・こちらは2026年の「友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?」のエイプリルフールに掲載した短編です。
・エイプリルフールなので本編には一切関係ありません。
・エイプリルフールなので時系列は考慮していません。
・以下本編
「で?一応言い訳を聞いておこうか」
どこかやつれた様子の少女が、怒りと呆れを隠そうともしない横柄な態度で振る舞う。プラスチックの安っぽいコップが、ファミレスのテーブルに叩きつけられた。
ストレートのセミロングを揺らし、ぶかぶかの男物の衣服の中で肢体を泳がせている、あえて分類するならばかわいいよりも綺麗という言葉が似合う彼女──いや、数分前までは彼であったそいつに、梅吉は頼み通りに言い訳を吐いた。
「いやなんか一茶が『メスニナ~ル』とかいう露骨なネタグッズを寄越してきたから、とりあえず味が気になってうずうずしてた青仁に飲ませてみたんだけど、何も起きなかったんだよ。でもこれだけで終わるのもつまんねえから、一回ぐらいは付属の取扱説明書に従ってみようと思って、とりあえずお前がドリンクバーで汲んできたカルピスに盛ったらこうなった」
「通りでなんかちょっと変な味がすると思ったんだよ……!カルピスは完成された完璧な甘さだって言うのに……!」
まあ要は、そういう話であった。なお本日は春休み真っ只中のエイプリルフール当日、それ即ち、普段からなんでもありなインターネットにおける、年に一度のお祭り騒ぎだ。
つまり、緑が謎のご都合お薬パワーでぱっつん前髪セミロング綺麗系美少女になっても、何もおかしくはないのである──ッ!
「よくある子供向けのシロップって感じの薬っぽい甘さでさ~マジでつまんなかったんだよ。もうね、お前ネタグッズとしての自覚あんの?ってレベル。ネタならネタらしく面白い味を追求するべきだと思うんだよね。こんなんじゃネタグッズとして失格だっつーの。マジで出直してきて欲しい。そして商品開発者は即刻味を改良するべき。そしたらリピートも考えてやる。ってことで今後の将来性も踏まえて☆2」
「クソレビューやめろ」
なおもれなく一緒にいる青仁は、梅吉がちゃんと事情を説明したからか、俺は何も言わなくていっか、と思ってしまったらしくゲテモノレビュワー業に勤しんでいた。地味に事情説明より文字数が多いの、マジでやめてほしい。
「にしてもまあ……マジで正統派に美少女だな。なんかちょっとムカつく」
「な。俺らとはまた違う系統と言うか」
「あんたらは何を冷静に評価してんだ」
梅吉も青仁も、正統派と言うよりかは、なんらかの属性に偏った美少女である。それが悪いとは言わないし、むしろその属性そのものが性癖に刺さってしまった身として、とやかく言うつもりはないが。分類するとしたら、正統派には含まれないことだけは確かである。
それに、属性云々の話題がなかろうと、今の緑には美少女云々を完全に明後日の方向に投げ捨てられる程の、致命的な問題がひとつ存在している。
「……なんかなあ」
皆様は覚えているだろうか。緑がボコボコに言われる所以である、奴のガチ恋対象たる奴の実妹を。梅吉は一度会ったきりではあるが、一目で緑と血縁があると判断できる程に、彼女は緑とよく似ていた。
「なんかってなんだよ」
「なんでもない。オレはIQが一億ある君子だから危うきには近寄らないんだ」
すなわち、あの妹が成長したらこんな感じになるのか……とちょっと思ってしまったのである。その時点で二人は素直に緑(美少女のすがた)を劣情に曇った眼で見ることはできなかった。というか緑と接する際の禁句「お前妹が成長したらどうすんの?」を思うと下手に触れられない。
ちなみに、どうしても奴の妹が脳裏に過ぎるせいで、対女子コミュ力の低さよりも「うわこいつキッショ」度が上回り、こうしてまともに会話ができているというカスみたいな裏事情があったりする。
