82億581万lbから商業ギルド分を省いて、8億2058万1千lb、リンランディアさんに、16億4116万2千lb、で、残った金額、57億4406万7千lbが、俺の手元に残るって事だ。
正直、数字がデカ過ぎて実感がないと言うか、よく分からん事になっている。1111万1千百lbが約、517倍になって手元に帰ってきた。
呆然としながら数種類の書類に目を通し、小さな手でせっせとサインを書き込む。
何故かツクヨミが、
『ふっふっふっ。些か少ないようにも感じましたが、まずまずですね』
と、上機嫌?だ。
俺が書き込んだ書類たちは、筆跡がじわりと光り無事契約が終了したようだ。
「さて、オークション代行出品の契約は、こちらをもちまして終了とさせて頂きます。ローズコインをご提供下さった、ナユタさんの個人情報などはフマラセッパの商業ギルドを通していますので、他に漏れることはありません。他、何か疑問点はございますか?」
「私から貨幣が出品された事が漏れなければ、他は特にありません」
余計な厄介ごとを抱えそうだしね。俺はどちらかと言うと細く長く派だから、目立たずひっそりと平和に暮らしたいんだ。
『世界の貨幣バランスが崩れない程度にじゃんじゃん出せば良いのに…』
(だまらっしゃい)
「では、先程従魔に出していた水、そして食事と計算機の話をさせて頂きたいと思います」
「はぃ…」
「先ずは水ですが、聖水と鑑定に出ておりましたが…」
「えっと…」
まさか
「家の裏に聖水が湧く泉があります」
とか言えないよなぁ…
「秘匿しますわ」
「「え?」」
俺の髪の毛を器用に動く獣の大きな手で、三つ編みにして楽しんでいた母様が突然話に参加した。
「ですから、秘匿しますわ。我が一族の保有す禁区領域の秘境の泉から湧き出る聖なる水ですの。部外者には禁秘なのですわ」
母様…秘匿するとか言いつつめっちゃ言ってるよ…まぁ良いけど。
「成程…ところでナユタさん…そちらの方は…?護衛の方ではないのですか?」
「はい…あの…」
チラッと母様を見る。母様はニカっと笑うように目を細めカリブンクルスさんにキッパリ言い放った。
「ナユタの母です。息子がいつもお世話になっております」
母様は胸に大きな手を当て、副ギルドマスターに浅く礼をした。母様の尻尾が左右にめっちゃ揺れてる。
カリブンクルスさんは驚いたのか、口が半開きのまま止まっている。
『キャー!憧れてた言葉を言えましたわー!!!って感じで滅茶苦茶喜んでますよ。アネットさん』
(母様…)
ツクヨミが母様の声音を真似して、母様の心の内を教えてくれた。なんか…泣けてきた。いっぱい子供にしてあげたい事があったんだろうな…
「…あ…失礼しました。家族のカタチは千差万別ですから」
(血のつながった親子なんですけど…納得してるみたいだしまぁいいか)
「…それでその泉の水なのですが、定期的に商業ギルドに卸して頂く事は可能でしょうか?勿論、仕入先のナユタさんほか、一族の事は精霊契約にて秘匿させて頂きます」
(ツクヨミ…聖水って卸しても大丈夫なのか?貴重なものって聞いたけど)
『そもそも、聖水を作る神が消されてしまったので、那由多の泉の様な神に祝福された名残のある場所以外で採取するするのが難しいのです。少量ならばそうそう詮索はされないとは思いますよ』
(わかった。少量だな。あ。あとさっきの事言っておくか)
『あの魔獣コレクターですか?』
(そう)
「少量でしたら可能ですが、定期的と言うのは難しいかもしれません」
「定期的は難しいと言うのは?」
「実は先程…」
俺は、先ほど会った魔獣コレクターの件をカリブンクルスさんに言い、フマラセッパに来訪する事さえ、しばらくは心配で難しいと言ってみた。
「魔獣コレクターのヴェルミクルムですか…」
「はい」
「あの男は最近、北の帝国からフマラセッパに来るようになりましてね。獣人や魔力の高い者を集めているようで、他の街でも珍しい魔獣の他、孤児院や奴隷商を物色して買い付けているようです」
「魔力の高い者を集めてどうするんでしょうか?」
「それも聞いた者がいたそうですが、「女神様の糧とするのです」と、言っていたそうです。マントの裏の腰には、小さな魔獣の尻尾や腕をぶら下げてましてね。何の魔獣か聞いた者が居たそうですが、「人間の貴族に化た貴重な魔獣が女神様の糧として献上されたのでお残りを祝福として頂きました。素敵でしょう?」と言われたそうです。糧とは何なのか…我ら精霊族の信仰する神は、自然しかありませんので、そのような物をありがたがる人族の女神崇拝は我々にしたら理解はできかねます」
…糞女神の加護がついた何かってそれの事か…俺の一族の匂いがするってつまり…酷い事をしやがる。
あ…お祖父様!ティーモ兄様!爪が高そうなお絨毯に食い込んでます!いや。俺も漢だ。手持ちもある。この部屋の修理費用は受け持ちます…
「ほっ!これはこれは。同じ魔獣仲間の遺骸を弄ぶ者に怒りを抑えきれなくなったようですな。威圧も凄い」
「私の従魔達は感受性が高くて…申し訳ありません。こちらの絨毯は弁償させて頂きます」
「いえ、予算を削る為に此方は私が作った物ですからね。まだ何枚かございますので、弁償は結構ですよ。今回那由多さんには稼がせて頂きましたからね。当ギルドの今年の予算も増えましたし」
流石ドワーフ…この高級そうな絨毯が手作りでした…
「では、ヴェルミクルムがフマラセッパから出立した時に、此方からご連絡が行くようクリスタルをお渡しします」
おお!携帯電話みたいな物かな?割と異世界って便利なのでは?
「はい。ありがとうございます」
それから焼飯オムライスに使っている醤油やケチャップ(香辛料を買った時に作ってみた)の事、書くものを借りて算盤の絵を描いてどう使うかなどを説明して、それに有用性を見出したカリブンクルスさんが商品化に向けて動くなど色々とお話し合いをした。明日、頼んだ依代を受け取った後、調味料の使い方など味を教えにまた来ることとなった。
今日のお泊まりは商業ギルドが用意してくれたよ。
「では此方、クリスタルのお貸し出し用の書類、並びに聖水に関する書類です。調味料やレシピなどは明日また書類をお渡ししますので、よろしくお願いいたします」
「はい」
まだ明日もあるけど、やっと商業ギルドの一番大きなことが終わったよ。さて。夕方からオークションを見るか、カリブンクルスさんおすすめのご飯を食べに行くか…悩みますね。