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エイプリルフール:梅吉、魔法少女になるってよ

・こちらは2024年の「友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?」のエイプリルフールに掲載した短編です。
・エイプリルフールなので本編には一切関係ありません。
・エイプリルフールなので魔法少女パロです。
・以下本編






 突然だが、梅吉は魔法少女らしい。何を言っているのかよくわからないと思うが、多分夢オチ的なサムシングだ。

「だから早く変身しろって!」

 そうじゃなかったら、青仁が魔法少女のマスコットポジションとかいうイカれた魔法少女モノは爆誕しないだろうし。

 ちなみに事のあらましとも呼べないあらましとしては、朝起きたら横に露出度控えめのバニーガール姿の青仁が居て「お前は魔法少女だ」と言ってきたあたりである。ちなみにこの青仁に生えているウサ耳と尻尾は引っこ抜こうとしたところガチで悶絶していた為、おそらく生えている。その時点で梅吉は今自分は夢を見ていると判断していた。こんな変な夢を見るなんて、布団をかけすぎてしまったのだろうか。春先だし、気温を見誤っていてもおかしくはない。

 そんな青仁に急かされるように外に出てきた梅吉は、こうして無事魔法少女モノのお約束通り、街中にて敵に遭遇し、変身を要求されていたのだが。

「いやなんで変身しなきゃなんだよ」

 普通に変身を拒否していた。

「魔法少女の変身ってことはさ、なんかピンクっぽくてぶりぶりの男が着るにはハードル高い感じの衣装なんだろ?誰が好き好んでそんなヤベえの着るかっての。ていうか戦うとか面倒だし。やり方わかんないし。だってオレ一般人だぜ?不良じゃあるまいし」

 男子高校生(元)として、そう簡単に受け入れてたまるかという話である。でもお前の私服だって大概アレじゃね?という意見については黙殺させてもらう。
 そうじゃなくても、あの手の衣装に抵抗を覚える人間はこの歳になると多いだろう。少なくとも梅吉の姉だって、同じような状況になったら梅吉と似たような事を言うと思う。あいつがこんな衣装をノリノリで着る様子なんて想像もつかない。
 なんて、タコともイカともつかない、触手を蠢かせる海産物的巨大クリーチャーを眺めながら、梅吉は思う。

「面倒って何だよ面倒って!それがお前の役目なんだよ!」
「うるせえ知らねえ。オレはそんな役目を引き受けた覚えはない」
「いやこういうのって使命を科される的なやつだと思うから、引き受ける引き受けないに関わらず強制だと思うけど」
「ブラックじゃねえか!」
「た、確かに……!給料出ないしな」

 この夢(暫定)の中で、青仁はどうにもファンタジーな立ち位置らしいが。発想がいつもの青仁なので、余計にカオスを生み出している。なんでマスコットポジションとかいうファンタジーの権化をやりながら、魔法少女の給料の有無について語ってんだ。青仁すぎる。

「そこで給料出ないとか現実的なこと言っちゃうからお前は青仁なんだよ。つか出ねえのな給料」
「だってこれボランティアみたいなものだし」
「どんどん魔法少女を現実的にしていくじゃん」
「?そりゃまあ、魔法少女は現実だし」
「そういう返しになるのか……」

 とはいえやはり微妙に梅吉の知ってる青仁とは異なるので、このように会話が上手いこと進まないのでちょっと退屈なのだが。やはり何事もいつも通りが素晴らしいな、と絶対今思うべきではない感想を抱く。

「てかそんなことはどうでも良いんだって!早く変身し、あ゛っ?!」
「お」

 なんてことを言っていたら、海産物的巨大クリーチャーの触手が、こちらに飛んできた。特段梅吉の運動神経は悪くないので、この程度ならまあ普通に避けられる程度のものだったのだが、どうやらこの青仁にとってはそうではなかったらしく。

「待っておいちょっと何傍観してるんだ早く助けろ!!!俺はお前のパートナー妖精なんだぞ?!妖精の危機に立ち向かわない魔法少女とか前代未聞過ぎるだろ!!!」

 ものの見事に触手に攫われていった。

「いや妖精が黒幕オチって正直手垢ついてる題材だからよくあるんじゃねえかな。後お前が妖精はない。絶対にない。あったとしても絶対童貞の妖精とかだから。間違っても魔法少女と契約できる類の妖精じゃ無えよ」
「そんな終わってる汚い概念の妖精がいてたまるか!」
「じゃあお前何の妖精な訳?」
「……い、いや知らねえけど……」
「そっか。ならお前今から童貞の妖精な」
「だからそれだけは無いって言ってんだよ!全国の女児の夢を壊そうとするな!」

