先日、春野セイさまからコメント付きのレビューをいただきました。丁寧な応援コメントもたくさん(ほんとにたくさん)いただきまして、書いた当時のことを思い出し、拙作のことをよく考える機会をいただきました。誠にありがとうございました。
春野さまの「よもやま話」、すごくおすすめです。カクヨム公式薬箱がもしあったのなら、推薦したいくらい。創作する上で擦りむいた心を癒してくれる、私にとって常備薬のような作品です。
よもやま話 - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16818093076413617552
ぜひご一読いただき、癒されてください☺️
また、春野さまからコメントいただくなかで、登場人物の持留がわがままを言う話が浮かびました。
「後ろ向きというか、自己否定が強い人」という言葉を持留に対していただいたのですが、あまりにもその通り過ぎて、そんな持留が、斉賀に対してわがままを言えるくらいの間柄になれたなら……とふと思い、書いてみた次第です。
また、もっと二人のラブラブが見たいという言葉をくださり、とても背を押されました。
ほんの1,300字程度の短いお話ですので、以下に載せてみます。
いつか本編の方に収納するかもしれません。
恥ずかしくなって消してしまったら、その時はすみません🥲
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⚠ネタバレ……? というかこぼれ話なので、本編読まないと何が何やらだと思います。ご注意ください。
(本編→ https://kakuyomu.jp/works/16818093074315654308)
「きれいな友だちは」こぼれ話
大学四年の五月(第二十八話の隙間):かわいいわがまま
持留裕は遠慮がちで、何度も勧めないと決して受け取らない。それは物にしろ、目に見えない愛にしろ、同じこと。
だから、斉賀永一郎は別れ際、彼に囁かれた台詞が信じられなかった。
「さびしい、離れるの。もっと一緒にいたい」
強く結ばれた唇は不貞腐れているみたいに尖っていて、わがままを言っている自覚が本人にあるのがなんとなく分かる。
その出で立ちが寂しそうで、言葉を失って彼を見つめた。
これが二人きりの家だったら、迷いなく抱きしめて頭を撫でて、今の気持ちを伝えるだろう。
けれど、ここは大学の敷地内で、すぐ近くには人がいなくても学生の喧騒がよく聞こえる、アスファルトの通り道だった。
昨晩、斉賀の家に泊まって二人で過ごし、今日は共に大学に来た。今は各々の目的地までの道中だった。
さすがに人目があるところで、たわむれるのは斉賀も恥ずかしい。というか、そんなことをしたら斉賀の五倍は人目をはばかるこの子は絶対に困った顔になる。分かり切ったことだった。
どうしよう、と思いながらたまらなく嬉しい自分がいた。珍しく素直に心情をそのまま見せてくれる、目の前の男があんまりにも可愛くて、胸の奥が温かく、心臓がどきどきした。
「ごめん、わがまま言って」
持留は、何も言わない斉賀を前にして、視線を地面に降ろす。嫌だ、謝らないでいいから、もっと可愛いことを言ってほしい。斉賀は目の届く範囲に人がいないことを確認して、持留の腕をつかんでひっぱった。半袖から伸びる二の腕は、冷たくてやわらかい、よく知っている。
通路沿いに伸びっぱなしになっている、生け垣の裏に連れていって座り込む。突拍子も無い行動に、ちょっと面食らいながらも、持留も斉賀の横にちょこんとしゃがんだ。
斉賀なりに考えた、一番素早く人目を忍ぐことができる方法だった。緑に隠れてやり過ごす、マヌケだけれど大真面目だった。
しゃがんだまま横から抱くように、持留の体を腕で包む。
「永一郎」
静かな声で名前を呼ばれる。顔色をうかがうと安心したような、困ってるようなどちらとも取れるような顔で笑っていた。持留は、回した斉賀の腕に額を寄せて目をつぶった。
「ありがとう。嬉しい」
「俺、どうしたらいいのか分からなくて。これであってるか」
「うん、あってる」
「裕……こんなこと言うの初めてだよな」
「そうだね、我慢しないとって分かってるんだけど、会ってる間すごく幸せだったから。また、僕がバイトでしばらく会えないし。なんか寂しくなっちゃって。わがままで困らせちゃったね」
腕の中の彼は、素朴な言葉で気持ちをこぼす。どこか落ち込んでいる横顔。
その言葉ごと掬い上げたくて、強く抱き寄せた。茂みに隠れて仮初めの二人きりだった。
「こんなかわいいわがまま、世の中にあるんだな」
こめかみに口づけを落とすと、視線が絡んだ。あっと思う間もなく、唇にキスをされた。軽くくっついて離れていく。外で、可愛くてたまらない人とこんなことをしている。もう、収拾がつかなくなってしまいそうだ。
大学生たちのざわめきを遠くに感じながら、手を握りあって、しばらくそのままでいた。二人の寂しさがとけあう時間だった。言葉よりも伝わる。
目をあわせて、持留が控えめな笑みを浮かべる。 「もう大丈夫、元気になった。ありがとう」
斉賀は肯いて、名残惜しい手を離して立ち上がった。アスファルトの地面に戻って、二人はまるで何ごともなかったかのように、友だちの顔をして歩いていった。
このあとそれぞれ用事が控えていたから、愛しいタイムロスの分、少しだけ早歩きで。