さて。そろそろ長編を書きたいと思いつつ、なかなかモチベーションが上がらなくてずっと悩んでいたんですが。もういいや、いってまえ! まだ半分しか書けてないのにぶちかます、見切り発車的新作をお届けします。
題して『桜と幽霊』。
昨年夏にアップした『ファイブ・デイズ・グレイス』の続きで、『レンタル屋の天使』シリーズ第三弾ということになります。
続編ですから、パート1、パート2が下敷きになっています。
前二作がどんな作品だったかは、ぜひお読みいだだければ。
えー? めんどくさーいという方のために、ざっくりと前二作のあらすじを書いておきますね。
主人公は小賀野類(通称ルイ)。二十歳。家族構成は両親とルイ。一人っ子ですね。ルイはちと事情があって、成人するまでずっと実家に『幽閉』されていました。
パート1(『レンタル屋の天使』)は、ルイが実家(ルイは家を鶏小屋と表現します)を脱出するまでの苦闘を描いた作品です。長い間外界から切り離されていたルイですから、当然外に出るには馴化(馴らし)というプロセスが要るわけで。その馴らしの舞台になったのが、てっぺんはげのおっさん中里店長が経営するレンタルショップハッピー。
店長は表で普通のレンタルショップを、そして裏でレンタルカレシ業を営んでいます。裏と言っても非合法ではなく、店の看板は上げていませんよということなんですけどね。
そのレンタルカレシに登録したルイが、客とのやり取りを通じて自分を社会の水に馴らす……はずだったんですが。来る客がイレギュラーな人ばかりで。最後はとんでもないオチになってしまいます……というのがパート1。
パート2(『ファイブ・デイズ・グレイス』)は、ルイの居場所探しのおはなし。実家(鶏小屋)を脱出したあとかつてのかてきょ前沢先生とシェアハウスで暮らしていたルイでしたが、D大合格を決めて浮かれていた矢先に先生からシェア解消を突然言い渡されて大慌て。
中里店長のつてで事故物件専門の岡田不動産にいわく付き戸建て物件を紹介してもらったものの、いかに事故物件とはいえ一人では家賃を払えそうにありません。どうしようかと悩んでいたところに、変なコスプレをした学生っぽい弩級美少女(矢口萌絵 通称めーちゃん)が大荷物を背負って登場します。
義父の心配性が行きすぎて、女子校にいる時間以外家に閉じ込められていためーちゃん。自分と似た匂いを感じ取ったルイは、中里店長や岡田さんと組んでめーちゃんの実家脱出を成功させようと奮闘しますが……というのがパート2。
◇ ◇ ◇
ルイの容姿は特殊です。ひょろっと細っこくて頼りない。でこぼこが極端に少ない。こう言っちゃなんですが、宇宙人みたいな体型です。でも性格は温厚かつ楽天的で、積極性や社交性も高く、中里店長のえげつないツッコミも余裕でさらりとかわします。中性的な容姿と角(かど)のない穏やかな性格が『天使』と呼ばれるもとになっていますが、本人はそう呼ばれることをものすごく嫌がっています。
ルイが天使と表現されるもう一つの理由があるんですが、ネタバレになるので、あらすじでは書きません。
パート2でルイのシェアメイトになっためーちゃんは超ハイグレードの美人ですが、複雑な生い立ちもあって自分の容姿に強いコンプレクスを持っています。ルイに懐いたのは親切だからというだけでなく、ルイが見るからに草食系で自分の容姿に関心を示さないから。でも、ルイみたいなタイプは少数派ですよねえ……。
長い間囲い込まれていたお嬢様ですから、こてこての世間知らずです。でも自分の知らなかった世界にこれでもかと憧れ&好奇心を抱いていて、今は何を見聞きしても新鮮という状態。天然気味の食いしん坊で、気を許した人の前では喜怒哀楽を素直に表しますが、「この人だめ」と感じた相手のアプローチはしっかり遮断します。もちろんルイは「自分の素を出してもいい人」の側に置いてあります。ルイは、めーちゃんに受容と遮断の中間がないことをすごく気にしています。
レンタルショップのバイトをこなせるくらいですから対人関係全滅というわけではないんですが、濃い人付き合いの経験がない影響はこれからいろいろな形で出てきそう。
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さて、これからお届けするパート3の『桜と幽霊』。パート1がミステリータッチ、パート2がどたばた劇だったので、パート3はまた趣向を変えます。パート2は五日間それぞれを章に仕立てたのですが、パート3は前章、後章の二章立て。それぞれの章にいくつかの話を並べる、随筆風の展開になります。
前章の『桜を観る』と後章の『幽霊探し』との構成。時系列はいじっていません。パート2直後の三月末から入学式直前の四月初めまでを前後に分けてお届けするという形です。
パート2で、ルイの義父である植田さんが「しっかり準備しろ」と言いましたよね。ルイもめーちゃんもこれまでとは全く生活パターンが変わるんです。学部の違う二人のスケジュールは別々になりますから、大学生活が始まればルイにはめーちゃんのサポートをする余裕がなくなります。本格的な大学生活が始まる前に、それぞれが心身を新生活用に整えなければなりません。
パート3は、新たな生活をスタートさせる前の馴らしのおはなしということになります。
月末月初に小休憩を挟みながら、だいたい一ヶ月弱かけてお届けしてまいります。相変わらず変な話ですが、楽しんで読んでいただければ。
明日からスタートです。