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SS62

今回の公開内容

ミカミカミ「チューさん」

 

 城内でまこと密やかに囁かれる噂。
 西の棟で幽霊が出るらしい。それは生者に危害を加えるのだと。
 首筋に噛み付いて、血を吸い上げる恐ろしい存在なのだとか。
 
「ああ、チューさんのこと?」
 
 クリスが真相を確かめようとヤーを誘っていた矢先だ。
 ミカがあっけらかんとした様子で話に入ってくる。
 青い顔をしていたヤーは救いの手だと言わんばかりに、彼へと振り向く。
 
「どういうことよ!?」
「俺も詳しくないけど、チューさんは人間じゃないだけだよ」
 
 子犬のメザマシ二世の世話をしていたオウガも、何事かと反応する。
 様々な疑問は浮かんだが、ヤーは一番先に確認したいことを尋ねる。
 
「物理攻撃は効くの?」
「うん。心臓に杭とか打たれると死んじゃうって笑ってた」
「幽霊ではないのですか?」
「らしいよ」
 
 神秘的存在からかけ離れたとわかり、クリスは明らかに落胆する。
 代わりに好奇心が疼いたヤーが乗り気になり、オウガも仔犬を抱えて近寄ってきた。
 
「アトミスやホアルゥは会ってないの?」
(というか……)
(話しかけられたでしゅね……)
 
 宙に浮かぶ妖精二匹は気まずそうな顔をしており、どうにも苦手意識を持っていそうだった。
 
(視る才能があるっていうより、僕らよりって感じだね)
(でも妖精とかじゃなさそうでしゅ。もっとこう……薄暗そうでしゅね)
 
 妖精ではないが、不可思議な存在を捉えられるもの。
 城の中に住む謎の生物。話がややこしい方向へ進もうとしている。
 
「チューさんは三代目国王の友達みたいでね、特別滞在許可をもらってるんだって」
「それ、何百年前の話よ……」
「でも周知されると困るから、隠れ住んでるんだって」
「というか、なんでお前は知ってんだよ?」
「ああ、母上がね……」
 
 そこから語られる女傑の話は凄まじかった。
 幼児を抱えた母が、西棟を駆け回り、隠し扉からの地下通路探索。
 奥の祭壇には棺桶が奉られ、蓋を開けば不審な男が寝ていたと発覚。
 どこの誰だと白状させた後、強引に約束を取り付けて放置したという。
 
「――ということで、チューさんは俺の味方に入るのかな?」
「どういうわけかよくわからなかったけど、幽霊じゃないならばいいわ」
「いいのかよ……」
 
 少女の恐怖ポイントから外れ、幻想好き少女の興味からも逸れた。
 おかげで城の怪物チューさんは、今日もこっそり城で暮らすのであった。

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