(ざっくり内容説明)
変身ヒーローもの。
大勢の転生者が争い、王様を決める異世界デスゲームの参加者に無理やりさせられた主人公が、強化素材キャラ枠の師匠に技を教えてもらって自分を鍛えながら転移先の異世界で好き勝手に暴れ回る他の転移者と戦う。
プロローグとなる1万文字くらいのお話を投稿してみるので、読んで感想を聞かせていただけると助かります。
第一話の分量が4500文字くらいなのですが、これを半分に区切るかも悩みどころさんなので参考として聞かせていただきたいです。
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「うっ、うぅん……! なんだ? どこだ、ここ……?」
小さく呻きながら立ち上がった青年が、ざわめく人々の声を耳にしながら周囲を見回す。
見たことのない灰色の空間を目にした彼は、首を振りながら立ち上がると共にぼんやりとしている頭を覚醒させるように一つ一つの情報を整理していった。
(俺の名前は|青峰龍斗《あおみね りゅうと》。高校二年生。部活の練習の後で帰りのバスに乗って、そこで居眠りしたのが最後の記憶……だよな?)
パニックに陥りそうになっている心をどうにか落ち着かせた彼は、ここに来るまでの記憶を振り返った後で改めて周囲を見回した。
殺風景な灰色の部屋には、自分以外にも数十名の人々が集められている。
龍斗と同じような高校生の男子がいたかと思えば、主婦と思わしき年上の女性もいるし、かと思えば年老いた老人などの幅広い年齢、性別の人々が一様にここはどこなのかと困惑していた。
と、そこで泣き叫ぶ子供の声を聞いた龍斗は、その声の主である少年へと近付くとそっと肩に手を置きながら声をかける。
「ボク、大丈夫かい? お父さんやお母さんは一緒?」
「うっ、ぐすっ……!」
龍斗に声をかけられた少年は、少し落ち着くと共に首を左右に振った。
両親から引き離され、こんな場所にいるという意味不明な状況に陥っているのだ、不安と恐怖で涙を流すのも仕方がないだろう。
どうにかこの子を励ましてあげられないかと龍斗が彼に何かを言おうとした時、底抜けに明るい女性の声が響いた。
「おめでとうございま~す! あなたたちは、王になるチャンスを手にしました!」
唐突に響いたその声に驚いた龍斗たちがそちらへと顔を向ければ、人間によく似ているが明らかに人ではない美少女の姿が目に映った。
背中に羽を生やし、頭の上に漫画なんかでよく見る天使の輪を乗せている彼女は、ふわりと宙を漂いながらこちらを見つめている。
現実離れしたその光景に全員が驚く中、天使はにこにこと笑いながら話を続けていった。
「それではまず、王様候補になった皆さんにこちらをプレゼントしましょう!」
そう言った天使が指を振れば、龍斗たちの前にスマホのような機械と小さな袋が出現した。
驚きながらもそれをキャッチした龍斗が袋の中身を確認してみれば、金や虹色をしたチケットのような物が入っていることに気が付く。
「なんだこれ? なんか見覚えがあるような……?」
「そちらはガチャチケットです! 皆さんが異世界で生き抜くために必要なしもべを召喚するために必要になります!」
「ガチャ? いや、それよりも……異世界だって?」
天使が自分の発言に反応したことも驚いたが、それよりも彼女がたった今、口にした言葉が気になる。
異世界で生き抜く……確かにそう言った彼女は、無邪気な笑顔を浮かべたまま、話を続けていく。
「今から皆さんには異世界に転移してもらい、デスゲームに参加していただきます! そちらのチケットを使ってしもべを召喚し、彼らの力を駆使して他の王様候補をぶっ潰しましょう!」
「異世界に、転移……? デスゲーム……?」
「今から皆さんが向かう異世界には、しもべとして使役できるキャラや魔物たちが大勢います! そいつらを素材として主力のしもべを強化するも良し! 頭数を増やして軍団を作り上げるも良し! かわいい女の子やイケメン男子を集めてハーレムを作るのも良し! 全ては皆さんの選択次第です!」
