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七夕:夢はあまり見てないけど

・こちらは2024年の「友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?」の七夕用に作成したSSです。
・時間軸としては多分プール行く前です。
・以下本編

『 ちんこ! そらしま あおい (17) 』

梅吉は無言で短冊を破り捨てた。

「あー!おいお前なにすんだよ、自信作だったのに!」
「公衆の面前でちんこ!とか書いてるやつのどこが自信作なんだよ脳みそ腐ってんのか」

青仁が悲痛な叫びを上げるが、こればかりは梅吉の方が正しいと思う。据わった目つきで、梅吉は青仁を見ながら詰る。頼むから公共の場という概念を早急に理解して欲しい。

「いやそこじゃなくて、あれ俺がめっちゃ頑張って書いた、俺渾身のJKが書いてそうな文字だったんだけど?!おら見ろよこの可愛さを!」

そう言って妙に自信満々な青仁が短冊の切れ端を梅吉に見せつける。たしかにそこに書かれている文字は、普段奴が書く文字とは違い、ちまちまとして丸っこい、可愛らしいものではあったが。

「オレどっちかってと綺麗なおねーさんには普通に上手い字書いて欲しいんだよな。丸文字もギャップ萌え的には良いのかもしれないけど」

今の青仁のビジュアルであったら、明朝体的な美しさの文字を書く方が似合うだろう。少なくとも梅吉はそっち派である。

「うるせえお前の好みなんか聞いてねえんだよ。これは俺がJKに書いて欲しい文字であって、今の俺のビジュアルにあった文字じゃないんだから。ていうかそういうこと言うならさ、お前こそ丸文字で短冊書けよ!ゆめかわ系美少女は絶対丸文字だろ?!」
「オレの字は丸文字とは程遠いって知ってての発言か?つかこんなところでエキサイトすんな」

なお現在地は地元のスーパーの一角、家族連れのちびっこ向け『七夕のお願い事をしよう』コーナーである。店頭で明らかに投げ売りされていたおしるコーラの山に青仁が吸い込まれた結果、何故かこんなところで子供向けの代物に引っかかってしまったのだ。

「つかそもそもオレ書くことないし。お前みたいに潔くちんこ!とかやる気力ないし」
「いやあれはどっちかってと明らかにJKが書いてるのに内容がド直球下ネタっていうアンバランスさでいたいけな少年の性癖を破壊できないかなって思」
「クソみてえな思いつきを実行してんじゃねえよ!」
「今思うとセックス!とかのがインパクトあるがな。よし書き直そう」
「おい馬鹿やめろ!」

素直に短冊を拒否しようとしたら、最悪の真実が露呈してしまったのだが。こいつは何を考えているんだ?何も考えていないのか(自己解決)

「ちんこもセックスもだめなら何書けばいいんだよ。うんこ?」
「いい加減小学生レベルの下ネタから離れろ。なんかこう、ちゃんとした願いとかないのか」
「んな事言ったら金しか書くことなくなるけど」
「一瞬で夢消し飛ぶじゃん」

とはいえ高校生の願い事なんて大概はその一言に尽きるだろう。この世は金さえあれば大抵どうにかなるのだから。後一年ぐらいすれば受験合格!あたりが願いになるのかもしれないが、都合の悪い現実は見なかったことにしていくスタイルである。

「じゃあ聞くけどお前は金とちんこ以外の願いあんの?」
「ないけど……あっ思い出した、ひとつあったわ」
「何?」
「女子とまともに話せるようになりたい」
「あー……」

そういえば、男子高校生の宿願はもうひとつあったのだった。自らが女子と化してすらも女子との縁が生まれていない現状、これこそ星に願うべき案件なのではないだろうか。

「それ言われちゃうと俺もそれになるんだけど」
「だよなー。もう二人揃ってそれ書いとこうぜ」
「あまりにも悲しい男子高校生の短冊になるけどそれで良いのか?」
「大丈夫だろ、たまに混じってる明らかに大人が書いたっぽい短冊とか、世知辛いこといっぱい書いてあるし」

子供の無垢な将来なりたいものを望む短冊に紛れるように、転職したいやら残業代が欲しいやら、社会の闇が濃縮還元されたような呪いがちらほら見えるので、今更ひとつぐらい現実が増えたって問題はないだろう。

「……将来の夢を無邪気に書いてた時があったってことは、俺らもいつかああなるのかな」
「やめろしみじみ言うんじゃねえ!オレらが大人になる頃にはまた事情が変わってるはずだって!多分!」
「てか自分で言ってて思ったけど、将来の夢書いたらもうちょっとマシになりそうじゃね?」
「将来の夢、あんの?」
「……」
「……」

物の見事に双方沈黙する。明日は明日の風が吹く、的な人生方針で生きている元男子高校生ズに、明確な将来の夢なぞあるはずがなかった。

「もう諦めて普通に女子とお近づきになりたいって書こうぜ」
「そうだなー……」

直視する必要のない現実を強制的に認識させられてしまった二人は、妙に低いテンションで短冊を書き始めた。
なお、青仁の傍には当たり前のような顔で箱買いしているおしるコーラが置かれている為、テンションが低かろうとも真面目な雰囲気にはならないしできない。

「……」

しかし、改めてこうして短冊を書きながら思う。将来の夢。将来というものの現実味が増してくる年齢だが、増してくるからこそ夢が見れなくなるものである。だからこそ、女子と話せるようになりたい、などの俗物的な願いに収束してくる訳だが。
笹にかけられた子供の短冊たちは、その拙い文字で精一杯夢と希望を表現している。それを微妙に斜めな気持ちで眺めてしまうあたりが、思春期が思春期たる理由な気もするが。斜めなりに、思うところがないわけでもないので。

例えば、熱心にしょうもない短冊を書く、隣にいる奴に対してとか。

「なんかやけに時間かかってるけどどうしたんだ?」
「丁寧に字を書くと時間かかるんだよ」
「お前大して字上手くないんだから、無駄な足掻きとかする意味なくね?」
「うるせえ。もう書き終わったし、早く飾って帰るぞ」

アホはアホなので、やはり梅吉の行動には気がついていなかったらしい。表面には宣言通り「女子(青仁以外)とお近づきになれますように」と書いてある短冊を、裏が奴に見えないように細心の注意を払いながら、笹にくくりつける。

『隣にいる奴ともうしばらくバカをやれますように』なんて、クサい願い事を見られるわけにはいかないのだから。

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