開催中の「カクヨムコンテスト10」、まずは「妖精のお花屋さん」で短編に応募いたしましたが、長編のほうも新作を準備しておりますので、一部登場人物の微調整などが済み次第、異世界冒険部門に応募しつつ公開予定です。
筆者としては今まで取り上げてこなかった、異世界ファンタジー界隈で多く登場する要素を含みつつ、その単語やよくセットで出てくる要素は絶対に使わない(笑 筆者なりにこのテーマと向き合った作品に出来ればと思います。
公開までもう少々お待ちくださいませ・・・
また、「妖精のお花屋さん」完結後も星やハートをいただいておりまして、本当にありがとうございます!
先程、ファンタジー短編部門でどんな作品が出ているのか、ランキングを覗いていたところ、「妖精のお花屋さん」が20位に入っていて驚きました・・・皆様の応援に、心より感謝いたします。
そして・・・皆様にいただいた反応から、唐突に生まれてきたエピソードがありますので、御礼も込めまして番外編SSとして公開いたします。
筆者の作品を複数読んでくださっている方々に、よりお楽しみいただける面もあるかとは思いますが、ここまで訪れてくださった皆様に、あの世界の今まで見せていなかった部分も、お届けできていれば幸いです。
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『妖精の生まれる時』
それは、いつもと同じように、早起きして花壇のお手入れをしていた朝のことだった・・・
「あれ? ここにお花は植えてない気がするけど・・・」
他のお花に囲まれながら、芽吹きつつあるように見える何かが、土から顔を出している。
「ねえ、ルル。これって何か分かる? ほんのりと力も感じるような・・・」
「ええ、少し珍しいものを見られたかしら。私が生まれた世界とは違えど、この気配は推測できるわ・・・新しい妖精が誕生する予兆よ。」
私の顔のすぐ傍に浮かびながら、それをじっと見つめて、ルルが答えた。
「えっ・・・・・・この花壇から・・・新しい妖精さん?」
「何をそんなに固まっているのよ。確かに、これが頻繁に起こることなら、世界は妖精種で溢れ返っているけれど、此処にも妖精達がやって来る以上、どこかで必ず起きていることよ。」
ルルと繋がってから、基本的に人間には見えないけれど、世界には妖精が少なからず存在していることは分かったし、元はお花の妖精であるルルとこの花壇を作って、妖精のお客さんもふらりと訪れてくれることは、本当に嬉しく思っている。
あの時、力を大きく使ってふらふらしていた妖精さん・・・今の名前はルリちゃん・・・を見付けて、回復させるため慌てて花壇に運び込んだことが縁で、私達のお店を手伝ってくれるようになった、りいねちゃんとも出会えたわけだし。
でも、今のこれって・・・この状況って・・・
「そ、それは分かるけど・・・この花壇って、ルルと私で妖精の力を込めて作った、妖精さん達が過ごしやすい場所だよね。」
「ええ、当然でしょう。作り上げた当人であるシオリが、何を言っているのよ。」
「その・・・これからここで生まれてこようとする妖精さんって・・・なんだか、私達の子供みたいじゃない?」
「・・・・・・へえ・・・それは面白い考えね。」
私の言葉を聞いて、ルルの顔に妖しい笑みが浮かんだ。
「ふえっ? ルル、いきなり人間サイズになって、どうしたの?」
二人で一緒に寝る時や、楽しみなお出掛けの時以外は控えているはずの、宝玉に溜めた魔力を消費しつつ私と同じ背丈になった、ルルの姿が隣にある。
「あら、これから生まれてくるこの妖精を、私達の子として扱いたいのでしょう? それなら、ここから育ってゆく間にも、私達で祝福をしないとね。」
「わ、分かったから、少し落ち着いて・・・!」
私以上に乗り気になったルルに引っ張られながらも、花壇に芽吹いた妖精の『蕾』を護るように、私達の力を注ぎ込む。
「今日のところは、これで良いわ・・・ねえ、シオリ。子供だなんて考えたら、朝からこうしたくなったのだけど、いいかしら?」
「わ、私も望むところだけど、お店でりいねちゃんを待ちぼうけさせるのだけは、無しだからね。」
「ええ、子供を持つ身になるのだし、後輩にだって配慮しないとね。」
「うん・・・・・・」
微笑みながら顔を寄せてくるルルを、私も受け止めて、短いけれど幸せな朝の時間を過ごした。
それから、毎朝のように私達の力を注ぎ込み、少しずつ大きくなってゆく『蕾』を見守り続けて・・・ついにその日はやって来た。
「シオリ・・・妖精としての感覚がこう告げているわ。そろそろだと・・・!」
「いよいよなんだね・・・! お店が休みの日を選んでくれるなんて、生まれる前から親孝行な子だなあ。」
そのままルルと二人で、『蕾』の傍に留まり続ければ、十分に膨らんだそれは小さな動きを見せ始め、やがて花が咲くように先端を開いて、あどけない表情が顔を覗かせる。
「生まれた・・・!」
「ええ、力をたっぷりと込めたおかげか、とても元気そうね。」
『・・・・・・!』
そうして、もぞもぞと『蕾』から這い出した新しい命が、私達のほうへと飛んでくる。
「もしかして、ちゃんと分かってる?」
「もちろんよ。『蕾』の中でも、護ってくれた力はしっかりと認識できるはずだわ。」
『・・・! ・・・!』
私とルルがぴたりと身体を寄せ合う真ん中に、生まれたばかりの妖精が飛び付き、私達の顔を嬉しそうに見上げていた。
「それじゃあ、早速やるわよ。」
「うん・・・!」
『あなたの名前は・・・ルシア!』
『・・・・・・!!』
二人でずっと考えてきた、私達の呼び名から取った文字と、『光』の意味を重ねた名前を伝えれば、喜ぶ表情と共に、しっかりと繋がりが結ばれたことを感じる。
「ふふっ、良いものね。」
「うん、私も幸せ。」
『・・・!』
私達にとっての新しい光と、三人で抱き合えば、今まで以上の温かさに包まれている気がした。