檸檬、読みました。
ネット上に公開されていることは知っていたのですが、短かったのでてっきり冒頭だけだと思っていたんですけど。これで、全部だったんですね。あ、短編集でしたか。そっちはいずれ。
さて檸檬の感想ですが。
実は、あまり惹かれませんでした。せっかくお勧めして下さったのに、すいません。
上手いのはわかりますし、常人には書けない小説だと思います。でも、私にはいまいちだったんですよ。
で、これで終わってしまっては読んだ意味がなくなってしまいますから、なぜそれほど面白く感じなかったのかを、分析してみました。
これから話すことは、全くの自己解釈なので、深く考えないようお願いします。
結論から言えば、小説の目的が私の好みから外れたと言うことなんでしょうね。
話の組立から見れば、いまいち「ちぐはぐ」な形に見えるんですよ。話がつながっていないと言いますか。そこで、なんでこんな形になっているんだろうって所から分析を始めてみました。
病に冒されていたから。心身が不安定だったから。そんな理由もあるのでしょうが、私は違うと読みます。
多分、小説の目的が男の日常の一幕を書くことではなくて、「檸檬」を印象深く描写することだったんじゃないかなと読みました。
主人公は視点となっている男ではなくて、檸檬。檸檬が主役の話。
他の全てが檸檬の引き立て役なんですよ。
太陽のように眩しく発色するレモン色を印象深くするために、セピア色の町並みを持ってきて、さらに好きな色たちを巧みな描写で描きつつ、でも檸檬の色の方が強いんだと示しています。色たちの頂点に立つのが強い黄色なんだと書きたかったのでしょう。
爽やかに、突き抜けて心に刺さるような柑橘系の香りを印象づけるために、濁った思考と廃退した生活、そして苦みしかない病を持ってきて対比させています。檸檬の香りを立てるためだけに書いているようなものです。
動くこともなく話すこともなく、心すらない檸檬を主人公にするため、自分が動き回り周りの物を使って引き立てたわけです。
五千字で書き並べた檸檬の描写。
うーん。
多分、檸檬が正(プラス)の頂点に君臨している物に見えたんじゃないでしょうか。
病に冒されて生活も荒んだ男(作者?)は負(マイナス)の位置しています。彼から見れば、周りの世界は正(プラス)に満ちているように見えたことでしょう。
自分はもう正(プラス)の世界に戻ることはないと考えていた時に手に入れたのが檸檬だった。
色も香りも突出した力を持つ、正(プラス)の象徴です。しかも手に入れることができるんです。所有することのできる正(プラス)属の檸檬は、一時、心のより所となったのかもしれません。
で、それを書いてみたくなった。
なぜ、最後は爆発させようとしたのか。
きっと正(プラス)を極めた先が爆発なんだ、と思ったのではないでしょうか。芸術は爆発だ、と言った方もいましたね。
正(プラス)を極めたところに必ずしも正しい物があるとは限りません。最もたる正(プラス)の力は爆発という破壊だった。だから、檸檬は爆発させるのにふさわしい。そんな事を思ったのかもしれません。
いや、待てよ? 一種の遊び心だったという事も考えられますね。味の描写がなぜ無かったのか。檸檬を語る上で避けては通れないのが、口一杯に広がる酸味です。でも、その描写がありませんでした。なぜでしょう。
最初は、体が丈夫じゃ無かった作者にとって、あの酸味は刺激が強すぎた。好きになれなかったから書かなかった、書けなかったのではないか? 檸檬のいい所だけを引き立てる、まるでこのサイトの『おすすめレビュー』みたいな感じに書きたかったのでしょう。
そう思っていたのですが、あの味を爆発と表現したのかもしれません。
いずれにせよ、あの作品は私にとって『五千字で檸檬を描写した作品』なわけです。あらためて考えてみれば、恐ろしい作品です。
ここで、話を戻しますが、小説の趣旨が合わなかったんです。
私の好きな小説は心や感情の揺れを楽しめるものなのです。なので、主人公は心を持つ者でなければ惹かれないのですよ。(昔の文学小説を滅多に読まない私が唯一印象に残っているのが井伏鱒二著の山椒魚ですね。他の作品をほとんど読んだことが無いので、例に挙げても参考にはならないですが)
言葉は飾りであり小説の衣服だと思っています。綺麗な言葉や文章はもちろん好きです。大好物です。でも、私にとって小説の根幹はそこには無いのですよ。
もちろん、檸檬にもちょっとしたストーリーはありましたけどもね。それでも惹き付けられるほどでは無かったのです。
そして、ここまで書いて、「そうか 玻璃の音*書房 は檸檬のような作品を目指していたのか」と思い至りました。
ただ、檸檬はそれほどでしたが、玻璃の音*書房は好きなんです。理由はこの二つの作品の目的が異なるからですね。
同じように紹介する文章ですけど、方や描写重視、もう一方はストーリー重視。ですから私は檸檬より六月さんの作品世界の方が好きです。不思議でふわふわとしたファンタジックな世界観と、優しい心の登場人物達が凄く好きです。と言われても、六月さんが檸檬を目指していたのなら嬉しくないかも知れませんけども。
あ、そうそう、玻璃の音*書房に書かせてもらったレビューですが、いずれ書き直すと思います。いつまでもあのままってのは芸が無いですから。ストーリーも動いてますし。ちょっと切ない(フウチ君にとってはちょっとどころじゃ無さそうですけど)話も出てきていますからレビューも合わせなくては。
風致って小冊子なんですね。
こりす書房も読ませて貰っています。もう少し話が増えたらレビューを書かせてもらいたいなって。
無駄に長くなってしまいました。
こんな感想が欲しくておすすめして下さったわけ事は重々承知しているんですけどね。「いや~檸檬面白かったですよ! 楽しめました」とかいう、心にも無い事を書きたくなかったんですよ。勝手で、すみません。
駄文、最後までお付き合いありがとうございました。失礼します。
追記
甘露照らす灯、そう言えば具体的な感想って頂いてなかったですね。三を女性に気にいっていただけたことは素直に嬉しく思います。正直、女性の感性は難しいんですよ。励みになります!
雲と雲 もくもくも雲 僕も雲
私は相手に合わせて変幻自在な文章・作品を書けるようになりたいんですよ。100人いたら100人とも面白いと感じる作品なんて書けませんけど、全く違う100作品を書けたら全員から評価いただけるかも。なんて。
まあ、あれです。基本的に私は変人ですから、真面目に相手をしないようにした方がいいですよ? 疲れますからね~
今の所、甘露照らす灯の続編は無理な気がしています。多分まぐれ当たりみたいなものですよ。
違う話で詩のような文体の作品なら書けるかもしれませんけどね。
期待しないで待っていて下さい。