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犬、強制送還

真夏の炎天下、スーパーの駐車場に捨てられたミニチュアダックスフントは里親が見つかるまでの間だけ大阪の我が家にいた、しばらくして拾った当人の故郷である滋賀県奥琵琶湖の小さな田舎に暮らす親戚の老夫婦に預けられる。
実質押し付けたに等しいが、人懐っこいダックスを老夫婦はすぐに溺愛するように、これは押し付けた側にとっては幸いだと言えるだろう。ダックスの方も家は古いが生活にゆとりのある老夫婦と暮らす方がベターとも思う。
犬を拾った側の勝手な言い分だが、駐車場に放置した最初の飼い主が1番罪深いのは言うまでもない。
この犬は時々老夫婦の旦那が亡くなってから我が家に短期間ずつ戻ってきたが、基本は滋賀の老婦人の愛犬として飼われていた。
時は流れ拾った当人も帰幽し我が家の主人も代替わり、老婦人は高齢で老犬の面倒を見るのが次第に苦しくなる。
結果、疲弊する我が家に返送されここが犬の終の住処になるのかと、流浪の果てに流れ着いた犬を哀れに思い、飼い主としての資格もない自分だったがなんとなく覚悟した。老犬の最後を看取るまで世話をする覚悟をだ。
しかしその覚悟は徒労に終わる、我が家の主人の放つ鶴の一声で老婦人の元へと犬の強制送還が決定したからだ。無駄吠えするヨタヨタの老犬から解放されるのだから内心ホッとするかと自分でも思ったが、そんな気分にはならず空を切ったちっぽけな覚悟は行き所を失い、犬に対する愛情のない同情だけが残る。
なんとも消化の悪い結末だが反論を許されない自分の立場でできることといえば、犬を車で滋賀県に送り届けることぐらいだろう。
こうして秋の紅葉が鮮やかな琵琶湖外周の強制送還ドライブが老犬と共に始まるが、それはまた別の話だ。

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