今週(先々週)の公開内容
ミカミカミ「酔った勢い皆無」
最初の出会いを思い返しても、自分の直感は正しかった――ツェリは常々痛感していた。
幼かったはずだ。それなのに同い年の少年を見て、初めに出てきた印象が「胡散臭い」である。
にこにこと穏やかに笑う顔も、握手を求めてきた爽やかさも。全てが作り物のように綺麗で、嘘で塗り固められた真っ黒な生物と怪しんだくらいだ。
実際に腹の中は黒く、その底は言い知れぬ恐怖さえ覚えるほどだ。
時々、綱渡りをしていると思うほどだ。しかし今更遠慮したところで、この青年が変化するとは考えられない。
殺されない保証はないが、死なせる利点も見当たらない。なにせお互いに一番大切なものは共通なのだ。
「ちょっと腹黒! ミカちゃんが意識を取り戻したって!?」
雨が降り続ける村からの帰還。それに伴う噂はすぐに届いた。
人形王子が目を覚ました。それは重臣達にとっては面白くないことだろうし、王子達も些か不満を抱いているのは想像にかたくない。
しかしフィルは違う。腹黒――第四王子にとって、彼は大切な弟なのだ。
「私に知らせず、会わせる気もないってどういうことよ!?」
「いつかは再会させるけど、今は長旅で疲れてるだろうからね。ああ、お土産の地産ビールはいるかい?」
「その瓶でアンタの頭を叩けばいいのね?」
「残念。中身が詰まった樽だよ」
ふわふわと話を逸らされ、怒りが治らない。
目の前に差し出されたビールを一気飲みする。大型のコップに入っていたが、一切気にしなかった。
がぁんっ、と執務机にコップを荒っぽく置く。口元についた泡は親指で拭い、優男を睨みつける。
「相変わらずお酒に強いね」
「アンタには負けるわよ」
酒を一気飲みしても顔色が変わらない婚約者を前に、第四王子はにこやかなまま提出された書類を差し出す。
「まあミカについては新たな問題が浮上したからね。慎重に行きたいのさ」
「ちょっとそれ見せなさいよ」
書類を受け取り、ツェリは頁をめくっていく。
酒でも変わらなかった顔色が、次第に青ざめていった。
「これは……」
「懸念していたけど、まさかこんな形になるなんて」
「ミカちゃんの顔に傷!?」
「そこかー」
狼狽したツェリの一言だが、フィルとしては肩から力が抜けてしまう。
そして即座にミカがいる場所へ駆け出そうとした彼女を、フィルは和やかに見送った。
数分後、フィルの手先に捕まったツェリ。彼女はお土産のビールを飲み干し、空になったコップを婚約者の顔に投げつけたのである。
なお、避けられたらしい。