『1490年代、我が帝国はヨーロッパ全土を手中に収め勢力拡大に更なる戦争と血縁婚姻政策により、その勢いは新大陸にまで及んだ。
そして16世紀 フィナンシェ帝国は全盛期を迎える
1508年の1月、昨晩から深深と雪が降り積もりパリブレスト城の雨除けの樋(とい)に氷柱(つらら)ができ、太陽の熱で雫が落ちるのを見ていた時だった
正門の方から2頭立ての豪華絢爛な馬車が城に向かって来たのに気づいた直後、私の目は幼少だったチュイールに奪われた
馬車から降りたチュイールはお目付け役から日傘を受け取り私の方に軽く会釈をして、城の中へと入っていった
その時、10歳にも満たないチュイールに対して生まれて初めての感情が込み上げて来たのを戸惑っていた私だった
その当時 私は既に次期帝国を牽引する公爵の身であり、チュイールは宿敵 フォンダン家の当主、ショコラティエ1世の長女であり交渉事の駒として同席していた
フォンダン家側の要件は 新大陸への侵略にフォンダン家が先に侵略への糸口を模索している最中 フィナンシェ側に無駄な戦争を望まない代わりに、チュイールを嫁がせる政略婚姻を求めてきた
その代わりに新大陸をフィナンシェ家とフォンダン家の合同統治案を持ちかけ、フォンダン家の力を持続させる戦略にでてきた
何世紀に渡り血縁婚姻戦略で勢力が拡大してきたフィナンシェ帝国に、その様な異例要件が認められるはずが無いと、各侯爵伯爵など誰もが決裂すると、重い空気が流れる中 私は当主カヌレ8世にこう提案した
(フィナンシェ帝国は過去5世紀をかけて幾度の戦争をし、その度に戦場に無駄な血が流れてきた!私 ラングドシャがフォンダン家の長女であられる チュイール嬢と婚姻を交わせば、無駄な血を流す必要もないのでは)
その提案にカヌレ8世は席を立ち貴賓室に鳴り響くほどの拍手をして、私の提案をショコラティエ1世に打診した
するとショコラティエ1世とチュイールは
喜びのあまり身体を寄せ合い、私に深深とお礼をした
今思い返せば、あの時感じた気持ちは一目惚れ以外のなにものでもなく、チュイールに対して運命の赤い糸のような出会いを感じて仕方がなかったことに気づいた瞬間であり、長くに渡り血縁婚が続いたフィナンシェ帝国に
明るい兆しが生まれた瞬間だった』