第4話 巨大戦艦は墜ちない


 前回のあらすじ。

 メリー苦しみ&アンハッピーニューイヤー。


 

 ホテルから泣く泣く離脱したあと、向かったのは都内でした。地元よりも比較的求人が多かったからです。


 受けたのは、銀座の某企業が持つカフェレストランでした。あまりイメージは無かったのですが、調べてみると元々ティーサロンとレストランがあり、建物を増やす関係で新規に店舗を作るとのことでした。


 所謂オープニングスタッフは初めてです。

 それも誰もが知ってる、老舗の企業が持つレストラン! できれば色々なことを学んで次に活かしたい(と考える時点で薄ら何か察していたのか?)!


 立地が立地だけに、客層もリッチ。

 サービスはとても勉強になりました。また、簡単でも社会の動きや趣味を知っていると、ちょっとした会話に役に立つことも知りました。のほほん学生時代からほんのり進化したぞ常さん。


 スタッフ仲は良かったです。

 なにせ皆同期。前職は大体サービス業なので切磋琢磨できたと思います。働くスタッフはリッチじゃないので、仕事終わりに安い居酒屋でよくご飯を食べました。


 ある時、ソムリエの上司がお披露目前のシーズンコースを見てため息をついていました。他店のシェフや老舗のお店の旦那衆が来ていたのですが、そこで「銀座価格を超えている」と言われたとのこと。


 値段が馬鹿高いことには気付いていました。そして、恐らく価格が高いのと企業の名前の敷居が高いのとで、ターゲットの20代後半から40代のお客様が入らないことも。満席の日は稀で、夜には閑古鳥が鳴いていました。


「赤字、ではないですよね?」

「……上のレストランは赤字だよ。ロッシーニなんて珍しくも無いのにあんな値段つけるから……っと聞かなかったことにして」


 潰れる?

 潰れない?


 ここは天下の某企業。

 銀座と言ったら挙げられる三つのうちに入るでしょう。まさか、潰れるわけがない。

 でも、レストラン経営はどこだろうがシビアです。お客様が入らなければ食材はロスになります。売り上げがなければ土地代が、給与が払えません。

 いやいや、普通に考えてはいけない。この新しいビルは、会長の肝入りだとか。潰さないでしょう。潰れるはずがない。



 メリー苦しみますから2年が経過していました。慎重にはなりますが、いくらなんでも次はないと言う思いもあります。

 疑念はあるものの、私の中で「店舗は潰れない」と結論付けて、働き続けました。



 終わりは突然でした。

 企業の権力を握っていた会長が、不義をきっかけに他の役員達の下剋上にあって会長の座から降ろされました。

 会長肝入りのビルは売却。

 レストランも、持っていた企業の食品部ごとばっさり断捨離されました。



 

 赤字なら、切り捨ててしまえ、ほととぎす


 なるほど、企業の生き残り手段は色々あるのだな、と安い居酒屋でお別れ会をしながらしんみり思ったものです。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る