昨日の更新で、短編「妖精のお花屋さん」は完結いたしました。
ご覧くださった皆様、星やハートやコメントをくださった皆様、本当にありがとうございました!
カクヨムコンテスト10の短編は上限1万字ということで、準備段階では多少の余裕はあるかと思っていましたが、終わってみれば1文字単位で切り詰めを考えることに・・・(完結時、9993字)
というわけで、本編の流れからは少し脇道に逸れることもあり、カットしたエピソードの一部を完結記念SSとしてお届けしたいと思います。
一応は、本編を最後までお読みいただいた後、ご覧になることを推奨いたします。
お楽しみいただけるものになれば幸いです。
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『まだ知らない世界』
「はい、りいねちゃん。お茶をどうぞ。」
「あ、ありがとうございます! 色々と助けていただいた上に、飲み物まで・・・」
ルリとの繋がりを、しっかりと結び直した後、お店の奥で詩織さんがお茶を出してくれる。
「気にしなくていいよ。ルリちゃんも喜んでるし、妖精と繋がりを結べる子に出会えるなんて、私もすっごく嬉しいから。」
『・・・・・・!』
そんな言葉と、私の隣で楽しそうにするルリにも引っ張られて、美味しい紅茶をいただきながら、初めてのことばかりで分からなかった話などを、少し尋ねることにした。
「あの・・・さっきから何度か話に出ている、魂ってどんなものなんですか?
ルリと私は、それが削れているって・・・」
「うーん・・・よく物語に出てくる、魂のイメージそのままでいいと思うよ。肉体とは別の、精神的な自分の存在かな。」
「それって・・・削れて大丈夫なものなんですか?」
「そうだね・・・これは又聞きの話だけど、前にとある事情で、魂が半分くらい別のところへ行ってしまった先輩は、一週間くらい寝込んじゃったって・・・」
「ええっ!?」
「でも、その時も何とか回復して、色々あってもう半分も戻ってきたその人は、人一倍・・・というか数倍は元気になってるけど。」
「え・・・? ええ・・・!?」
どうしよう、頭が全然追い付かない。私が寝不足なこととは、きっと関係ないよね。
「シオリ・・・人間が言う『目が点になる』というのは、こういう状態だったかしら?」
「あっ、りいねちゃんには、まだ難しい話だったかな・・・」
ルルティネさんが助け船・・・とは少し違う気がするけど、そんな私の状況を伝えてくれる。
「今の話は、また機会があった時にして・・・りいねちゃんの魂が削れた分は、ルリちゃんの力が埋めてくれてたと思うし、
そのルリちゃんのほうも、うちの花壇で行動に問題が無いくらいには回復したから、気にするほどの影響はないはずだよ。」
『うん、だいじょうぶ!』
私を安心させるように、ルリも隣でうなずいてくれた。
「そ、それなら良かったです・・・さっきの話みたいに、削れた分が戻ってきたりはしませんよね・・・?」
「うん・・・普通に考えたら、消滅してるんじゃないかな。」
「まあ、見ていたわけではないから、何も分からないというのが正直なところね。
力の反発が発端なら、状況が似ている事例から考えて、別の世界に飛ばされている可能性もあるかしら。」
「いや、ルルがそれを言うと、冗談に聞こえないからね?」
「え・・・・・・?」
『・・・・・・?』
笑みを浮かべて言うルルティネさんと、それに苦笑を返す詩織さんに、私とルリは並んで首を傾げた。
「そ、そういえば、お二人がルリを助けてくれた時の花壇が、どこかにあるんですか?」
「うん! お店とは別の、私達の普段のお家だね。」
「その花壇は、シオリと私の力を込めて、妖精にとって居心地の良い場所にしているわ。
今はこの店の中も、似た状態にしているけれど。」
『ここも、あっちも、すごくきもちいい!』
「力というのは、まだよく分かりませんが、お二人とも本当にすごいんですね。」
「えっ? ルルはともかく、私は全然大したことないよ?」
「まあ、力の方向性の違いなどもあるけれど・・・シオリの言う通りね。妖精から見ても、訳の分からない力を持った人間というのは、少なからずいるものよ。」
「そ、そうなんですね・・・」
詩織さんが、大したことない・・・? お二人の知り合いには、どれだけすごい人達がいるんだろう・・・
「あっ、りいねちゃんのこと、うららさんや先輩方にも伝えたほうがいいよね。」
「ええ、それはそうね。道端でうっかり見付けられて、シオリに連絡が行く可能性もあるでしょうし。」
「うっ・・・誰とは言わないけど、そうなったら『何で教えなかったのよ。』って怒られそうな予感が・・・よし、すぐに報告しよう、そうしよう。」
「あ、あの、そんな大変な人達に会って、私大丈夫でしょうか・・・」
「ああ、ごく一部、ちょっと厳しい人もいるだけで、悪い人達では絶対にないよ。私もたくさん助けてもらってるし、本当に頼りになるんだから。」
そう言って微笑む詩織さんが、数日後に紹介してくれたのは、金色の髪のすごく綺麗なお姉さんや、普段は遠い所にいるらしい本物の魔法使いみたいなお姉さんなど、本当にすごい人達ばかりだった。
詩織さんが恐れているらしい神社のお姉さんも、確かにちょっと厳しそうだけど、私がお店のお手伝いを始める時にはアドバイスをしてくれて、頼りになるという言葉も実感した。