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賢いヒロインコンテストに向けて冒頭だけ書いてみた

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☆いじめてくる彼女を百合堕ちさせる3つのステップ


 ばしゃん!!
 冷たい水が全身にかかる。
 巫女装束がびしゃびしゃになってしまった。

 白い衣と、紫の|袴《はかま》。
 まだ見慣れない色合いの装束だ。

 まだ寒さが残る春風が吹いた。
 濡れた体をなでる。
 寒い。

 『斎藤心愛《さいとうここあ》』は――
 いや、ここでは苗字は捨てなければいけないのだった。
 
 心愛はいじめを受けている。

「あなた、本当に愚図ね」

 そう言ったのは、心愛と同じような巫女装束を着た女性だ。
 しかし、その装束の布の質は数段高く。
 頭には豪華な髪留めを付けている。
 それだけで、心愛よりも上の立場なのだと分かる。

 彼女の名は『|華鈴《かりん》』。
 心愛の上司に当たる人だ。
 年齢的には大差ない。むしろ彼女のほうが年下かもしれないが。

 華鈴は|愉《たの》しそうに、顔をゆがませる。

 彼女の近くには、空になった桶を持った取り巻きがいる。
 心愛に水をぶっかけた張本人だ。

 華鈴が命令をして、それをやらせた。

 具体的な理由なんてない。
 だって、いじめだから。

 ここでは、この世界では異端者である心愛のことが気に入らないのだろう。
 弱い者をいたぶることが好きなのだろう。
 他者を攻撃して、自身の優位性を、安全圏にいることを再認識して喜んでいるのだ。

 だからこそ、都合がいい。

 心愛は部外者だ。
 この世界では、なんの力も持っていない。
 元の世界で培っていた学歴も意味をなさない。
 天涯孤独の身だ。

 本来であれば、だれも心愛に興味を持たないはずだった。
 そのまま飢えて死ぬはずだった。

 だが、華鈴は、心愛に関心を持っている。
 その行動に興味を持っている。

 好きの反対は無関心とは、よく言ったものだ。
 まずは興味を持ってもらわなければ、好きになってもらうこともできない。

 たとえ、それが『嫌い』と言う感情であっても。
 華鈴が心愛に関心を示しているのなら、いける。

 華鈴に恋をさせる。
 心愛を好きにさせる。

 華鈴は力を持っている少女だ。
 惚れさせることで、その力を操れるようになれば。
 心愛は、なんの不自由のない安心安全な暮らしを手に入れることができる。

 華鈴を百合堕ちさせるのだ。
 自分の暮らしのために。





 心愛は普通の少女だった。
 高校を卒業したばかり。
 死亡していた大学に受かり、新生活への期待と不安で胸を満たしていた。

 だが、朝の散歩中。
 気がつけば見知らぬ場所に居た。
 そしてなんだかんだあった末に、この後宮、『七曜宮』に押し込まれていた。

 この七曜宮は、この国『天原』の主である神皇の妃候補たちを集める場所。
 それと共に、『巫女』たちを集めている場所でもある。

 巫女は精霊を体に宿して、魔法を扱う人々のことを言うらしい
 天原の女性には、まれに巫女としての才能を持つ者が生まれてくるらしい。

 巫女の力は天原にとって重要だ。
 さまざまな産業を助け、さらには軍事力の底上げしている。

 だからこそ、後宮で大事に囲うのだろう。
 万が一にも他国に行かないように。

 心愛にも巫女としての力があるらしい。
 血液を採られて、なにやら調べられた結果だ。
 だが、現実としては心愛には巫女の力など使えない。
 精霊なんて不思議存在はこれっぽっちも感じなかった。

