爛々と昼の星見え菌生え ――高浜虚子

昼間あるはずのない星が、しかも爛々と見え、そこにキノコが生えていた。
虚子が滞在先の小諸の人から聞いた話だそうだ。
井戸を覗くと底に溜まった水面に星が見え、石の間からキノコが。
キノコとは実に不思議なものだ。
ご存知の通り、実体はカビと同じく菌類であり、菌糸を伸ばし胞子を作って繁殖する。その過程をややグロテスクに感じるのは私だけだろうか。
茶と緑を基調にした落ち着いた山中で、「俺は危険だぞ!」と極彩色に主張するヤツら。にょっきり現れると、一瞬心臓が波打つ。傾奇者だ。

掲句は解釈に難く、星を先に逝った俳人たち、菌を長野の若い俳人たちと捉える読み方もあるそうだ。
だが、そういった背景を知らずに見るこの句は、ただ幻想的である。

真昼の空には爛々と星。
地にはキノコ。

自分だけに見える、美しくも醜悪な、魑魅の世界。
と、そんな妄想を広げてみるのはどうだろうか。

そこはどんな色で、どんな匂いがするのだろう。
どんな生き物がいて、どんな音がするのだろう。

虚子が連れ去ってくれる宇宙をしばし感じ、心のままにそれを書く。
作家の喜びとはそういう類のものなのだろうかと思いました。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する