そうだ。此処に来るまでいなかった存在…すなわち皇帝のスキルか?
気になった俺は、ぐったりと横たわる皇帝に魔力を乗せて神眼を向けた。が、何故か目を閉じている皇帝と目があったような気がした。
(?!)
不意に違和感を感じて母様を見れば、まるで時を止めたように動きを止めていた。ボト大臣も母様と同じように微動だにしない。
(なんだ?!何が起こった?!)
そばにいたティーモ兄様も、俺に手を伸ばした状態で動きを止めていた。
「…やぁ。君とは『はじめまして』、かな?息子くん?」
不意に声をかけられ音の発生源に目をやれば、先ほどまでぐったりと寝ていた皇帝が寝台の上に胡座をかき、自身の膝に肘をついてその手で顎を固定し座っていた。寝台には横たわった痩せた皇帝も重なる様にして見える。
驚きの余り声が出ない。
「親子揃っての感動的な再会だ。でもね。無闇矢鱈と魔力ある者を鑑定してはいけないよ?気づかれれば面ど…いや礼儀に反する。アンは何も教えなかったのかな?」
やはりこの世界にもプライバシーの侵害があるじゃないか。ツクヨミめ。鑑定しろって煩かったけど鑑定しないで正解だった。
「…!」
鑑定をかけたことに謝罪をしようとしても声が発せられない。
「だから鑑定はね、息をするかの如く、魔力を揺るぎ無く細く細く発動させ、相手に気付かれずに鑑定するんだよ。父様からの助言です。あんな異次元にあると言う深淵の底を覗くような巨大な魔力で観ちゃ駄目だよ」
そう言うと皇帝は窶れ切った顔でウィンクを飛ばす。
驚きで声が出ないのではない。多分皇帝が何かしているんだ。どう操作すれば相手に鑑定が気付かれないとか、父様のグレーな助言を聞きながら、声を発しようと口をぱくぱくしているとそれに気付いた皇帝が、
「あぁ」
と、気が付いた様に状況を説明してくれた。
「この部屋は私の後天性血統スキル、『ヘスティア』と自前のスキル『カイロス』の管轄下に入ってるんだ。
『ヘスティア』 は、このアシェンプテルの城と連動していてね。私のいる部屋でのみこの国の血統を持つ者だけが魔法が使えるスキルだよ。いずれこのスキルは私の後を継ぐ者に引き継がれる。
私が生まれし時より持つスキル、『カイロス』はね、スキルの持ち主が思う少しの時間だけ刻を止めれてね。スキルを発動するとその間、私が思う少しの時間だけ任意の者が動けるんだ。君が言葉を発したら、君の力でスキル効果が君の少しと混ざって消されてしまうから。私の本体の状態も悪いし、ゆっくり話す時間もあまりないからね。ちょっと止めさせてもらったよ」
この人…サラッと凄いことを言ったぞ?!つまり皇帝が元々持ってる『カイロス』と言うスキルは、人が思う時の長さが其々違うように、人が少しの時間って感じる長さの時間、任意の人間を操れるって事だ。皇帝の言う少しの時間がどのくらいかはわからないが、そんな凄いスキルが使えて何故帝国がこんなことになったのか謎がすぎる。
「あ。そのスキルがあってどうしてこんな事になってるんだって顔してるね。それはアンのスキルの結果だよ。アンは私に詳しくは話せなかったけど、彼女のスキルで未来が見えなくなる、今この時、に私達は命を賭けた。
奴等の言うことを聞き、死なない様に、廃人にならない様に、生きながらえる事、が、目標だったからね。結果私達は生き残った。そして我が国の建国時より引き継いだスキルを次代に繋ぐことができる。改めて詳しい話は後で聞くとしてポーションの礼を言おう。
そして先程アンとも話をしたが、どうやら君は 強い浄化魔法を使えると言っていた。もし出来るのならばこの城の地下に閉じ込めた元凶の根源を断ち切って頂きたい。一時的に血統スキルを預ける。」
そう皇帝が言うと、自分の意思ではなく、自分の体が皇帝へと動き出す。
「?!」
なんと言うか、
(勝手に身体を動かされる事がめちゃくちゃ気持ちが悪い!)
頭の中で、何もできずにうあうあ気持ち悪がっていたら、俺の身体は勝手に皇帝が座る寝台によじ上り、座っている方の皇帝へ近づいた。
俺と同じ痩せてギョロギョロした顔の眼と眼が合う程に近づき皇帝が額同士をコツンと当て、その当たった場所から俺の中にスッと何かが移ったと言うか入ってきた。
「さぁ、元に戻って…もう私の刻が終わる。私は暫く眠りにつくが、其れ迄アンを頼んだよ…ナユタ…私の息子…」