• 異世界ファンタジー

非有の皇子×???


(ツ…クヨ…ミ…?)

 自分の持てる限りの全力で浄化魔法を放つ。そして俺はそのまま眩いほどの光に飲み込まれた。






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(ここは…どこだ…?)


 気が付けば辺りはまるで銀河の星屑が散りばめられた空間で、俺はただただゆらゆらと海月の様に空に漂っていた。

 下…そう…下…に居る…光る人物の周りには何人かの人らしき者が見える。

『さぁ。此方へおいで。

 選ばれし星の管理者のたまご達よ』
 
 近寄ってみると、光ってよく見えない人物が周りに居る者たちに話しかけていた。

『君達はまだ見習いだが今日から実戦となる』

 周りに居るもの達は不形成な者や…足や腕が多い者たりないもの…肌の色が灰色だったり人の形をしていない者が多かった。その様な者達に囲まれ、光ってよく見えない人物は教師の様に言葉を続ける。

『さて、君達にはこの星の種を授けよう。君達が描く思い思いの星を、生命を上手く最後まで育てることができたら一人前だ。生命の数は皆一緒だよ。種は優しくそっと扱うんだ。落として爆ぜさせてはいけないよ?ちゃんと丁寧に壊さない様に星の寿命まで管理するんだ。途中で投げ出さず心して取り組む様に』

『『『『『『『はい!』』』』』』』

(あ…学ランを着ている子が居る…)

 肌の色が緑色だったり青かったり、俺とは違う形だったりする中で、1人だけ黒髪で俺と同じ肌色で…同じ形で…日本ではありふれた学生服を着た少年がいた。

 学ランの少年は星の種を受け取ると嬉しそうに掲げてクルリと回った。

『僕だけの星…!!』

 少年は余程嬉しいのか、目をキラキラさせ溢れんばかりの笑顔で走り去ってゆく。

 俺はその子がとても気になったので、ゆらゆらとついて行くことにした。



『さぁ!名前は何が良いかな?僕がいた地球の様に青く美しい星が良いな。うーん。ブルーアースなんてどう?でもベタすぎるかな…?え?ベターなんじゃ無いかって?親父ギャグじゃないからね!!』


 1人でボケツッコミをしているのか、俺が見えない何かと話しているのか、分からないが…少年はころころ表情を変え嬉しそうに名前を考えていた。


『うーん…そうだ!エリジウムなんてどう?英雄が住む楽園って意味だよ。

 君の名前はエリジウムだ!

 ああ!!自分の星を育てるだなんて夢みたい!!』

 少年は両手で星の種を嬉しそうに掲げクルクル回りながら名を決めた様だ。そのまま星屑の銀河を走って行く。





 少年の後を追ったらいつの間にか俺はローマの遺跡の様な建物の中にいた。

『さぁ!今日から此処が君の定位置だよ!』

 少年は水盆の上にそっと星の種を置くと星の種は水に沈まず、俺が子供の時に遊んでいたパイプボールのボールの様に宙に浮いていた。

『最初はやっぱりミジンコからだよね?アメーバだっけ?単細胞生物?

 あー。歴史の授業ちゃんと受けておけばよかったな…でも絶対恐竜は欲しいよ!かっこいいもの!!

 電車にモノレールに飛行機に!消防車!!これ絶対必要!!
 
 あれ?でも人間っていつ生まれるんだっけ??先ずは空気と水だろ?それから…』


 やがて少年の星の種は美しい青と緑の球体になった。地球によく似た色だ。

 ただただ俺は、空中を漂い少年を傍観する。




 暫くすると場面は変わり少年が悲しんでいた。



『ねぇ!どうして?!どうしてなの?!どうして人間は戦争をして自然を壊し、毒を撒き散らして大地を傷つけ星の命を縮めようとするの??ねぇ!何度同じことを繰り返せば良いの?!』




 少年の慟哭を聞いているとまた場面が変わった。
 水盆の星の種があった場所はキラキラと粉の様な何かが舞っていた。

『…また失敗だ。どうして…どうして…人は愚かなの?…また***から種を貰って来なきゃ…』

 何度か少年は星の種の消失という失敗を繰り返した。
 すでに新しく星の種を貰ってきた少年の目には、かつて無邪気に輝いていた光は失われていた。


 少年は星の種をもらうと、いつも決まった様にある程度星の環境を整える。いつだって青と緑の星だ。俺がいたかつての地球の様に。


『*****に言われたんだ。知的生命体を作るのが良く無いんじゃ無いかって。

 頭はよくなくたって良い。

 ただ生きる為に本能のままに生きる…そんな生き物だけで良いんじゃ無いかって。

 実際に*****の星の種は上手くそだってる。彼は既に3つ目の星の種を育て始めた…いずれ彼の星の種達は太陽系の様に大きな惑星になるよ』

 少年はしゃがみながらそう言うと、水盆の星の種を見ながら話し始めた。

『でもね…僕は違うと思うんだ…僕の星は一つも成功しないけれど…

 喜びも…怒りも…哀しみも…楽しみも…新しい文明を作り美しさや知識さえも共有出来る愛ある生き物がいても良いと思うんだ…乱暴でも…愚かでも…みんな僕の愛おしい子供達…

 …そうだ。何故気が付かなかったんだろう?

 星のエネルギーを奪うような大規模破壊を防げば良いんだ!何故思いつかなかったんだろう?』

 良い事を思いついたのか、少年はパンッと手を打ち立ち上がった。

『文明をある程度抑止させよう!核戦争が始まる前…そうだな…地球で言う産業革命が始まる前あたりでどうだろう?

