今回の公開内容
ミカミカミ「淡い前日譚」
最初の記憶はあやふやだ。
生まれた時から姿は変わらないというのに、精神――心が幼かったのだろうか。
ただ目の前にいる相手を親と思うこともなく、それでも親しい相手だと認識した。
ウラノスの民は素晴らしかった。
彼らには不可能など皆無に思えたが、人間達を支配しようという欲望もなかった。
愚かな王と猿達が蔓延る世界に不満などなさそうに、いつも穏やかに笑うのだ。
(……)
彼らを見ていると、人間を猿だと見下す自分が醜いものだと感じられた。
けれど人間を好きになる理由が皆無だから、この癖は直らない。
「アトミスは綺麗ですね」
そう言って褒めてきたウラノスの民に対し、僕は初めて照れてしまった。
他の妖精など見たことがないから、基準は不明。
けれど褒められたという一点だけで、とてつもなく嬉しかったのだ。
楽しかった日々の方が長かったはずなのに、寂しい月日が重くのしかかる。
穏やかな笑みを浮かべていた彼らの、故郷とも言える場所。
天空都市がミカミカミを求めてしまった。
そうしてウラノスの民は散り散りになって、目の前から消えてしまった。
僕はここで神殿を守り、彼らを待ち続ける。
磐石と思われた隠蔽も、年月の経過には勝てずに人間に見つかった。
ああ、うるさい猿達が騒いでいる。それは抜くものではないのに。
誰も僕が見えない。
それでいい。ウラノスの民だけが、僕に相応しい。
それ以外を知らないのだ。
鮮やかな金の瞳が、僕を見つめる。
氷の奥底まで覗き込むような視線に、全身が粟立つ。
そうして僕は――ミカと出会ったのだ。