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SS57

今回の公開内容

スチーム×マギカ「週末カレー」



 アイリッシュ連合王国の週末はカレー。
 そう言われるほど、ロンダニアではカレーが愛されている。
 肉をごろごろと入れて、カレー粉を投入してからじっくり煮込む。
 
 カレーの香りがすれば「もう週末か」と、呟く者もいるくらいだ。
 そしてスタッズストリート108番の借家でも、カレーが振る舞われていた。
 パンにナン、米まで用意した本格的なご馳走の日。
 
「わたくしはお米で食べますわ」
「俺様はナンにしよっと」
 
 紫色の瞳を輝かせた少女が、さらにご飯を盛る。
 飄々とした青年はナンを一気に三枚確保し、カレーもスープ皿に大量に入れる。
 
「アタシはパスタも捨てがたいのよねん」
「カレーで煮込んだハンバーグも美味い」
 
 少しグルメな双子は毎回違う方法を試し、今日は弟のチドリがカレーの表面を軽く焼いていた。
 部屋中に広がる香ばしい匂いに、配膳をしていたメイドの足が止まる。
 
「僕も早く食べたいですぅ……」
「仕事優先」
「あわわ、はいぃ!」
 
 背後から近寄った執事の小声で驚き、持っていた皿を天井近くに投げてしまう。
 ドジっ娘メイドのナギサは、空を舞う皿に顔を青ざめさせた。
 しかし有能な犬耳執事のヤシロは、魔法を使って皿を見事に回収する。
 
「お二人も一緒に食卓についていいですわよ」
「一応、使用人だからな。ある程度の礼儀は必要だろう」
 
 しゅーん、と落ち込むメイドのフォローも行いながら、執事は冷静に返答する。
 メイドや執事は家主達と食事を共にしない。配膳などで給仕を行い、身を尽くすのだ。
 それが当たり前なのだが、この借家では常識は大体崩壊している。
 
「でも冷めるのはもったいないですわ」
「そうだな。皆で食べた方が美味しいぞ」
「あら、コージさんおかえりなさい」
 
 借家の主であり、ギルドリーダーである青年が帰宅。
 灰色の髪にまとわりついた霧の汚れを拭き取りながら、食卓へ近づいていく。
 
「お。今日は残業なしか?」
「そんな毎日残業しているような言い方はやめないか?」
「え? 違ったのん!?」
「……反論しづらいな」
 
 毎度ギルド関係で始末書作成をしているコージは、渋い表情を浮かべた。
 しかし配膳された焼きカレーハンバーグ(粉チーズかけ)を目の前に、疲れなどあっという間に吹っ飛んでしまう。
 
「まあ、とりあえず食べよう! ほら、二人も一緒に」
「……家主の命令なら仕方ない」
「あわわ、ありがとうございます!」
 
 時にはこんな平和な時間も存在する。
 カレーの偉大さは、そんな日常を象徴するものだった。

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