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第32話 公募で賞取るには0.5%になる必要がある。では、"売れる"ためには……?

※これは『100日後に10万文字になるエッセイ』の転記です。
慣れるためにこちらにも置いています。

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大昔、テレビ局の近くで信号待ちしていると、突然等身の高い美男美女集団に囲まれたことがある。
新手のゆすりだろうかと速やかに財布を取り出そうとしたときには、信号は青信号になり、彼らはわたしの姿が見えていないかのように(実際視界には入っていなかっただろう)通り過ぎていった。一瞬聞こえた会話の内容からして、芸能人のようだった。
芋臭い私から見たら、彼ら彼女らは全員後光が差しているように見えた。きっと今を輝く売れっ子俳優さんだろうと、サングラスをしながらその細く滑らかな背中を眺めた。
その週の休日の昼間。なにげなくテレビをつけると、そこにはなんと、先日出会った美男美女が並んでいた。
彼らは、超有名メインタレントたちの後ろの席でただニコニコしており、自分のロケのときだけ話す機会を与えられていた。
庶民の中で輝く彼らは、テレビの中では代替の効くロケ用タレントだったのである。

* * *

一度、自分が挑む壁の高さを計算してみたことがある。

新人賞を取るためには、何分の1にならないといけないのかを。

手順1:母数を数える
割合を計算するには、まず母数を確定させるのが肝心だ。
直近で自分が出してきた賞、また巷で力のある賞は、何作が応募されているのかを確認したところ、大概どれも1000作を超えていた。
たった数年前(?)はそうでもなかったらしいので、応募数は急上昇中らしい。
本は売れないというのに応募作は上昇する矛盾や、急上昇の理由がコロナのおかげか、それとも別の要因か等興味深いことは多々あるが、本件とは関係がないので脇においておく。
とりあえず、応募する側としては困っている。

手順2:各賞における受賞者数を調べる
次は分子を決める。
新人賞には大抵『金賞』や『奨励賞』などと複数のランクが用意されていることがあり、それぞれに数人がランクインすることがあるため、受賞者数を調べた。
結果、応募総数が膨らめばそれだけ受賞者も増える傾向があるため、ばらつきはだいぶあったが、概算ではあるが200人に1人の数で出ているように個人的には感じた。

総応募数で考えれば、1000人で5人。
割合としては、0.5%である。
つまり、あなたの出した小説が新人賞を取ってデビューするのは、0.5%の確率ということになる。

これを多いと言うか少ないと言うかは読者の主観に委ねるが、私としてはなかなか渋い気がしている。
他のビジネスであれば、200人に1人の人材は充分エリート層だろう。
しかし、小説ではスタート地点だからだ。


タイトルの前半はここまでで回収した。
ここからは、世間で"売れる"ことを考えていく。


皆さんもご存知のように、商業デビューは所詮スタートである。
小説は商品であり、売れなければ使命は果たせない。

では、売れる作品になるのは何分の1だろうか?
また同じ手順を踏んでいく。

手順1:母数を数える
商業小説の冊数をすべて数えるのはめんどくさい上、「過去に売れた人の本は勝手に売れる」等のバイアスがかかるため、今回は新人賞受賞作を母数とする。
それなら殆どの場合平等に無名だからだ。
そして、各新人賞の個別のwikiを見ると、受賞作の一覧が記載されているため、それを各賞の母数とする。

手順2:各賞でバカ売れしたものを数える
さきほどと同じように分子を決める。
なにをバカ売れしたと呼ぶかは難しい。売上をいちいち調べるのはめんどくさいため、あまり本をそこまで読まない友人を電話で無理やり呼び出し、wikiを一緒に見て知っている作家や本をあげてもらった。界隈から距離がある人でも知っている=遠くまで届くほど売れた、と考えられるからだ。
結果、友人にも知られていた作品は、およそ10作に1作の割合だった。1つの賞だけではサンプル数が少ないと思い、ジャンル違いの賞3,4つで同じように見せてみたのだが、面白いことに10本中1本という割合はそれほど変化しなかった。

つまり、新人賞を受賞し本屋に並んだ書籍の中で、世間でバカ売れするのは10分の1と、わたしの中で仮説が立った。
この仮説が正しかったとすると、スコープを1つの新人賞に狭めれば、10年で1作が売れる(=10年中9年は本好き以外には売れない)と言えるし、スコープを「その年に行われた新人賞各10個で大賞を取った各作品」に広げると、そのうち1本だけが大きく売れる、という言い方もできるわけである。
実際、ある任意の1年の10の新人賞の大賞受賞作を挙げると、知っている作品(作家)は10作に1作の割合からそれほど外れなかった。

これを応募総数からのパーセントに直すと、確率は0.05%ということになる。
あなたが出した本が商業ラインに乗り、さらに"売れる"確率は、2000作中の1作ということである。

さらに、現在の分子の中には大賞も奨励賞も区別していない問題がある。
大賞に近い賞のほうが売れやすく、奨励賞は売れる確率は低いという当然の構図も考慮すると、売れるパーセンテージはさらに下がっていく。
厳し目に見積もって10000分の1と考えおけばいいだろうか。0.01%だ。
まさに絶望的な数字である。新人賞がどうとかそんな小さなことを言っている場合ではない。売れる壁の高さを考えれば、デビューすることなど小さな壁なのである。

* * *

このエッセイの最初で話した美男美女タレントたちは、間違いなく世間では浮いた存在たちだった。顔は小さく、背は高く、足は長く、欠点などないように見せた。
しかし、彼らは美人がひしめく芸能界に潜った瞬間、力のない普通のタレントに立場を落とされるのである。
1000人に1人レベルの容姿は、人気商売の世界ではただのスタート地点なのだ。

0.01%。
この数字は、作家だからと言うより、人気商売の難しさを表しているような気がしている。
1000分の1の技術を当然として、さらに10分の1をどのようにもがいて取るかが大事なように思えるのだ。

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