「良い匂いがする人って遺伝子的に相性が良いらしいよ」
そんな話を耳にした。
「寧々、どうしたの?」
高校生になり、三か月が経過した。
今年の七月は、おおよそ人類が住める星とは思えないほどの猛暑で、私たちはなんとか人類の叡智によって生かされているんだとクーラーの効いた部屋で自覚する。
こてん、と首を傾げる彼方を見て、なんとなく、体を寄せてぎゅっとしてみた。
お腹辺りに顔を埋めて、大きく呼吸をする。
……彼方の匂いだ。
フルーツみたいで、嗅いでいるだけで幸せになる匂い。
世が世なら彼方の匂いで争いの一つや二つ起きていたかもしれない。
「ほ、ほんとになに?私、汗くさいかな?」
「いや、人間国宝香り部門のことを考えてた」
「部門分けとかあるの?」
顔を離す。
どこか心配そうに私を見下ろす綺麗な顔。
___ああ、好きだなぁ。
きっと、一生口に出せないそれを抱えて、私はもう一度、彼方のお腹に顔を埋めた。