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次回 第三十話 ファレスティカ門外縁部

 すっと、傍らで気配が沸いた。

 振り返ると、小さな男の子が私の傍らに控えていた。驚いて見ると、先ほどの花弁と同じ蒼色のベスト、その左胸元には桔梗咲きの朝顔の刺繍が入っていた。
「ありがとうございます。助かりました」
 可愛い子だった。
 だけど、童子は私の言葉には応えなかった。代わりに歩み寄ると、静々と両手で青色の魔法符札を私へと差し出した。
 手渡された蒼い魔法符札は、古典的な綴り文字で、〈ミアの花弁昇降機〉と描かれていた。
 煌びやかな衣装をまとった童子が、恭しく私に一礼して消えた。

 またも、びっくりした。
 えっとぉ……これ、使役魔法だよ。
 こんな間近でみたの、初めて。というか、凄いよ。私、使役魔法を使っちゃった。

 使役魔法っていうのはね、武闘派のメートレイア伯爵家から最も縁遠い魔法だった。帝都で一番に愛用しているのは、宮廷貴族の方々だと思う。
 武家の中の武家、年中、妖魔狩りばっかりしているメートレイア伯爵家の関係者は、魔法を戦い以外のことには使わない。あえていえば、ほんの少しだけ、ペイエン系の生活支援魔法を使うくらい。
 使役魔法っていうのは、いま見た男の子みたいな疑似人格を与えられた聖霊を使い立てして、身の回りの色々なお世話をさせる魔法なの。例えば、暖炉に火をおこしてもらったり、午後のお茶の時間に、ティーセットやお菓子をガーデンテラスまで運んでもらったり、靴磨きもしてくれるし、お掃除や、ベッドメイキングまでもお願いできる――凄く便利で優雅な魔法だった。

 でもね、私にとって、使役魔法は遠目で眺めるだけの存在だった。

 あまり魔法力は要らないけど、ちゃんと使える聖霊を作ろうとしたら、膨大な量の法符プログラムが必要だった。それも優雅に使いたいんなら、聖霊に着せる衣装や仕草はもちろん、やってもらうお仕事のシークエンスを逐一、細かくプログラムしなきゃいけない。
 帝都では、宮廷貴族相手にそんな使役魔法の法符を作る法符師が、数多くお店を出していた。西区清水通りとか中区大津通りとか高級雑貨店が立ち並ぶ界隈なら、お金さえ出せば、好みの可愛らしい使役魔法と聖霊をオーダーメイドしてくれる。

 そう、お金さえ出せばね…… 
 これは、質実剛健がモットーのメートレイア伯爵家が、一番に嫌う考え方だから、使役魔法が欲しいなんて言おうものなら、お父様とお母様だけじゃなく門徒の天空騎士たちにも、絶対に笑われるに決まっている。

 そこまで思いを巡らせて手にしているものに気付いた。貴姫様の使役魔法を込めたまりに美しい魔法符札を、私、手に入れてしまった。

 どうしよう……
 
 いきなり不安になった。この〈ミアの花弁昇降機〉って、とんでもない使役魔法だよ。だって…… 普通の使役魔法は、小さな魔法力しか使えない贅沢な玩具に過ぎない。いわく、ポットパイよりも重い物は持てない。紅茶を満たしたティーポットを運ぶのだって、聖霊さんが二人がかりなの。(これね、とある法符師様の店先に飾られた写真が、凄く可愛いの)
 こんな巨大な花弁を出現させて空を優雅に舞うなんて魔法は、大津通りで一番人気の〈子栗鼠堂〉でも、絶対に作れないはず。
 それに、さっきの男の子、衣装はもちろん、一瞬だけ見せた笑顔が凄く可愛かった。あんなふうに透明な笑顔が、人の手でプログラムできるとは到底思えなかった。
 もしも、お金で換算したら、どんでもない金額になると思う。

 貴姫様、凄すぎる。



こんな感じです。
ただいま、制作中っ! 

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