今回の公開内容
バシリス・クライム「当時先行で公開した最新話(現在更新済み)の一部」
ニアミスと言えばいいのか、ニアピンなのか。
枢クルリの電話を終えた俺らの耳に、別の着信音。
そして焦った青路シュウの声が電話口から響き、藤さんが狼狽している。
聞き耳を立てる俺――雑賀サイタと、その他二名。
カナメママは優雅に座ったままだが、多々良ララはいつでも動けるように中腰姿勢だ。
青路シュウの家に泥棒が入って、兄妹に被害が出たらしい。
そのことで警察を呼んでほしいとか、双子達の保護を頼んでいる。
なにを急いでいるのか、あっという間に通話が終了。混乱している藤さんが残されてしまった。
「サイタ、アタシ達はどうする?」
「そこで俺に振るなよ……」
鏡テオも誘拐されたらしいし、大和ヤマトと天鳥ヤクモは夕方以降にしか動けない。
あの猫耳野郎が引きこもらずに外出すれば、まだマシなんだが。
「あー、ちょっと待て」
考えろ、俺。なにか大事なことが置き去りになっている。
ここに来た意味がなくなる前に、それを突き止めなくてはいけない。
事態が混迷している。きっとまたやばい目に遭う。そんな時に立ち位置を確認するには――。
「藤さん!」
「は、はい!?」
警察への手配を準備しているダンディに、申し訳ないが声をかける。
俺が青路シュウに出会って数日。一緒に過ごした時間は半日にも満たない。
そこへ疑惑の事件がぶっ込まれている。それが薔薇の棘みたいに深く突き刺さるから、この違和感は消えないのだろう。
「シュウが本当に父親を突き落としたと思いますか?」
多分、本当の答えを知っているのは本人だけかもしれない。
だから藤さんに聞いても、それは確証には至らない。
けれど俺がほしい答えは、単純だ。
「僕はそう思いません。シュウくんは家族想いのいい子ですから」
じゃあ、それでいい。
俺が勝手にその答えを信じるだけだ。
この気持ちが裏切られる結果が待っていても構わない。
「教えてくれてありがとうございます! 俺達はテオを探しにいきます!」
「わかりました。ご武運を」
なんかもう焦っているからか、藤さんの激励が少し変だったが悪くない。
カナメママにもお辞儀をして、俺と多々良ララは店から出る。
気づけば太陽が傾いて、夕方のセールが始まる時間帯になっていた。