今週(先々週)の公開内容
スチーム×マギカ「渡し賃の方が安い」
忍者。侍。芸者。和国の文化。閉鎖された島国で培われた神秘の存在。
それは遠くの国に住む者にとって、興味惹かれる謎だ。
「というわけで、忍者の小刀を入荷しました」
「フーマオさん……」
目の前に差し出された武器を見下ろし、ユーナは呆れたように息を吐く。
商売熱心なフーマオは、貿易港での取り引きを盛んに行う。特に和国の品物には目がない。
陶磁器、着物、食物、書籍や日用品まで。実際の金額から十倍以上でも売れるのだ。
「問題はここからです」
「仕入れからではなく?」
握り手には血がべっとりと残っており、鞘には不気味な黒い手形。
それらを隠すようにぐるぐると護符が巻かれており、さらに陰陽師が扱うようなお札も貼られている。
「呪われてるんですよ、これ」
「見たまんまじゃないですか。なんで入荷したのですか?」
「東洋の曰く品という付価値です」
「負の価値の間違いでは?」
アイリッシュ連合王国の国民性というべきか、それとも人間の業の深さか。
呪いの品物というのは人気があるのだ。美術館に飾られている椅子などでも、伝説が付属している場合が多い。
西洋の呪いは即死なことが多いが、東洋はじわりじわりと追い詰められるスリルが豊富。そのせいでマニアもいる。
「というわけで外装は壊さずに、解呪してください」
「わたくしは魔導士であって、呪術士ではないのですが」
少し勘違いしている商人に、少女は厳し目の口調で訂正する。
「どう違うんですか?」
「呪いはほぼ専門職なんです。しかも地域差が酷いので、現地の職人に頼むのが一番有効ですわ」
「つまりロンダニアの専門職ではお手上げだと?」
「ええ。まあ天主聖教会でも難しいかと」
フーマオの背後をじっと見つめ、しどろもどろに告げる。
視線の意図に気づいた店の主人も、疲れた顔で苦笑いをこぼした。
黒い紐に油を垂らし、ぐるぐると固めて人型にしたような歪さ。
首に絡まり、肩に乗っている。目も口もないのに、視線と声を感じる。
ふはぁ、と生温かい息が漂う。それは鉄臭さと肉の腐臭を伴っていた。
「悪霊は陰陽師系だったかしら……」
「エクソシストは?」
「あれは緑魔法に類似する方法での排除ですから、微妙な線ですわね」
首筋に皺ができる。じゅるり、と紐から油が滴る音が聞こえた。
少しうなだれた店主の様子を窺いながら、ユーナは腰の革ベルトの固定を外す。
「燃やせるかしら?」
「ウチも!?」
「……善処します」
「あー、駄目そうですね」
そうして首筋がわずかに焦げたものの、一命を取り留めたフーマオだった。