「青仁、これどうする?思ってたんより面白くねえんだけど。どうすれば面白くできっかな」
「うーむ」
「他人に薬盛っておいて面白みを求めないでくれるか?」
「はあ?知ってる奴の美少女化なんて、面白み求める以外に使い道ないだろ」
「むしろジョークグッズなんだから、面白みを追求するのはこれ以上ない正しい使い道と言えるのでは?」
とりあえず外見方向では深く考えれば考えるほどろくなところに行きつかない気がするので、それ以外の手段でなんか面白いことにならないかと適当なことを言う。本人の文句は聞き入れない方向性である。
「言えねえよ。てか面白くないって思うなら早く戻してくれ」
「……」
「……」
「黙るな。なんか言えよ」
梅吉と青仁は揃って顔を見合わせ沈黙する。梅吉の横で、一茶にもらった茶色の小瓶のラベルを眺めていた青仁が、ポツリと呟いた。
「……そういえばこのネタ薬、解除法とか一切書いてなかったんだよな」
「よーし赤山!空島!今から木村の所にカチコミかけに行こうぜ!俺が司令塔であんたらが実働役な!」
ヤケクソ気味に緑が叫ぶ。ライブ感で生きている二人にはありがちな軽率行動であった。
「えー面倒。お前だけで行ってこいよ。いやでも無理か、お前ただでさえ貧弱なのに、今は女子化ってデバフも背負ってるから、貧弱どころの騒ぎじゃないし」
「赤山あんた全部理解ってんじゃねえの、俺一人じゃ絶対無理なんだよあんたらの協力が必要不可け」
「て言うか俺一茶の家知らないからカチコミもクソもねえんだけど。緑は知ってんの?」
「えっ空島知らねえの?じゃあ赤山は?」
「オレも知らねえよ。あいつの家行ったことないし」
高校生は中学生と比べて学区が更に広がるため、仲が良くても家を知らない、なんてことはザラにあるだろう。というか梅吉だって今ここで騒いでいる張本人こと緑(正統派美少女)の自宅の所在地はよくわかっていないし。
「よしわかった、俺は今から木村に鬼電するから、あんたらは拳を磨いとけ。なんなら武器を調達しに行っても良いぞ」
「ガチのカチコミじゃん」
「それはそれで楽しそうだから良いっちゃ良いんだけど、俺的には多分今の緑はカチコミよりやんなきゃいけないことがあると思うんだよね」
「は?」
「あーそれオレも思った」
「何?もったいぶってないで早く言えよ」
気がついていないのは張本人たる緑だけらしい。青仁と共にうんうん頷いていると、訝しげに緑──元々着ていたジーンズをベルトで締め上げて、メンズのシャツがチュニックのようになっている少女が、こちらを急かすので、慈悲深い二人は輝かしい笑顔できちんと真実を伝えてあげた。
「流石にその格好のままカチコミ行くのは無理だろ」
「服、買いに行こうぜ?あ、もちろん下着も含めてな」
「……あっ」
ガワだけはきちんと綺麗系美少女を全うしている緑が、間抜けな声を上げた。
まずは下着だ、と梅吉と青仁は緑を連行して、ショッピングモールへと繰り出したのだが。
「G◯、偉大」
「チッ。この馬鹿野郎、よりにもよってブラトップで終わらせやがってよ……!」
「クソ、俺絶対お前に白のレースのエロいブラジャー絶対似合うと思ってたのに……!」
何故かG◯に行けばそれなりのものがそれなりの値段で売っている事を把握していたが緑が、流れるようにG◯に向かって即座に購入を済ませてしまった。ショッピングモールに足を踏み入れた途端、猛烈ダッシュで店の位置とか一切覚えていない梅吉を振り切ったのである。敗因は梅吉が「ここはオレに任せてお前は先に行け!」と言えなかった事だろうか。
「嫌に決まってんだろ。第一、その手の店って絶対良いお値段するだろ、そんな高級品買える財力は俺にはねえよ」
「なんでお前そんなこと知ってんの?後金に関しては今のお前をエロい目に遭わせるためならいくらでも出す。なあ青仁」
