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「三英雄の魔術師」番外編 「君は、気兼ねない相手」



三英雄の魔術師 ~無能教師と思われてるけど、実は最強です!~
https://kakuyomu.jp/works/16818093073700287043


『三英雄』の番外編を見たいという声をいただきました!
ありがとうございます。

現在『三英雄』はコンテストに出しているため、更新ができません。
そのため、近況ノートの方に番外編を仮置きしておきます。

コンテストが終わったら、このノートは消して、『三英雄』のページにupし直しますね!



 ◇ ◇ ◇



「君は、気兼ねない相手」




 アルバートの実家であるラクール家は、商売によって成り上がった。
 今では百貨店『フォン・ウィルシュ』を経営している。
 アルバートは長男として生まれ、次社長となるべく英才教育を受けていた。

 彼に大きな転換期が訪れたのは、12歳の時だった。

 ある事件により、頭を強打したのである。
 それ以降、彼の学力は著しく低下した。特に数学への学習障害が見られるとのことで、これでは家業を継ぐのは不可能だろうと判断された。

 ラクール家の当主であるアベルの判断は早かった。アルバートを早々に切り捨て、次男であるジルベルトの教育に精を出すようになったのだ。

 それ以降ーーアルバートは荒れた。

 彼はリブレキャリア校の魔器特進科に入ったが、1年生の時、問題を起こしてばかりいた。
 誰彼構わずケンカを吹っかけ、暴れ回っていたのだ。

 ある日、アルバートはまた些細なことでクラスメイトと揉めた。
 頭に血が上っていた彼はそこが教室内であることも忘れて、激昂した。

「ふざけんなよ!」

 拳を振り上げ、相手を殴りつけようとする。
 その瞬間、誰かが拳を受け止めた。
 同じクラスメイトである、レオナルトだった。

「やめろ」
「は? てめえ、何だよ!」

 その頃のアルバートは常にイライラとしていた。誰かで鬱憤を晴らすことができれば、それでよかったのだ。
 標的をレオナルトへと移して、アルバートは殴りかかる。
 レオナルトもすかさずやり返してきたので、そのまま殴り合いのケンカとなった。教師に止められるまで2人は殴り合っていた。



 アルバートはそれからもレオナルトにつっかかった。
 レオナルトはアルバートより小柄だが、冷静な態度は大人びて見える。1年生とは思えないほど達観した雰囲気もあり、女生徒から憧憬の眼差しを向けられることも多かった。
 その様子にアルバートは苛立った。

 ――あいつの澄ました顔……すげームカつく!

 だから、些細なきっかけを見つけては、彼にケンカを吹っかけた。
 レオナルトはクールな性格だが、売られたケンカは買うタイプらしく、必ずアルバートにやり返してきた。
 2人は生傷が絶えず、毎日のように教師に叱られていた。



 ある日のこと。
 アルバートは浮島内の林で倒れていた。
 
 全身が傷だらけで、体を動かすことができない。
 その日の彼は、無謀にも上級生にケンカを吹っかけて、こてんぱんに打ちのめされたのだ。

「あー、くそ……ムカつく……」

 悪態をつくと、切れた口内が痛んで、鉄の味がした。
 怪我をしたことはまだいいがーー困ったのは財布をとられてしまったことだ。「慰謝料代わりだ」と上級生に持っていかれた。
 あの中には学生証が入っている。
 なくすと困る物だ。再発行には家族に書類を書いてもらわないといけないが、実家に頼るなんて死んでも嫌だった。

(もういいわ……学校、やめよ……)

 アルバートはそう思いながら、目を閉じる。

 ――ケンカしても、ケンカしても。
 誰かを一方的にぶちのめしても。

 イライラが収まらない。
 それどころか、心に積み上がっていくのは虚しさばかりだった。



 アルバートが寮に戻ったのは、その日の夜のことだった。
 廊下でレオナルトが声をかけてくる。

「おい」
「何だよ」

 アルバートはドスの効いた声で答える。
 彼の顔を睨み付けーー愕然とした。
 レオナルトは傷だらけだった。自分と同じように。

 レオナルトは何気ない動作で、何かを投げつけてきた。
 それはアルバートの学生証だった。

「は? お前、どういうつもりだよ」
「拾った」

 素っ気なくレオナルトは答える。

「はあ!? んなわけねーだろ、何だよ、その怪我!!」

 カッと頭に血が上る。
 馬鹿にされていると感じて、アルバートは迷わずレオナルトに殴りかかった。
 その日も殴り合いのケンカになったし、2人でボロボロになった。



 ――次の日。
 校庭の隅で、アルバートはレオナルトの姿を見かけた。

 レオナルトはボールを器用にリフティングしていた。その姿にアルバートはやっぱりイラついていた。

(あいつ……上手いな。やっぱりすげームカつく)

 こちらが鬱憤をためていることに気付きもしないで、レオナルトはボールを蹴る。

「グレン」

 向かいにいた少年へのパスだ。
 黒髪の少年――レオナルトとよく一緒にいる、グレンという名の生徒だ。グレンは片手で文庫本を開いて、読書に没頭していた。
 レオナルトが蹴ってくるボールを、気まぐれに蹴り返している。

(あれは……成立してんのか!?)