 大分アレな状況が嘘かのように、活きが良い青仁に対し。実のところ触手の攻撃をそれなりにかわしながら会話に応じていた梅吉は、己の現状を直視していないらしいアホに告げてやった。

「ていうかさ、お前なんか余裕ぶってるけど、今お前触手に捕まってんだぜ?」
「……あっ」

 ついでに言えば、ナニとは言わないがおあつらえ向きに触手はいかがわしいピンク色をした粘液を滴らせている。
 とはいえこの小説がR18に分類されていたとしたら、粘液に触れた箇所が感度3000倍になったりしそうだが、全年齢なので大したことはなかったらしい。

「うっわ待って服溶けてる?!」

 精々、徐々に服を溶かしていく程度の効能しかなかったようだった。

 しかし触手に絡め取られている当人にとっては、精々という言葉で片付けられる状況ではなかったらしい。徐々に肌に食い込んでいき、あらぬところに手を伸ばしていく触手と、ぬちょりと嫌な音を立てて粘液が肌に滴り、ゆっくりと、着実に衣服をただの布へと変えていくその様子に、青仁は目にうっすらと涙を浮かべていたので。

「は、早く助けろよおい!お前!」
「……」
「なんで黙ってガン見してる訳?!……っておいお前なんでスマホを俺に構えて」

 何故黙ってガン見しているのか?何故スマホを構えているのか?そんなこと簡単だろう。一寸も表情を変えず、清々しいまでの真顔で梅吉は言い放った。


「いやあ──触手プレイも一興だな」


 エロいな、としか思ってないからだが?

 誰だって自分好みの美少女が、バニーガール風の衣装で触手に拘束され、あられもない姿になっていたらこうなるだろう。脳内にその光景を焼き付け、ついでに何がとは言わないがオカズ用に撮影するのは最早男として義務とも言える行為では?まあ梅吉にはオカズを使うための棒が無いのだが。は?

「〜〜〜〜〜ッ?!」
「あんまりこういうのは詳しく無いけど、うん、実際に見ると考え変わるな。確かにこれはエロいわ。一定の地位を確立してるのもめちゃくちゃ理解できる。触手が衣服に入り込んだところの布地が引っ張られる部分とか、そうじゃなくても徐々に布が溶けてくとことかさ。……お前、何で今更赤面してるわけ?」

 何故か梅吉が滔々と触手モノについて講釈を垂れ始めてから、ようやく羞恥心に顔を赤らめた青仁に首をひねる。タイミングがおかしく無いだろうか。もしくはこいつ、自分が大分エロい事になっていることに、梅吉に言われてからやっとこさ気がついたとでも言うのだろうか。だとしたらアホすぎないか。

「な、何でもねえよ今に覚えてろよ!」
「はあ?」
「っ、んなことより俺を助け、ぎゃっ?!」

 逆ギレし始めた青仁はまるで理解できないが、とりあえず触手がその魔の手を青仁に今まで以上に進めていることだけはわかった。
 ……まあ、いくらどう考えても夢としか思えない状況とはいえ、流石に友人を見過ごす気は梅吉には無い。それに録画データも十分に入手できたことだし、ひとまず鑑賞は十分だろう。そういう意味では、エロい状態(意味深)から即座に真面目モードに入れる女体は優秀なのかもしれないな、と梅吉は大分酷いことを考えながら、青仁に問いかけた。

「青仁。さっき言ってた変身ってどうやんの?」
「何でそんなことも覚えてないんだよお前馬鹿だろ!左手の甲!紋章にキス!」
「ニチアサなのか深夜枠なのかはっきりしろよ。ってうわ、マジでなんかある。勝手に人の体に刺青入れてんじゃねえよ」

 悪態を吐きながらも、梅吉は言われた通りに左手の甲を見れば、言われた通り紋章らしきハート型っぽい何かが刻まれている。顔を顰めながら、梅吉はそこに確かに口付けを落とした。

 瞬間、閃光が瞬く。

「うわ眩し!これ昔は何とも思わなかったけどやっぱ直視したら失明すんじゃねえの?!」

 実のところ梅吉は姉を持つ男の宿命として、某日曜朝にやっている女児向けアニメをある程度見たことがあるので、展開自体はある程度知ってはいたが。それはそれ、これはこれであった。

 左手に位置する紋章とやらを中心に溢れた光が、梅吉の全身を覆っていく。ありがちな効果音と共に光が晴れれば、そこにはそれはもうひらっひらでふわっふわの、全国の女児の夢の結晶のようなパステルカラーのエプロンドレスが現れる。もうこの時点で嫌な予感しかしない。ひとまず変身した状態で鏡を見ることは絶対にしないと今決めた。
 光が晴れ、変身シーンが完全に終わったんだな、と梅吉が判断したその時。口と体が勝手に動いた。