「あったり前だろ、いちいち言わせんな」
少なくとも梅吉は、性転換病を発症するまで、エロいブラジャーは高額という知識は持っていなかったのだが。それはそれとして今の緑をエロい目に遭わせる為に出費も辞さない。
「うるせえ。ファーストブラについて学んでたら、否が応でも女性下着全体の知識はつくだろ」
「ふぁーすとぶ……?あ待って言わなくていい、お前の口から出るファーストって言葉絶対ロクなものじゃねえ」
「え、なんであんたらファーストブラのこと知らないの?一応あんたら生物学上は女子なんじゃないの?」
「オレ天才だからわかっちゃったんだけど、オレらの年齢がつけてるブラは「ファースト」じゃないと思うんだよね。だから知らなくても生きてけんだよ」
何故こいつはここまでキショくあれるのか、その謎を探るために我々はアマゾンの奥地に……向かうほど追究すべき話でもない気がする。
「あー言われてみれば。じゃああんたらが知らないのも無理もないわな。てっきりいつも通り、俺より女子に対する知識がない女子やってんのかと」
「いつも通りじゃねーし!ただちょっと女子を名乗るには経験不足って言うか!あーでも今のお前よりは経験あるぜ?!」
「むしろなきゃ困るんだよ、あんたらが性転換病やってからどれだけ経ったと思って」
「お゛ッ」
「ミ゛ッ」
軽率に鳩尾に言葉の刃がクリティカルヒットしてしまったじゃないか。どうしてくれる。
今の二人にはこの後緑を着せ替え人形にして、思う存分辱めを受けさせる義務があるというのに!
「うわ秒で死んだわウケる。んじゃ俺はここらで」
「逃がすかよ店は目の前だぜ!!!」
「メインディッシュはまだ始まっちゃいねえんだよ!!!」
二人の精神的な重傷を隙と見て、逃走を図る緑だったが。無論その程度で己が野望を諦める二人ではない。ただでさえ貧弱な身体能力が、美少女化に伴って更に劣化しているのだ。二人がかりならば、赤子の手をひねるよりも容易く拘束できる。
しかし、緑という元から運動神経が雑魚な手合いの美少女化には、デメリット以上のメリットがあった。少なくとも、梅吉や青仁のような、青少年として健全な性欲を持つ者にとっては。
「……ふ、ふうん?」
拘束されたまま、緑が不穏な笑みを浮かべる。ご存知の通り、今の奴の外見は、綺麗系正統派美少女である。梅吉や青仁のようになんらかの属性に偏っていないという事は、裏を返せばいくらでも味付けが変えられるという事であり。
「今の俺、結構可愛いと思うんだけど?可愛い女の子に乱暴するなんて、あんたら男の風上にも置けねえなァ?」
正統派な美少女から繰り出される男勝りな振る舞いが、ギャップ萌えという形で二人に直撃したのであった。
「クッ……!あいつはロリコンあいつはロリコンあいつはロリコンあいつはロリコンあいつはロリコン」
「俺は今まであんなもんじゃ済まねえ、もっとやべえギャップ萌えを相手取って来たんだ、中身が緑の美少女如き、どうとでも……!」
「意味不明の耐え方しないでくれるか?!?!」
しかし、目の前の美少女の性癖がシンプルに社会通念に反している事を己の脳髄に叩き込む事により、事なきを得た。本人的には不服だったようだが、全ては奴の日頃の行いである。
こうして二人は無事、緑を服屋にぶち込む事に成功したのだった。
「青仁、ここは春服だからとか手加減をせず、容赦なくミニスカを着させよう」
「よしきた」
緑の右手を梅吉が、左手を青仁が容赦なく握り締め、衣服の棚の群れを歩く。
なお男だった時もファッションセンスにさして自信のなかったコンビである為、レディースは正直門外漢も良いところだ。性転換病発症前からは多少マシになってはいるはずだが、逆に言えばその程度である。そのため、緑に着せる服は基本的にマネキンから選ぶつもりだ。