 アルバートは困惑した。

 ……これでは壁打ちと変わらないのでは?

 しばらく見ていると、やっぱりレオナルトにとっては退屈だったらしく、顔をしかめている。
 そこで、レオナルトがこちらを向いた。「お」という顔をしたかと思いきや、ボールをこちらに蹴って来た。
 アルバートはそのボールを足で止める。

「は? 何だよ」
「相手しろ」
「はあ……!?」
「あいつ、本ばっかりでつまんない」

 レオナルトは当然のように言うが、アルバートからすれば「知るかよ!?」である。

「やるわけねえだろ」

 ドスを利かせた声でアルバートは返す。
 すると、レオナルトは「ああ……」と納得したように頷いた。

「俺が昨日、殴ったとこ……痛すぎて、動けないか」

 自分の頬――アルバートが殴られた箇所と同じところ――をつついてから、レオナルトは「べ」と舌を出した。
 その挑発に、アルバートの頭の血管はぶち切れそうになった。

「てめえええ!」

 怒りに任せて、ボールを蹴り飛ばす。
 それをレオナルトが蹴り返してきた。
 乱暴すぎるボールのやりとりは、しばらく続いた。互いに遠慮なく蹴っているので、受ける方はかなり痛い。ほとんどケンカだった。
 いつの間にかグレンは木陰に移動していて、座りこんで本を読んでいた。

 必死にボールを蹴りすぎて、互いに汗だくになった頃――。

 アルバートの蹴ったボールがあらぬ方向へと飛んで行く。
 それがグレンの顔面に直撃した。

「「あ……」」

 アルバートとレオナルトは間の抜けた声を漏らす。

 顔からボールが零れ落ちると、グレンは下を向いて、静かに本を閉じた。

「おい」

 レオナルトが声をかけてくる。

「逃げろ」
「は……!?」
「あいつ、切れるとやばい」

 言下にレオナルトは走り出している。
 アルバートは怪訝に思った。

 レオナルトはケンカ慣れしているようだが、グレンの方はそうは見えない。むしろ大人しい優等生だと思っていた。

(はっ……やばいって何がだよ)

 馬鹿にする気持ちで、アルバートはグレンを見る。
 そして――。

「げっ……!?」

 思わず、声を零した。
 グレンの眼光が先ほどと一変している。

 ――あれはどこからどう見ても、ガラの悪いやばい奴だ……!

 直感が働いて、アルバートは走り出した。
 レオナルトと同じ方向へと。



 その後、グレンに捕まった2人は、きっちりとやり返された。
 それもやり方が陰湿で、徹底的に関節技を決められた。めちゃくちゃ痛かったし、ちょっぴり泣いた。
 2人は満身創痍の状態で、校庭の草むらに転がっていた。
 ぼんやりと空を眺める。

「な? 言ったろ」

 レオナルトが苦い口調で告げる。

「あいつ、怒らせない方がいい」
「本当にな……」

 アルバートはげんなりとしながら、息を吐き出した。

 そして――彼は気付いた。

 いつの間にか、苛立ちが収まっていたということに。
 胸の中がすっきりとしている。
 頬を撫でる風が気持ちいい。

「なあ……」

 すがすがしいほどに青い空を見上げながら、アルバートは声を上げた。

「……おれの学生証。とり返してくれて、サンキュ」

 レオナルトがこちらを見る。
 そして、にやりと笑った。

「あれは拾ったんだって言ったろ」
「嘘つけっ!」

 アルバートは容赦なく彼を蹴った。



 ◇



おまけ ~それから4年後~



「リーベちゃん、おはよー! って、ん!?」

 リーベの研究室は、校舎の南側、3階に位置する。
 アルバートが研究室の扉を開けると、中には先客がいた。
 それが意外な人物だったので、アルバートは目を見開く。

「先生、ここは?」
「あー、それはねー。こっちの公式を使って……」
「あ、こうか」
「そうそう! あれ? レオ~、君ってけっこう頭いいんだね。意外~」
「別に……。勉強ならグレンが教えてくれるしな」
「なるほど、グレンくん。仲いいもんね、君たち。あ! アルバートくん」