「『赤』の魔法少女、ヴルライ・ミーヒン。暴れ尽くしてやりましょう……?何これ怖。あれか、口上ってやつ?オートかよ。怖っわ。新手の催眠モノか?」

 強制的に魔法少女の名乗りとポージングをやらされる、という一歩間違えたら色々と危なそうな感じのシチュエーションが敢行されていた。しかしそれもそうだがこっちも、と反射的に下を向いてしまうと、それはもう目を覆いたくなるような光景が広がっている。

「……なんでオレ、こんなことしてるんだろ……」

 自分で自覚できるほどに、頬が熱を持っている。しかしそんな羞恥に目を向けてしまえば大変なことになってしまうことも、梅吉は数ヶ月の経験で理解しつつあった。

 ちなみにヴルライ・ミーヒンは直訳すると「大食い少女」になる。

「て、てかこういうのってステッキ的なのがあるんじゃねえの?見当たらないんだけど……」

 事態を進めるためにも、羞恥心を押し殺して疑問を口にする。実際問題、魔法少女にありがちなステッキ的なものが一切見当たらないのだ。一体どこにあるのだろう、もしくは変身アイテムをどうこうしたらステッキが出てくる仕組みなのだろうか、と梅吉が首をひねっていると。

「何言ってんだよお前?!そこに武器あるじゃねえか!」
「そこってどこに」
「手!!!!」
「手ぇ?だからそれがどうし」

 触手に拘束され、段々と深夜枠どころか公共の電波に乗せられない感じになりつつある青仁の叫びに釣られるように己の手元を見た梅吉は、フリーズする羽目になった。

 何せ己の手に、パステルカラーとゴテゴテとした装飾で誤魔化されつつも、一般的なそれより殺傷能力を格段に上昇させられたメリケンサックが握り込まれていたので。

「え、マジで言ってる?なんかこうステッキ振ってキラピカーン☆的な魔法を発動するんじゃないの?まさかの物理?オレこれからあの海産物殴るの?」
「そのまさかだよ!!!俺だって初見は大分引いたんだぞ何今更正気に返ってんだお前!」
「……」

 魔法少女の武器:メリケンサックとは如何なものかと思うのだが。青仁の言い分を聞く限り、このトンチキな夢の中で梅吉は愛用してきたらしい。

「いや、さあ。こんな男が魔法少女名乗ってるとか世も末だなと……あっ」

 そうして話しながら、こちらに襲いかかってきた触手を反射的にメリケンサックをはめた拳で殴ったのだが。
 なんか大分エグい音を立てながら、触手が明後日の方向にぶっ飛んでいった。

「えぇ……」
「その調子で早く殺れー!」

 もはや魔法少女モノとしての体裁をまるで保てていないと思うのだが。どうやら、本当にこれで正しいらしい。まるで腑に落ちないが、敵を倒さないとこのTHE・女の子な服装から解放されないことだけは確かである。ならば、やることは一つであろう。

「うわっ粘液ついた。気持ち悪っ」

 つみれにする勢いで、海産物的巨大クリーチャーをタコ殴りにするしかない。タコ(イカ)だけに。

 こうして動いていて気がついたが、魔法少女というものはやはり半端ないほどフィジカルが強化されるものらしい。つまりは単なる打撃にもそれ相応の威力が乗り、ついでに言えばちょっとした動作もそれこそ二次元的な挙動で行えるのだ。それらは確かに、結構楽しい。主に好きなだけ殴れるあたり、ストレス発散にちょうど良いかもしれない。

 と、いうわけで。

「……ん?なんか動かなくなった?ってことは死んだ?」

 元気に触手を振り回していた海産物的巨大クリーチャーが沈黙する。どうやら梅吉はやっとこの羞恥プレイから解放されるらしい。

「青仁ー。生きてるかー?確かさっき触手から解放されてぼとっと落下してたよなー。あとこの変身ってどう解除するんだ?」

 ボコボコになった触手の山の辺りに声をかけると、のそりと人影らしきものが起き上がる。ウサ耳が恨めしげにこちらに向いた。

「……生きてるっての!」
「おー流石。やっぱ妖精だから人間より頑丈なのか?てか服破れってけど良いの?」
「魔力で直せるし。ほら」
「めっちゃファンタジ〜」

 随分とドスケベな感じになっていたバニーガール衣装が、みるみるうちに修復されていく。先程までの魔法少女が(物理)が言葉尻につくせいで、余計にファンタジーらしく梅吉の目に映った。

