ジネット
「皆さま、お久しぶりでございます。アニエス・オルレアンお嬢様の専属メイドこと――ジネット・ドーロンです。
このコーナーでは、職務に忠実で有能な従者である、このわたくしが読者の皆さまからのご質問にお答えいたします。
それでは、特別ゲストの登場でございます」
アニエス
「………………」
ジネット
「……お嬢様? もうカメラ、まわっておりますよ」
アニエス
「――はっ……! 思わず気を失っていたわ。これも儀式の疲れが残っているせいかしら」
ジネット
「お嬢様……しっかりしてもらわないと……また、ビンタですよ?」
アニエス
「ちょっ! あなた、それはひどいんじゃないかしら!」
ジネット
「…………(黙ってビンタの素振りを二回)」
アニエス
「さ、さて……最初の質問はなにかしら? は、張り切って進めていきましょう!」
ジネット
「承知いたしました、お嬢様。それでは、本日の質問ですが――
――〝異界術〟ってなんですか? いまいちよくわかりません――
――とのことです。確かに、劇中ではまだ全体像が語られていないので無理もありませんね。これは……お嬢様にお伺いいたしましょうか」
アニエス
「そうね……劇中で語られていることというと――」
ジネット
「〝異界〟の理を、こちらの世界で行使すること。行使のためには〝コランダム〟が必要ということですね」
アニエス
「ふふっ……そうそう。さすが、ジネットね! だいたいはあなたが言ったとおりよ」
ジネット
「……それだけですか?」
アニエス
「ちょっと……怖い顔しないでほしいわ。
詳しくは、これから少しずつ詳細が明らかにされていくはずだから、劇中で確かめてほしいのだけれど……そうね。少しだけ解説しようかしら」
ジネット
「わかりやすくお願いします」
アニエス
「……できるだけがんばるわ。
まず、劇中には魔術や錬金術との比較が描写されているけれど、基本的に、この二つはオカルトと思ってもらっていいわ。この世界には、娯楽作品なんかによく出てくる――いわゆる便利な魔法なんかは存在していないの。
その点、〝異界術〟はこの二つに比べると、少し特殊ね。こちらの世界では便利な魔法はないのだったら、あちらの世界――それが〝異界〟ね――の理を用いて、便利な力を使えるようにすればいいじゃない――そう考えたのが過去の異界術師たちなのよ」
ジネット
「概念的には魔法のようなものだけれど、そんなオカルトな力は本来、こちらの世界には存在しない――だったら、あるところからもってこよう、という考え方ですね」
アニエス
「そうね。ただ、まぁ……それには〝異界〟の存在を知っている必要があるわけだけれど……
〝異界〟がどのようにして、こちらの世界の人たちに知られるようになったのかは、ぜひ劇中で確認してほしいわね。
さて、〝異界術〟がどのように展開されるか、だけれど……」
ジネット
「劇中では序章の最後で、魔人召喚のために用いられましたね」
アニエス
「〝大コランダム〟を用いた召喚術式ね」
ジネット
「やはりお嬢様は、オルレアン家史上最強でいらっしゃるわけですから、普段からあれだけのお力を行使することができるのですか?」
アニエス
「それは……さすがに無理だわ。
あれだけ大規模な召喚術式が展開できたのは、〝大コランダム〟があったからね。普段用いる〝コランダム〟を使用しての術式展開ではあれほどのことはできないわ」
ジネット
「なるほど……〝異界術〟の行使は手持ちの〝コランダム〟の質と量が大きく影響するわけですものね。
そういう意味では、娯楽作品などでよく、魔力や気力などを用いて行使することが描かれるオカルトな魔術と違って、〝異界術〟は消耗品がないと力を行使することができない、現実的な術式なのですね」
アニエス
「ええ、そうね。劇中では、〝大コランダム〟と小石サイズの〝コランダム〟をそれぞれ一つずつ消費しているわ。私があといくつの〝コランダム〟を持っているのかが、今後の展開に大きく影響してきそうね」
ジネット
「最後に、〝異界術〟がどのような効果を持つのか――ですが……お嬢様の場合は〝音〟でしたね」
アニエス
「そうよ。ただし、私の場合はかなり特殊なケースね。
通常は、こちらの世界で力として認識しやすい自然現象――たとえば、火や水、雷や風といった力へ、〝異界〟の理を転換して用いる術者がほとんどね。これは、一般的な人間が考えうる超常的な力というものが、自分たちの関与できない自然災害なんかであることと関係しているわ。
いつの時代であっても、自分が関与することができない圧倒的な自然の力に、人々は憧れと恐怖を感じてきたのかもしれないわね」
ジネット
「それでは、なぜ……お嬢様は〝音〟として力を行使なさるのでしょうか」
アニエス
「……まったく。あなたがそれを質問するの?
ふふっ……私の場合は、〝音〟が超常的な力であると確信しているからよ。それには――《あの日》のあなたとの思い出が深く関係しているわね。
いつか劇中で《あの日》のことが語られるといいわね……」
ジネット
「……そうでしたね。わたくしにとっても、《あの日》のことは大切な思い出として胸の中の一番深いところで大切に保管しております。
いつか、そのような日がくることを楽しみにしております」
アニエス
「――それじゃあ、だいたいこんなところかしらね。
繰り返しになるけれど、〝異界術〟のことはこれからの劇中で少しずつ開示されていくはずだから、詳しくは今後の物語に期待してほしい――かしらね」
ジネット
「ありがとうございました、お嬢様。お疲れ様でございます。
これで本日の質問コーナーは以上となります。また、読者の方からのご質問がありましたら、こちらのコーナーで解説の場を設けたいと思いますので、何かありましたらお気軽に、ジネット・ドーロンまで申しつけください」
アニエス
「ええ。たくさんの方からのご質問をお待ちしているわ。これからの『異界術師と鋼焔のミネット』をぜひ楽しんでほしいわね」
ジネット
「――ところで、お嬢様。わたくしたちの出番はもうお終いでしょうか?」
アニエス
「……どうかしら? それは神のみぞ知るというところかしらね。読者の方の応援があれば、登場するシーンもあるかもしれないわね」
ジネット
「なるほど。わたくしとしても、こちらのコーナーだけの参加では、いささか寂しく思います。ぜひ、皆さまのご声援、お待ちしております」
アニエス
「それでは、本日の〝教えて! お嬢様~♪〟は以上よ。ぜひ、またお会いしましょう」
アニエス、ジネット
「「ありがとうございました」」