 そこでリーベがこちらに気付いて、振り返る。
 いつもの頼りないふにゃふにゃの顔で笑った。

「おはよー」
「お、おう……」

 リーベの研究室は、奥に作業机。その手前にソファとテーブルが置かれている。ソファに並んで、リーベの隣――レオナルトの姿が見えた。
 2人は1つのノートを覗きこんで、勉強をしている。

 ――やたらと距離が近い。

 そのことに危機感を抱いて、アルバートはレオナルトの腕を引っ張った。

「おい、レオ! こっち!」
「は? 何だよ……」

 きょとんとした顔をしているリーベを残して、レオナルトをぐいぐいと引っ張り部屋の外へ。
 扉を閉めて、リーベに聞かれる心配を排除してから。
 アルバートはレオナルトに詰め寄った。

「お前……いつの間に、リーベちゃんと仲良くなったんだよ!?」
「は……?」

 レオナルトは呆れたように目を細めてる。

「別に? 普通だろ」
「どう考えても、普通の距離じゃねえ! っていうか、リーベちゃんに『レオ』って呼ばれてたし!」

 アルバートが知る限り、レオナルトを愛称で呼んでも許される人間は、今まで3人しか存在していなかった。
 つまり、自分たち――アルバート、グレン、クリフォードだけである。

 前に女子が調子づいて、「レオくん♪」と呼びかけた時、レオナルトは不快そうに睨みつけ、その女子を泣かせたこともある。

 レオナルトは嫌そうにアルバートの手を払うと、

「だから、何だよ。お前には関係ねえだろ」
「よくねえよ! いいか、リーベちゃんはおれの……」
「…………は?」

 途端、レオナルトの雰囲気が険悪に染まった。声のトーンが一気に下がり、目付きも悪くなる。
 アルバートはハッとしてから、口をつぐんだ。

(おれの……? おれの……、何だろう?)

 恩人――?
 いや、それよりももっと、特別な人間だ。

 そもそも、リーベとの出会いはアルバートの方が早い。6年前から知り合いだったのだ。それに、リーベがこの学校に赴任したばかりの頃、彼に声をかけて、気遣っていたのは自分だった。
 レオナルトはリーベに興味がなさそうだったし、冷たい態度をとっていた。

 つまり、リードは自分がとっていたはず!

 そのはずなのに。
 なぜか、知らない間にレオナルトがリーベと仲良くなっているではないか!

 そのことに、アルバートはもやもやしたし、胸のむかむかも覚えた。

「あー、よくわかんねーけど、むかつく!」

 その怒りを迷わず、レオナルトへとぶつける。
 拳を振り上げると、レオナルトはすかさず反応した。

「はあ!? 意味わかんねえッ」

 もともとケンカ慣れしている2人。
 殴り合ったことは数知れず。

 というわけで、これが2人の通常運行であり、日常茶飯事の光景ではあったのだが……。



「わー!? 2人とも何してるの! ケンカは、ダメ~~~~!」

 そんなことを知らないリーベは顔を真っ青にして、止めに来るのだった。


(ま……負けねえ! 絶対、レオには……! とられてたまるか――!)





 ◇ ◇ ◇




レオ&アルは、ケンカ友達の関係となります。
『三英雄』は各キャラの過去編やら、今後の展開など、いろいろと設定が決まっているので、いつかそれも排出できるといいなあと思ってます。

コンテストがダメだったら、続きをupしたいですね。
あ、でも、できれば、コンテスト、通っていてほしい……!!(お祈り)



3件のコメント

  • また三英雄の話が読めて幸せでした!

    受賞することを心から願ってます(๑>◡<๑)
  • わ〜!!番外編を見たいという希望に答えてくれてありがとうございます!!ところでリーベちゃんは相変わらずモテモテですね笑笑それにアルくんが自分の気持ちをいまいち理解できないところが可愛い!!めっちゃ良かったです!!コンテスト通りますように!!🙏🏻
  • > 六月雨空 さん

    おお、こっちも見てもらえて嬉しいです✨
    ありがとう〜〜(​ *´꒳`*​)💕


    > @yupakun さん

    こちらこそ、嬉しい感想をありがとうございました!!
    リーベはモテモテです笑
    この2人だけでなく、グレン&クリフにも懐かれるみたいですꉂ🤭
    アルバートはほぼほぼ初恋なんですが、本人はまだよくわかってないみたいですね!
    レオナルトの方はまだ恋ではないけど、信頼できる&好きな先生、みたいな感じです!
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