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SS69

今回の公開内容

没含めた雑多「テラ・スエロの冒険、没プロローグ」



 日課の盗賊いじめ……もとい、盗賊退治を終えた昼。
 薄暗い洞窟の中で、むさ苦しい男達を跨いで歩いていた時だ。
 戦利品が蓄えられている部屋に、なんだか見慣れぬものが置いてあった。
 
「た、助けて……」
 
 盛大な腹の音と懇願の声。憔悴した女の子らしからぬ状態。
 今日の盗賊は酷い奴らだったようだ。人身売買にも手を出していたとは。
 俺はさっさと檻の鍵を開け、続いて宝箱の開錠を試みる。
 
 頑丈な鎖を使っていようが、鍵の構造がお粗末ならば話は早い。
 あっという間に開き、中には宝石や金貨の山。当分は食うのに困らないな。
 ここで全部持っていくのは欲張り馬鹿だ。素早く値打ち品だけを持てる範囲で袋に入れる。
 
 懐が暖かくなった俺は、意気揚々と一歩踏み出した、が。
 
「待って……お腹が空いて動けない」
 
 色気のない言葉である。
 見た感じは年頃の女の子だと思うが、まとっている布地がぼろぼろでよくわからない。
 白いダンゴムシのような女の子が、檻の中でもぞもぞ動いている。
 
「これから近くの街で換金予定だけど」
「大きな街は……できれば避けたい」
 
 どうやら訳ありのようだ。
 とりあえず布地を少しだけ捲り上げる。
 艶やかな緑色の髪を三つ編みにして背中へ流した少女。体格的に十五歳くらいか。
 顔を上げたので観察してみる。一言で美少女。花のような桃色の瞳は、通りすがりの男女が見惚れるだろう。
 なるほど。盗賊達が捕らえていた理由もわかる気がした。
 
「じゃあ村の食事処は? 近くに美味い定食屋があるけど」
「そこでお願いしたい。名乗ることはできないけど……礼は必ず」
「よっしゃ。今の言葉を忘れんなよ」
 
 俺が嫌いなのは「骨折り損のくたびれ儲け」だ。
 よく見れば服は汚れているが、中々の上等なもの。
 どこかの貴族や領主の娘が家出して、盗賊に襲われたか。
 
 念のため手配書の束で、彼女に似ている人相はないかを調べる。
 残念ながら懸賞金はかけられていないらしい。まあ食事処で新しい手配書でも見ておくか。
 ぐったりした少女の手を取り、ゆっくりと背負う。うん、重い。
 
 相当腹が減っているのだろう。手足に力が入っていない。
 まあ育て親のおかげで力仕事は得意だし、鼻歌しながら歩き始める。
 やはり昼間に盗賊は退治しておくものだな。日差しが気持ちいい。
 
「あ、俺の名前はテラな」
「わ、私は……」
「名乗れないんだろ? 今はそれでいいよ」
 
 手配書に名前が書かれている可能性も高いしな。
 臨時収入に追加料金見込みも手に入り、俺は明るい気分だった。
 
 これが俺――テラ・スエロが巻き込まれる、へんてこな冒険の始まりである。

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