※本記事は『この中にひとり、推しがいる』本編最終話までのネタバレを含みます。※
完結からもうすぐ1週間だ。完結ブーストのおかげでまた新しく読んでくれる人も増えて、それでまたちょっとポイントが伸びたりした。慎ましやかだが好循環は好循環だ。それに、読んだ人から評価されるのは素直にとても嬉しい。
現在は後日談を更新中で、それが終わったらまたしばらく完結表記に戻す。
続編構想がないわけじゃないけど、それはまた後で話す。
僕は自作語りが大好きな人間なので、この記事はそういった場になる。苦手な人はブラウザバックだ。
読んだ人に率直に聞きたい。どうだった?
この「どうだった?」というのはいろんな意味があるが、一番聞いてみたいのは「エルナがノセさんだっていつぐらいでわかった?」だ。僕は「ネタバレされても面白い作品」を書くのが理想だと思っているが、本作に限ってはやっぱりここを知って読むと面白さが大きく減ってしまうだろうなと思う。
エンタメ作品における「謎」というのは、わかりにくければ良いというものではなく、「十中八九こうだと思うんだけど、やっぱり確証は持てないな……」というドキドキ感だけで十分面白さが成立するものだと思っている、この「十中八九あたり」という状態と、「ネタバレによって100%正解だとわかってる」状態とでは、やっぱり天と地ほどの開きがあるよね。
だからミスリード要員としての委員長を配置したけど、考えればノセさんかもとは疑えるようになっている。
本作を「推しが誰なのかを探す」という作品にしようと決めた時点で、一番頭を悩ませたのが「謎」だった。僕はミステリーの作り方をよく知らない。
ノセさんがエルナとなるのは最初から決めていた。しかしこれは問題があった。
莉央も、ロコも、麗も、「この子がエルナだったら嫌だな」というキャラ造形にしている。そんなキャラがエルナであっても、意表はつけるが別に面白くないし嬉しくもない。だから、ノセさんだけがあからさまに「この子が一番エルナっぽいな」というキャラとして残ってしまう。
早々に暁人がノセさんを問い詰めたのは、もちろんさっさと容疑者候補から消させようという目的もあったが、そもそも「あからさまにエルナっぽいやつを残したまま話が進む」のは読者にとってストレスになるだろうと感じたからだ。それに早々に暁人が相談できる相手を作り、親密さを上げられるようにしておけば、エルナだと判明したときの嬉しさも増す。一石二鳥どころか、三鳥四鳥くらいありそうな展開プランだった。
しかし、読者は放っておけば「あれ、ノセさん別に自分がエルナじゃないとは言ってないな」と気づく。
たぶん、ストレートに残る3人の中にいると考えた読者は少ないんじゃないだろうか。どこかで捻りを入れた答えを想定するはずだ。
だから、「捻りを入れた答え」を用意してやることにした。それが委員長だ。
最初にアクキーを拾った人物が、実はそのアクキーの持ち主。いかにもありそうな展開である。性格的にもエルナに近くて、とりあえず安心する「答え」だ。僕は僕なりに「謎」の作り方を考え、この「安心する答え」がミスディレクションに必要なものだと思った。おそらく、最初にノセさんの秘密がわからないまま進行した時、ノセさんも委員長も「安心する答え」にはならなかっただろう。だが、ノセさんの秘密の公開を挟むことで、読者に考えるターンが入る。「じゃあ、あの3人の中にいるのか? 本当に?」と考えた時、読者が思わず飛びつきたくなる答えが「委員長」だった。
この「安心する答え」は、脱出ゲームから学んだ発想だ。脱出ゲームによく行く人は知っていると思うが、ああしたゲームには謎解きを進めていくとたどり着く「偽りの正解」が用意されている。しかし、きちんと理屈で考えていくと、その「偽りの正解」には辻褄の合わないポイントがあり、「本当の正解」にたどり着くには自発的にロジックを展開させなければならない。
他にもいろいろ気を遣った。
ノセさんが属性過積載気味なのもそうだし、本編で視点キャラとなるのは暁人とノセさんだけにしている。麗やロコあたりを視点キャラにすると彼女たちのことをもっと掘り下げられたのだが、あえてしなかった。代わりに後日談ではこの2人を視点キャラにしている。
実際、このミスディレクションにはClaude3.5も引っかかったのだから、確度としてはかなり高かったと思う。
まぁ、それでもノセさんが怪しいと気づけた人はいるだろう。作中内の情報からというより、メタ的な思考としてだ。
一回容疑者から外れた人間が犯人というのは、それも「安心できる答え」だし、一度ノセさんを疑うと委員長よりもそれらしい理由が揃っている。だって正解だからね。
それに、物語を作る人の中には「委員長がエルナでも、物語は面白くならない」と思う人もいたはずだ。Claude3.5が「物語の緊密性という観点から、班外の人間の可能性は低い」と言っていたのはめちゃくちゃ的確な指摘である。
ただ、そこで気づいた人を惑わすような仕掛けはしなかった。そんなことをしても話が面白くならないからだ。「多分そうだと思うんだけど、確証はない」という揺らぎの時間だけでも、十分読者をドキドキさせることはできる。だから、これで良いのだ。それに、委員長を疑っていた人も、4章を読み進めているうちに「もしかして?」と思うこともあったかもしれない。
▼続編の構想
先に言ってしまうと、「続編にすぐに着手する」ということはない。でも考えはある。
本作『この中にひとり、推しがいる』のタイトルは、すでに修学旅行編で回収されてしまった。本作の中心となるのは、暁人をはじめとしたあまりもの班メンバーたちの青春の物語だが、その上で「Vtuberのファンダム」と「青春に潜む謎要素」のふたつを外して物語を作るべきではないと思う。
なので、引き続き『この中にひとり、⚫︎⚫︎がいる』の様式は崩すべきではないと思っている。
もちろん、「この中」があまりもの班のメンバーである必要はない。他の生徒かもしれないし、先生たちかもしれないし、古参羽友かもしれない。事務所のVtuberたちという可能性もある。
続編は、あまりもの班のメンバーに「文化祭で実績をあげ、Vtuber部を成立させろ。さもなくば白羽エルナの正体をバラす」という怪文書が届く話だ。
タイトルは『この中にひとり、脅迫者がいる』である。ロクでもねぇタイトルだな。