 巫女の待遇は、巫女の力によって決まる。
 このままでは、心愛はただの役立たず。
 下級巫女として、雑用だけで一生を終えてしまう。

 だからこそ、『華鈴様百合堕ち計画』は必須だ。
 七曜宮には七つの宮殿がある。
 華鈴はその宮殿の一つを与えられている特別な巫女だ。

 巫女としての力はもちろん。
 権力もスゴイ。
 その力を操ることができれば、一生安泰だ。

 そして、その計画の初めとして心愛は――
 ラジオ体操をやっていた。

 心愛は小学生のころから、毎朝ラジオ体操をやっている。
 特に音楽などなくても、勝手に体が動いてくれる。
 慣れた動きで心愛が体操をしていると――

「あら、ずいぶんと滑稽な舞ね。愚図はまともに踊ることもできないのかしら」

 食いついた!
 心愛は内心ほくそ笑んだ。

 やってきたのは華鈴だ。
 彼女はクスクスと馬鹿にしながら近づいてくる。

「華鈴様、これは舞ではありません」
「あら、じゃあ何なのかしら? その奇妙な動きは」
「ラジオ体操です」
「はぁ?」

 なにを訳の分からないことを、と言うように華鈴が声を上げた。
 それに対して、心愛は冷静に返す。

「これは私の国に伝わる運動なんです。これを毎朝やれば、健康にも美容にも良いんですよ。私の国の人々は、その多くが80歳まで生きるんです」

 嘘は言っていない。
 ラジオ体操が、健康に良いか悪いかで言えば、どちらかといえば良いはずだ。
 そして日本の平均寿命が80歳を超えているのも事実。
 別にラジオ体操のおかげで、なんて言ってない。

「美容にも……」

 華鈴は考え込むように、心愛を見た。
 幸いなことに、心愛は先進国の人間だ。

 一方の天原は、雰囲気的には江戸時代くらいに近いだろう。
 
 心愛の方が単純に良い暮らしをしていたため、肌質や髪質は華鈴に勝っている。
 単純な顔の出来では負けているが。
 
「私にも教えなさい」

 狙い通りだ。
 いつの時代も女性は美容に弱い。
 華鈴は自分がキレイになるため。
 そのためなら、心愛から物を教わっても良いと考えたのだろう。

「分かりました。ただやり方を間違えると、返って体を悪くしてしまいますから。毎朝、私とやるようにしましょう」
「ふん、それで良いわよ」
「それでは教えますね」

 心愛は体操を教えるために、華鈴の体を触る。

 これが狙いだった。
 別に心愛が女性好きなわけじゃない。
 ボディータッチは好感度を上げる行為だ。

 しかもこれを毎朝やる。
 
 単純接触効果というものがある。
 最初は興味が無かったものでも、なんども接触していくうちに良い感情を抱くと言うものだ。
 動画サイトなどでしつこいほど流れている広告などは、この効果を狙っての物。

 ちなみに、これは強い嫌悪感などを持っていると逆効果になるらしい。
 しかし華鈴は、心愛に対してそこまでの嫌悪感は抱いていないはずだ。
 彼女は嫌悪感ではなく、愉しくて心愛をいじめていると思う。

 まぁ、どのみち結果はすぐに出てくるだろう





 一週間後。

「ほら、さっさとやるわよ」

 心愛がいつもの場所に向かうと、すでに華鈴が待っていた。
 一週間でラジオ体操は華鈴の『習慣』になっていた。

 人は何かを初めるときが一番大変だ。
 朝のジョギングなど、やると決めても三日で止めてしまう人がほとんどだろう。

 だが、一度習慣にしてしまえば大変なことなどない。
 当たり前に料理をしている人は、それを面倒がったりしない。
 
 習慣になってしまえば、あとは心愛が何もしなくても華鈴はラジオ体操に来てくれる。

「おはようございます。さすがは華鈴様、今日も早いですね」
「あたりまえでしょう。私はあなたよりも早起きできるのだから」

 そして華鈴からの心愛への嫌がらせも減っていた。
 ラジオ体操を通じて、華鈴の『知り合い』くらいのポジションには収まっているはずだ。

 まず第一段階はクリア。
 ここから少しずつ、彼女を落としていこう。

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