「なあ、あんたらってもしかして俺に恨みでもあんのか?」
「いや別に?オレらは全くの善意で、そう善意で!お前に性転換病患者が味合う責苦を体験して欲しいってだけで!」
「うんうん別に恨みなんかないよ。でもほら、大切な人とは喜びも苦しみも分かち合いたいじゃん?俺らにとって、緑はそれだけ大切な人ってワケ──」
「要約すると自分達の苦しみを後輩が味合わずに済むのがムカつくって話だろ、見苦しむぐっ」
都合の悪い真実を緑がほざいていた為、二人は空いているもう片方の手で全力で緑の口を塞いでおいた。
「あ、あれとか緑に似合いそうじゃね?」
「良いな。あ、後あっちも良くないか。よし全部試着させよう」
「ぷはっ。え、マジで言ってる……?うわキッツ……」
流石はプロのコーディネートだ、二人が緑に着せて趣味と実益を満たすために最適な服が即座に見つかった。当事者が中心でぶつくさと言っている気がするが、本日の奴に発言権はない。二人で手分けしてマネキンと同じ服を集め、緑と共に無理矢理試着室へと送り出す。
「……マジで俺がこれ着るのか?」
「お前も苦しめ」
「着ろ」
手渡された女物の衣服を手に、青い顔をした緑が踏みとどまろうとするのを、二人は私怨と共にイイ笑顔で力任せに押し込んだ。そのまま、勢いよく試着室のカーテンを閉める。あとはただ、待つだけである。
「……うっわスカート短っ。えっこれネタじゃないの?たかがこの程度の布で股間を防御できる訳なくね?ちょっとでも変な動きしたら終わりじゃね?」
「終わるが?」
「うん、俺あんたらより頭良いからわかっちゃった、スカートって欠陥衣服だわ」
「は?スカートの中という素晴らしきロマンを生み出す素敵衣服のどこが欠陥だって?」
衣擦れの音と共に、美少女ボイスですら打ち消せない残念要素がカーテンを貫通してくる。言いたい事は着用者としてはわからないでもないし、むしろ完全に同意だが、それはそれ、これはこれである。男(自称)として、スカートの奥という無限大の可能性を否定する訳にはいかないのだ。
「……ん?ボタンがうまくとまらな、あそっか逆か。めんどくせ〜!」
「わかる。俺未だにミスってぐちゃぐちゃになって朝焦るわ」
「緑はともかくお前は良い加減慣れろよ」
まあこれについては否定する理由もないため、素直に同意を返したが。それはそれとして、異常な実感を込めた表情で頷く青仁はどうかと思う。
「で、ボタンの話してるって事は着れたんだよな?おら早く出てこいよ」
「……」
無論梅吉はきちんと緑に渡した服の着方を把握している。そうでなくても、衣擦れの音が途切れた以上、奴が着替えを終えたことは明らかだった。ニヤニヤと美少女にあるまじき汚い笑みを浮かべながら、梅吉は緑を急かす。
「いやー……」
「いやー、じゃねえんだよ。お前には俺らにミニスカ姿を見せる義務があるんだよ」
「義務ではねえだろ。あー……マジで見たいの?言っとくけど見た目がどれだけ良くても中身俺だからな?」
「つべこべ言わず早く見せろ」
面白そうだしゆすりのネタになりそうなので、という副音声を潜ませつつ梅吉は即答する。躊躇する気持ちはわからないでもないし、どこまで行っても中身がアレ、というのはその通りである。まあだからといって、この通り加減する理由にはならないのだが。
「……引くなよ?」
「なんでそんなに無駄に予防線張ってんの?良いからカーテン開けろや」
「なんならこっちがこじ開けてやったって良いんだぞ」
いつになく弱々しい声が、頼りない布一枚を隔てた奥から聞こえてくる。大元が緑という良く見知ったロリコンである事を抜きにしたら、これでもかと庇護欲を掻き立てられる可憐な女の子の声だった。
しかし、素体が正統派に美少女なのだから、余程のことをしない限りドン引きするような事態にはなりえないだろうに。引くなよ、だなんて不思議は話だ。そう梅吉が疑問に思っていると、ゆっくりと華奢な指がカーテンを掴み、緑が顔を覗かせた。
