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SS60

今回の公開内容

誠の友情は真実の愛より難しい「音を楽しむ」



 電子書籍の革新さに驚いていた真琴だが、世の中にはそれ以上というものがあった。
 音楽配信サービス。端末一つ、月額固定による聴き放題。
 昔懐かしの邦楽から、最新のアニソン、遥か遠くの洋楽まで。
 
 あらゆるジャンルを舐め尽くし、飲み込むような音の洪水。
 音楽を楽しむ習慣がなかった真琴にとって、そんなサービスがあることに驚天動地の心地だ。
 特に面白かったのがインディーズによるランキング下剋上だ。
 
 テレビで流れる順位をあざ笑うように、無名の新人が駆け上がる様子。
 それを自らの瞳で目撃できる快感は、多くの者を虜にしていく。
 赤い瞳を輝かせて、真琴は動画配信サービスのミュージックビデオを楽しむ。
 
 隔離された生活空間をものともせず、ネット上には国境も区別もなかった。
 それが全て善ではないが、普段の窮屈さから解放される錯覚を味わう。
 自由に移動できない世界が適応したのか、サービスが進化したのか――それとも両方か。
 
「面白いなぁ」
 
 観測している側は難しいことを考えず、純粋に楽しむだけ。
 一曲の中にどれだけの人生の時間が詰め込まれているのだろうか。
 四分弱の音楽は、いかなる年月によって構成されたのか。
 
 アニメーションがカラフルに動く様は、本当に同じ人間が描いたのかわからない。
 こんなにも自由に流れると、宇宙人が作ったと言われても信じてしまいそうだ。
 力強い歌声もそうだ。喉の仕組みから違うのではないかと疑う。
 
「主殿、次はこちらなどいかがでござるか?」
「これもオススメだ」
 
 覗見と遮音が次々と勧めてくるので、尽きることがない。
 時には自分好みな一曲を見つけると、まるで運命に出会ったかのように胸が高鳴る。
 鼻歌で奏でれば、同じ曲が好きな広谷や裕也が反応し、感想を言い合ったりするのも楽しい。
 
 ただランキング一位の曲に心動かされない時もある。
 そんな日は少し憂鬱になる。自分は他者から外れてしまったような気分。
 けれど音楽は海のように広がり、かつての一位もいずれランキング外へ流れていくのだ。
 
「ふんふふーん」
 
 寝る前にメロディを口遊み、一日の終わりを音で彩る。
 それだけで幸せを感じられるのだから、音楽には不思議な力が宿っているかもしれない。
 それを実感しながら、真琴は音楽を楽しむことを覚え始めたのである。

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