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まかないの思い出

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爆散4話更新しました。
ラグジュアリーな気分になれる職場でした。
ただし気分だけ。本人はこの頃になってやっと貯金ができるくらいの貧乏っぷりです。



 カフェ・レストランの良いところは賄いが出るところでした。厨房の経験年数の浅いスタッフが作ってくれていたのですが、たまにとんでも料理が出ることもありました。
 今日のこぼれ話はそのとんでも料理のことと、非常に美味しかったオムレツのことの二つ。




「闇鍋」


 金曜日はカレーの日でした。
 ロスになった食材を活かしたスーパーカレーが休憩室に用意されるのです。
 ほん怖で書いた理由で私はあまりカレーが得意ではありませんでしたが、ルーを少なめにして頂いていました。どうしても気が乗らない時は買ってきたり近くに食べに行ったりすることも。そこら辺は自由な職場でした。

 パティシエの子と休憩に入った時のことです。
 金曜日のカレーの寸胴が、例によって休憩室に鎮座していました。
 パティシエの子がレードルで中の具材を確認しています。

「今日は何カレー? マトン? ラパン? 」
「えーっと……なんだろこの粒……」
「つぶ」
「あっ! ブルーベリーが入ってますよ!」

 果たして持ち上げられたレードルの中に丸のままのブルーベリーが入っています。

「そのまんま入れたんだね。まあ許容範囲かなあ」
「えーと、他には……なんだろこの長いの」
「長いの!?」
「あっ! 腸ですよ。なんかの腸!!」

 持ち上げられたレードルには、開いていない何かの腸が引っかかっていました。つまり、中が未知の丸のまま。

「……このカレーは食べてはいけないです。前に出た半生ラパンレッグ並に危ないやつです」
「えー!!」
「蕎麦屋いこ。付き合ってよ。天麩羅奢っちゃる」

 仮に腸が綺麗になっていたとしても、あの長さをどうやって食べろと言うのか。立ち食い蕎麦を食べに行きました。
 間違えたんだろうなあ。そうじゃなきゃ入れないよなあ。




「ぴかぴかのオムレツ」


 潰れることが決まってから、たった一度だけ素晴らしくぴかぴかの、ふわふわまんまるなオムレツが出たことがありました。
 普段賄いを作らない、無口な料理人さんがスタッフが休憩に入るとぽんぽん焼いてくれたのです。あんまりすぐにくるくる出来るものだから、わたしを含め、ホールスタッフは交互にデシャップ(厨房とホールを繋ぐポジション)で一緒にオムレツが作られるところを見ていました。

 絵本の中から飛び出してきたみたいなオムレツは、とても優しい味。あんまり美味しくてすぐ食べてしまうのが惜しかったけれど、あったかいうちに食べないと勿体無い気がして結局あっという間にお皿を空にしました。
 すごく贅沢をした気分になれました。
 
 休憩上がりに、デシャップから中に向かって

「ご馳走様でした! いままで食べた中で一番美味しいオムレツでした!」

 と叫ぶと、無口な料理人さんはちょっと笑ってくれました。


 実はその料理人さんのお勤め最終日だったと知ったのは次の日のことです。お店が閉まる前に、彼は辞めてしまった。辞める前に、得意なオムレツを一人一人に振る舞ってくれたのだそうです。

 今でも、どこかで元気にぴかぴかのオムレツを焼いていてほしいなぁ。

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