 そうだ!

 剣や魔法がある世界なんてどうかな?今まで地球と同じ様な発展をさせたから悪かったのかもしれないし!!

 僕のいた学校で異世界の漫画やアニメが流行っていたじゃないか!!

 なんで忘れていたんだろう?!』


 少年はかつて初めて星の種を貰った時の様に、目に輝きが戻り笑顔でクルクルと踊り始めた。

『星を護り育てる栄養の龍脈を作って…

 僕の力を少し入れて…

 龍脈の管理は異世界物でお馴染みのユグドラシルを配置…

 大切な木が枯れない様にダンジョンの奥底に配置して…子株を地上に出ーーす!

 子株を管理するのはハイエルフ!映画にもなった海外の児童書の美しきエルフにドワーフ…それに獣人も作ろう!!知識の高い動物も!!ファンタジーといえばドラゴンも必要だ!

 なぜ知的生命体に人だけを作っていたんだろう?

 そうだよ!僕の星なんだから好きにして良いんだ!!』


 まるで指揮者の様に指を振りながら少年は踊り、少年の言葉通りに目まぐるしく星の種は育っていく。


『あ!剣と魔法の世界なら、分厚いドラゴンの皮膚さえ断ち切る様な丈夫な特殊鉱物と…それと魔法…魔力が必要だよね…

 僕の力だとこの星の子には強すぎるから濾過する道具も必要だ!

 でも僕の力を濾過しても星の子たちが魔法を使えば不純物が混じってその残滓で地上が穢れてよく無い者が多く生まれてしまう。

 溢れた穢れた力はダンジョンに押し込めてダンジョンも濾過する道具の一つにしよう。星のエネルギーを使わず永久的に最初に込めた僕の力を濾過する装置…

 そうだ!足りない分はこの星の子達に任せよう。沢山生命を殺した罪深い子に!!

 1人じゃこの星は重いだろうから…どうしよう…

 うーん…

 そうだ!

 7人にしよう!

 ラッキー7だし!なんか時代劇とか宗教であったはず!!』


 また場面が変わった…


『やぁ!はじめまして、1番目の罪深い子…

 君は与えられる食欲のままに生命を沢山殺したんだね?

 そして小さな子供達を沢山食べたんだ?

 なんて醜悪なんだろう?

 そんな君には蝿の体をプレゼントしよう。この世界の力を永久的に濾過し生まれ変わった君が殺した人々に還元するんだ。

 え?永久は嫌だって?…うーん。じゃあ君が殺した人々が生まれ変わって安らかに笑顔で無事に寿命で死ぬまでって言うのはどう?

 え?これも嫌?

 じゃあ何なら良いんだい?君の罪は大罪だよ。死んでも消えない罪だ。まだ少ないとはいえ三分の一の生命がいなくなってしまったのだから…。

 君が選ぶのは永久か期限付きか、どちらか一つだよグーラ』


 また場面が変わる…


『やぁ!はじめまして、2番目の罪深い子…

 君は強欲にまみれ、分布相応にも人のものを欲しがり沢山の命を殺したんだね?

 そんなに何個も金銀財宝が欲しかったのかい?

 なんて欲深いんだろう?

 そんな君には蜘蛛の体をプレゼントしよう。この世界の魔力を永久的に濾過し君が殺した人々に還元するんだ。

 え?君もグーラと同じ事を言うんだね?良いよ。君にも選ぶ権利がある。

 君が選ぶのは永久か期限付きか、どちらか一つだよアヴァリチア…』


 また場面が変わる…

 何度も何度も場面は変わりやがて星の種の周りには7人…7匹の虫が浮かんでいた。

 虫達は場面が変わるたびに姿を変え…そしていつの間にか共食いが始まっていた…




『ねぇ。おじさん』


(え…?お…れ…か?少年は俺に話しかけてるのか?)


『なんて人は愚かなんだろう?

 途中までは上手くいっていたんだ。みんな最後まで役割を果たしたよ?

 でも今回の子は虫になっても欲深く、他人の力を求めはじめた。

 ほら。

 力に貪欲なこの子はもう他の子を喰った挙句に自分のたまごを星の子に植え付けて僕の力を求めて世界樹の子株に喰らい付いてる。僕の力を食べてもこの子は僕にはなれないのに。

 僕はどうすればよかったんだろう?』


(ま…まぁ…ほらっ!一部わからない虫はいるけど肉食の虫同士だし…!)


『ふふっ。ありがとう…

 でも…慰めや答えが欲しいわけじゃないんだ。

 人は何故こんなにも愚かで…醜悪で………

 愛おしいのか…

 なんて言うんだっけ?

 …ああ…そうだSAN値が駄々下がりって奴。

 愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて…

 憎い。

 気が狂いそうだ…』


 少年はぼんやりと周りで虫が共食いする星の種を老成した老人の様に見つめポツリと言葉を溢す。


『おじさんならこの星を…

 この罪の子達をどうする?

 僕はこれ以上、星への介入が出来ない。過剰な力は星の種を枯らしてしまう。

 この星を諦めてまた一からやり直さなければならないのかもしれない。

 いや、良いんだ。

 答えを求めているわけじゃ無いから。でも気に留めて欲しい…星の瞬きを…星の命の灯火を消させないで…』

(………)


『さぁ、そろそろ行かないと。欲張りな子のたまごが孵ってしまう。

 ほら、星の子と罪の子のカケラが待っているよ』



(そんな…






 そんな…





 そんな欲に塗れた言うこと聞かない虫ケラ野郎は殺虫剤で天誅じゃ!!)



「『那由多(ナユタ)!!』」




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