※近況ノートの『ねねかな二次創作』に登場した先輩二人が出ます。
「あ、彼方ちゃん!」
退社し、人通りの少ない帰路についていると突然背後から声を掛けられる。
驚いて振り向くと、そこには見知った顔ぶれがあった。
「お久しぶりです。先輩」
「久しぶり~!」
合気道同好会。昔、少しだけ所属していたサークルの先輩だ。
恵体のかわいらしい小柄の女性、法華津《ほけつ》 日奈《ひな》さんと法華津さんと同郷のすらっとしてかっこいい宇和川《うわがわ》 奏《かなで》さん。
いつも一緒の仲良し二人組で、辞めた後も交流を続けてくれて、履修の情報とかいろいろ助けてくれた先輩方だ。
飲み会で法華津先輩には口説かれたりもしたけど……
二人は相変わらずの良き身長差で密着して腕を組んでいる。
……ほぅ。
によによしながら二人を見ると、宇和川先輩が恥ずかしそうに腕を離そうとする。
それを拒否するように法華津先輩がぎゅっとくっついた。
内心拝む。
これは良きものだ。
いや、大学時代からそういう雰囲気はあった。
というより、宇和川先輩が法華津先輩に世話を焼いていて、法華津先輩をそれに甘えている感じで。
それに砂糖を入れて煮詰めたのが今の感じだ。
正直、昔から宇和川先輩が法華津先輩に向ける感情に察しがついてはいたけど……
宇和川先輩、法華津先輩と一緒にいるとめちゃくちゃ元気だし……
「ちょ、ちょっと日奈!こ、これはね、彼方ちゃん」
「奏と付き合ってるんだ」
「おめでとうございます!」
めちゃくちゃデカい声が出た。
「か、彼方ちゃん、受け入れるの早くない……?」
「彼方ちゃんには雪村さんがいるからそりゃそうでしょ」
「……そりゃそうか」
納得したように頷く宇和川先輩。
そりゃそうだけども。
そうこう五分ほど雑談をしていると、スマホが鳴る。
横目で見ると、寧々からのメッセージがきていた。
『女の気配を感じる……』
えっ、エスパー?
メッセージに驚いていると、前から見知った顔が歩いてくる。
「寧々!?」
「散歩がてら迎えに行こうかなと」
軽く手を上げる寧々は、私の所までくると前にいる二人に首を傾げる。
「たしか彼方の先輩……?」
「そうだよ、久々だね!雪村さん」
「お久しぶりです」
「やっぱり今も変わらず仲良しなんだ!……ん?迎えに?も、もしかして同棲を……!?」
寧々がこくりと頷く。
それに法華津先輩はきゃー!と黄色い声を出して跳ねる。
宇和川先輩は優しい顔をしてそれを見ている。
「じゃあお邪魔したら悪いし、私たちも帰ろうか」
「ん~、もう少し再会を楽しみたかったけどこれから奏ちゃんと一緒に買い出しいかなきゃだから」
「もしかして先輩たちも?」
「うん、そんなに大きくないアパートだけど一緒に部屋を借りて、一緒に住むことにしたんだ」
「そうなんですか!」
「私たちの連絡先はまだ知ってる?」
「はい」
「なら良かった。また今度話そうよ」
宇和川先輩の言葉に大きく頷く。
それに宇和川先輩は笑みを浮かべて、バイバイ!と大きく手を振る法華津先輩と一緒に歩き出した。
「寧々、帰ろうか」
「うん」
少し歩き、寧々が立ち止まる。
「さっきの人」
「……宇和川先輩?」
「うん。良かったね」
「うん、良かった」
バレバレだった恋は、やっと隣の大切な人に伝わったらしい。
これからの二人が幸せでありますように。
今の私たちの幸せを少しおすそ分けするように、祈った。
◆◆◆
「ねえ、日奈」
「どうしたの?奏」
「彼方ちゃん、まだ一段と美人になってたね」
「そうだね!あれは女優とかモデルでもやっていけるよ!」
「うん、私もそう思う」
何気ない雑談、ただ聞きたかったのはそういうことじゃなく。
悶々としていると日奈が腕から離れていく。
私の前を歩いて、にこりと振り返った。
「でも、私の中の一番は奏ちゃんだけだよ!」
街灯を背に、太陽のような笑みを浮かべる日奈に、私の中に芽生えたもやもやが枯れ果てていく。
「もう、不安がりだなぁ」
日奈の言葉に、弱い自分が嫌になりそうで、思わず俯いてしまいそうな私の顔を日奈の小さな手で上げられる。
日奈の可愛い顔が視界いっぱいに広がり、口に柔らかい感触が押し当てられた。
キスされた。
それだけで、私の顔は急激に熱くなる。
そんな私を見て、日奈は笑顔を浮かべた。
「奏ちゃんが私のことを大好きなように、私も奏ちゃんが大好きなんだよ。知ってるでしょ?」
「うん」
「なら、大丈夫!」
いつまで経っても泣き虫な私の手をいつも引いてくれたのが日奈だった。
10年、20年経って、今となってもそれは変わらない。
大好きな小さな手は今日も涙が出そうなほど温かかった。