「つかもう終わったんだし、早く変身解除したいんだけど。どうやれば良いんだ?」
「?いやまだ解除しちゃだめだろ」

 一刻も早くこの羞恥プレイから解放されたい、と願い出たのだが。不思議そうに首を傾げる青仁に何故か止められた。

「は?何、まだなんかあんの?」
「なんかっていうか……ここからが本番だって言ってたじゃん。そもそも魔法少女の契約に乗ったのだってそれが理由なんだろ。早くメリケンサックを変形させろよ」
「は?話が読めないんだけど、えっ何だこれ」

 青仁の困惑を雑に受け流していると、梅吉が握り込んでいたメリケンサックが光り輝き、己の手を離れる。そのまま合体し、光を失ったそこに現れたのは。


 これまたパステルカラーと可愛らしい装飾に汚染された、包丁だった。


「ほら解体して持って帰るぞー!これで当分は食費が浮くんじゃないか?」

 包丁を手にしてフリーズする梅吉を前に、青仁は呑気に海産物的巨大クリーチャー(故)を指して言う。ああなるほど食費?確かにそれは重要な問題だ。梅吉が常日頃やりくりに苦労しているものなのだから。

「………いや食うの?!さっき明らかにやべえ粘液出してたタコイカもどきを?!」

 今日一大きな絶叫が街中に響いた。

 というかエプロンドレスに包丁を持ってる魔法少女ってつまりそういうことかよ。アホみたいな伏線回収をするんじゃない、ニチアサと深夜枠ですらないだろそれは。ていうかそもそもあれは男女混合だし名乗ってる名称が戦隊だし、何もかもが間違ってる。

「何躊躇してんだお前。食費浮かせるために魔法少女になったって俺に向かって豪語してたくせに」
「いやオレのやりそうなことだけどそうじゃないっていうか!服溶かす粘液を放出する海産物を捌くような技量はオレには無えよ!それこそふぐを料理する時みたいに免許制なんじゃねえの?!」
「それこそ過去のお前が『魔法少女は実質的に魔物調理師免許』とかなんとか言ってただろ」
「クソがよ!!!!!」

 過去の自分、どれだけ追い詰められてたんだよ食費的に、と梅吉が行き場のない怒りを海産物的巨大クリーチャー(故)に叩きつける。ぶすり、とそれはもう勢いよく包丁がその程よい弾力のある身に突き刺さった。美味しそうな弾力してんじゃねえよ。









「っていう夢を見たんだけど」
「とりあえずそのエロ本の化身の味だけ教えてくんない?」

 あまりにも夢の内容が奇怪過ぎたので、雑談程度語っていた際の青仁の第一声が以上の通りである。全くもって予想通りすぎて、呆れを通り越して無にしかなれない。もっと突っ込むべき場所があっただろうに、主に青仁がバニーガールと化しているところとか。

「……味は悪くなかった。塩で揉んだら何故か粘液取れたし、身もプリプリしてたから食感も良かったし。ただな結局タコなのかイカなのかよくわかんなかったな」
「なんだそれ俺も食べてみたかったんだけど。くっそなんで俺はその夢見れてないんだよ……!ここはなんかこう、不思議パワーで同じ夢みてたね、とかって雑なエモ展開になるんじゃねえの?!」
「まず男が魔法少女やってる時点で一ミリもエモくねえから。その前提を忘れんなよ」
「だな。つか夢じゃなかったら俺が触手プレイやられてるってことだろ?嫌すぎる」
「……」

 触手プレイ。あの時梅吉はそれはもスマホできっちりと録画しておいた訳だが、当然夢の話故に現実にはそんなものはない。が、脳みそに焼き付けた記憶がそう簡単に消えるはずもなく。黙りを貫いて、少し口角を緩めていると。

「おいお前、今絶対その場面考えてるだろ」

 友人のこの手の機微にだけ聡い青仁が、じっとりとした目でこちらを見てきた。

「いやいやいや。逆に考えてくれ、自分好みの美少女がエロいことになってたら、そりゃあもう絶対に忘れるまいと脳に刻み込むだろオレは悪くねえ!」
「それはそれ、これはこれ。ってことでお前もなんか唐突にすけべイベントに頭から突っ込んだりしてくれないか?」
「どうしろってんだよ?!」
「うーん、とりあえず謎の風でスカートが捲れ上がるとか。これなら教科書であおげばなんかそれっぽい風出せるだろ」
「姑息だし教室でやることじゃねえよ!」

 この後、夢の中以上にしょうもない攻防が繰り広げられたのは言うまでもない。

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