼方だけ」
「そう、あ、そうだ。私も断ることにしようと思うんだけど」
「なぜ?」
「だって、私、たぶんあなたの母親殴るわよ」
何言ってんだこの人。
「まさかお兄ちゃん」
「酒って良いわよね。好き勝手、喋らせられる」
「……面倒だから変なことしないでね」
「うん、だから断ることにしたのよ、偉いでしょ?」
「はいはい、えらいえらい」
「じゃあ、今度飲みにでも行きましょうよ。サシで」
「彼方連れてこいって言うかと思った」
「言わないわよ。緊張するじゃない」
「そういう正直なところは嫌いじゃないよ」
「そ、ありがと」
私は自然と上がってしまった口角を誤魔化すように頬を膨らませた。