「……こっ、これで良い、のか?」
そこにいたのは、羞恥に頬を真っ赤に染め上げ、口元をもごもごと不器用に動かす、「可憐」という二文字を体現したかのような少女だった。
淡いカーディガンに包まれた華奢な鎖骨と、シンプルなミニスカートから覗く生足が眩しくて。今までメンズ服に閉じ込められていたからこそ、表に出た女性的な肢体の美しさが、余計に魅惑的に映る。
極め付けに、庇護欲を掻き立てるかのような不安げな眼差しと、ぎゅうとカーテンの端を握りしめる様子が、余計に煩悩に訴えてくる有様だった。梅吉が思わず、中身の事を忘れて生唾をごくりと飲み込んでしまう程に。
「……おい。なんか言えよ」
呆然と緑を凝視することしかできなくなってしまった二人を、緑が頬を染めたまま不服げに詰る。それすらも、慣れない服に恥じらいを覚え、似合っていないのだろうかと不安になってしまう少女にしか見えなかった。
お互いに、感じたことは同じだったようで。青仁と顔を見合わせて、無言かつ真顔で頷きあう。
「……」
「……」
「何も言わずに通じ合ってんじゃねえよ。いやあんたらの言いたい事はわかるぜ?俺も我ながらハマりすぎてて怖かったから」
本人は一丁前に理解したようなそぶりをしているが、どう考えたって完全には己の持つ、女性的な破壊力を理解できていない発言であった。
「正直今も、鏡に映った姿がイコール自分って認識できないせいで、下向くと妙に現実感がなくて、気が狂いそうになるし。い、いやでもさー……」
言い分自体には、常時女装状態と化して等しい人間に一人として同意できる。だがその後の振る舞いは、梅吉や青仁にはないものだった。
少しだけ、目を伏せて。頬の紅潮はそのままに、口元をインモラルな興奮に歪ませて。甘い、甘い声で少女は言う。
「やっぱ今の俺、かわいい、よな」
梅吉や青仁の脳からはどうしたって導き出されないような言葉が、小さな唇からこぼれた。
「……なあ、青仁」
「うん、多分今俺も梅吉と同じこと考えてた」
思わず隣を見れば、苦虫を噛み潰したかのような複雑な顔をする青仁がいて。賛同者がいる事に対する心強さを感じつつ、二人は口を開いた。
「オレらなんかよりよっぽどこいつの方が女子適性高いよな……」
「緑、お前、絶対俺らなんかより絶対性転換病に向いてるよ……」
「は?????」
気心の知れた友人(ロリコン)に妙な適性がある事に対する困惑を、異口同音に示した。まあ、当の張本人には伝わっていなかったようだが。
「これで本人が『いや俺何もしてないんですけど』ツラしてんのがマジでうぜえよな。何わかりませーんとか清純ぶってんだ、ロリコンのくせに」
「わかる。こいつマジで何がしてえんだって感じ。そのビジュで実妹ガチ恋勢のロリコンってなんなんだよ、俺らの理性耐久試験でも開催したいのか?あ?」
「だよな。こいつオレらの中身わかってんの?って感じ。てかちょっと待て、気づいちゃったんだけど、これもしや人の振り見て我が振り直せ案件?だとしたら死ぬんだけど」
「流石に俺らも梅吉もここまでじゃねえよ。もしそうだったとしたらちょっと首くくりたくなる」
「てかさ、オレ気づいちゃったんだけど、こいつの味覚って大体女児じゃん?あと男女問わず普通に友達いるタイプじゃん?このビジュでそれはさあ……反則では?」
「なんでこれで本人がロリコンシスコンガチ恋三重苦なんだろなあ……天は二物を与えずって言うけど、限度があるだろ限度が」
「そんなに言う???」
好き勝手に青仁と共に緑にダメ出しを重ねていく。なお本人は当然のように理解していないようで、正統派美少女のビジュアルのまま首をひねっていた。許されざる行いである。
