「太宰失格」という短編を公開しました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887493256タイトルは太宰治の「人間失格」から。
パスティーシュ小説があと二つほどあるので順々に公開していけたらと思っています。
せっかくなのでリスペクトしてオマージュした人のことでも……。
・太宰治について
太宰作品はたくさんの出版社から短編集が出ていますが、新潮文庫の黒い表紙のやつとちくま文庫の全集が有名なんじゃないかと思います。
学校の図書室ですごいボロボロになっていた新潮文庫の「人間失格」を手に取ったのは高校生の頃のことで、それからなんとなく読んだことのないタイトルのものを手に取っては読み続けてきました。
熱狂的に好きというわけではない(と思う)けど、どの作品も安定して面白いので、今でも図書館で読んだことのない人の小説を借りたとき、それが合わなかった場合のお口直しといいますか、保険用に借りたりしています。
「人間失格」がなぜか際立って有名なために破滅的な印象の強い作家ですが、その真髄は女性の心理描写の妙にあるのではないかと思います。
「ヴィヨンの妻」とか「斜陽」とか、まあ基本的に不幸ですけど、その時代の保守的な環境で育った女性が、生活のために働かなければならない状況に陥って、そこで起こった女性ならではのギャップとか苦労とか、あとなりふり構わずやっていくしかないと吹っ切れるまでの心理が、あたかもその女性が書いたのではと思うくらい身に迫って描写されていて、とても男の人が書いたものと思えない。
男とか女とかで作家を見るのは良くない感じもしますが、でも女性性の強い作家だと思います。
「晩年」とか「津軽」とか、私小説に近い小説で、ひたすら相手に合わせたり、相手の意図を深読みしたり、一人で腹を立てたり、そんな自分に苦悩したりしているので、まあやっぱり暗いんですけど、生活の些細な部分で他人を意識し続けてきたからこそ、常に他人を意識せざる得ない立場の女性の気持ちを汲み取るのが上手いのかなと思ってます。実際に太宰さんはサービス精神旺盛の、気遣いの人であったんじゃないかなぁと作品を読んでいて思います。モテそう。
大人の女性だけでなく、わたしの推し作品である「女生徒」の、時代を超越した〝女子高生感〟もすごくいいです。太宰治の女子高生時代の思い出があますところなく表現されていますよね……って、そうじゃなくて、これは気遣い心だけでなく太宰治にしか書けない感覚的な才能がもたらした傑作だと思います。
女子高生だけど、女子高生には書けない、でもすごい女子高生っぽい感じ。この人、自分の分身みたいなキャラクターをよく「道化師」に例えていますけど「ああ、エンターテナーだなぁ」と思わずにはいられません。