いや本当に危なかった、脳内で今までの緑の最悪発言まとめ動画を無限ループし続けた上で、自らの身体が女体であるという現実を反芻しなければ耐える事は不可能だった。それ程までに、美少女と化した緑は危険な存在なのだ。
シンプルに男の煩悩に効きすぎる。思わず触れたくなるような、手が届きそうな可憐さがいけない。仄暗いタイプの煩悩がこれでもかとくすぐられてしまう。
「逆になんでお前は自覚ないんだよ、ちょっと自分の行動を思い返せ」
「嫌だ。俺はしばらく自分を振り返らないって決めたんだよ、絶対死ぬから」
「おらわかってんじゃねえか、はよ現実を直視しろ」
「なんで俺は妹と結婚できないんだろうな……」
「おいてめえどこまで遡ってんだ」
その上本人はこの調子と来た。どうしてくれよう。早いとこ誰かしらが痛い目を見せるべきでなのではないか。
「なあ青仁、とりあえずこいつで服屋で遊ぶのはこれで終わりにしよう。じゃないとオレらがもたない」
「さんせーい。んじゃちょっと俺店員さん呼んでくるわ。着たまま帰りたいって伝えてくる」
「おう。行ってらー」
当初の予定から変更となってしまうが仕方ない。緑をおもちゃにしようとして、愉悦をダメージが上回るようでは、たまったものではないのだから。
「え、俺マジでこれ着たまま出歩くのか?羞恥プレイやめてくんねえ?」
「黙れ、オレらは日常が羞恥プレイなんだよ」
「かわいそ……あっ、やっと木村から返信来たっぽい」
「へーL〇NE送ってたんだ。偉」
「あんたはなんで何もしてないんだよ……てか、責任とか感じてねえのか」
「特に何も」
「クソがよ。あー、とりあえず会計済ませてからちゃんと見るわ」
戻らなくなってしまった、と言われたら責任を感じるかもしれないが。現状まだ何も判明していない以上、梅吉には責任のせの字もない。どうせジョークグッズだし、何より今日はエイプリルフールなのだし、という慢心が梅吉にはあるので。
さて、青仁が無事に会計を済ませ、緑が破壊力抜群のビジュアルで試着室を去った後。スマホをきちんと確認した緑が、一茶の返信を読み上げた。
「要約すると『例の薬は時間経過で効果が切れる』『カチコミNGだから住所は教えない』だとよ。チッ、せっかく赤山と空島を差し向けてやろうとしてたのによ」
「お前の中でオレらってどうなってんの?まあでも良かったじゃん、戻れるっぽくて」
「クッ、他人事のように言いやがって……!」
実際他人事である。特に時間経過で戻れるとなれば、猶更だ。むしろ心置きなく遊び倒せる免罪符を手に入れたとも言える。……いやまあ、あの様子だと、遊ぼうとするとこちらにダメージが入る仕組みな気がしないでもないのだが。
「あっ俺も返信きた。『一応味の改善要望をお前の味覚と共に開発者に伝えた』だって」
「空島、それ今やるべき事か?」
「あとこれの開発者例の生物部らしいよ」
「やっぱあの部には一生近寄るべきじゃねえな」
どうやら一茶に連絡する気がゼロだった梅吉とは違って、目的こそアレだが青仁は一茶にL〇NEを送っていたらしい。しかし、開発者が生物部とは。一体あの部活はどうなっているのだろうか。リアリティラインという概念を知らないのだろうか。
「まあいいや、次行くぞ次。あ、せっかくだからプリクラとか挑んでみるか?記念ってことで」
「はあ?何の記念だよ。てか俺らだけで……入れるな、うん。どうしてこんなことになっちゃったんだ?」
「それはこっちのセリフだ。てか珍しくナイスアイデアじゃん、俺ら今まで何回かプリクラに挑もうとして失敗してるもんな、緑いるなら成功するかも」
「いや何をどうしたらプリクラに挑もうとして失敗するんだ?……おい待て俺を囲うな掴むな連行するな!!!」
ぶつくさとうるさい緑の両腕を、青仁と分担して無理矢理掴む。そしてそのまま、ずりずりとゲームセンターへと引きずって行ったのであった。
なお余談ではあるが、この後薬の効果が切れて大惨事になった。