「ちょっと待ってくれ……あんた、何を言ってるんだ?」
「脱落の条件は簡単! 異世界で死んでしまうか、今お渡しした【天界スマホ】を破壊されたらゲームオーバーです! 前者はもちろん、スマホを破壊された場合もしもべの使役をはじめとした数々の能力を失ってしまいますので、気を付けてくださいね!」
「待てって言ってるだろう!? こっちの意思を無視して話を続けるなよ!!」
あまりに身勝手に話を続ける天使に対して、怒りを爆発させた龍斗が大声で叫ぶ。
そうすれば、天使は少しだけ面倒くさそうな表情を浮かべながら彼の方を向き、首を傾げてみせた。
「なんですか、あなた? さっきからいちいち口を挟んで、うるさい人ですね……」
「ふざけんな! 異世界転移とか潰し合うだとか意味わかんねえこと言いやがって! こっちはそんなこと望んでねえんだよ! さっさと家に帰してくれ!!」
それは紛れもなく龍斗の本音だったし、この場にいる人間の半分近くは同じことを思っていたはずだ。
王様だとかそういうものに興味はない。自分たちは普段通りの日常を送りたいし、異世界になんて行きたくなんかないのだ。
もちろん自分もそうだが、親と引き離されて泣きじゃくる子供を早く家に帰してあげたいという想いから天使に食って掛かった龍斗に対して、ふんふんと頷いた彼女が笑顔を浮かべて言う。
「え~っと、無理で~す! どうしても家に帰りたければ、このゲームで優勝してくださ~い! それ以外にあなたたちが家に戻る方法はありませ~ん!」
「なっ……!?」
人を苛立たせるような間延びした言い方をした天使の言葉に、愕然とする龍斗。
言葉を失って固まる彼へと、無邪気で邪悪な笑みを浮かべた天使が言う。
「あなた方がどう思うかなんて、こっちからすればどうだっていいんですよ。私たちはただ、あなた方が争い合う姿を見て楽しみたいんです。参加者の選定とこの場への召喚にもそれなりの手間がかかってますし、帰りたいと言われたから帰すなんて馬鹿な真似ができるわけないでしょう?」
「なっ……!?」
文字通り、人を人とも思わない天使の言葉に龍斗が驚くと共に怒りを抱く。
何か言ってやらなければと口を開きかけた彼の耳に、男性の悲鳴が響いた。
「なっ、何をするんだ!? それは俺の……うぐえっ!!」
「はっ! 知るかよ!! お前らみんな、ライバルなんだろ? だったら、ここで潰しておいた方が楽じゃねえか!」
その悲鳴を耳にした龍斗が振り向いた先では、大柄な男が瘦せているオタクのような男性を殴り飛ばし、ガチャチケットが入っている袋を奪い取っているではないか。
そのままオタク男性のスマホを奪い、破壊しようとする大男を放っておけないと判断した龍斗は、助走をつけて思い切りタックルを仕掛ける。
「うがあっ!?」
「やめろっ! 何でこんなひどいことができるんだ!?」
「そうですよ~! スマホはここじゃ破壊できないから、そんなことしても無駄ですからね~。意味のない行動は止めておいた方がお利口さんだと私は思います~!」
この場でのスマホの破壊は不可能だという天使の言葉に舌打ちを鳴らした大男だったが、彼女はガチャチケットに関しては何も言わなかった。
ならば他の参加者からチケットを奪い取ることは無意味ではないと理解した彼は、そのまま己の力を振るうように周囲の人々へと襲い掛かっていく。
「オラオラッ! 痛い目に遭いたくなかったらチケットを寄越せ!!」
「クソっ! やめろ! やめるんだ!!」
暴れる大男を止めようとする龍斗であったが、彼が動こうとしている間にも他の参加者たちがチケットを巡っての争いを繰り広げていた。
男は女から、女は老人から、老人はまた別の老人から……チケットを奪い、他者を蹴落とすための醜い戦いが至る所で行われていることに気付いた龍斗が、天使へと叫ぶ。
「お前ら、これを許すのか!? こんなのフェアじゃないだろ!? チケットを奪われたら、もう――!!」
「ええ、生存はかなり絶望的ですね。あちらの世界には魔物も生息していますし、身を守る手段がないなら殺されてしまうでしょう。ですが……勝負がいつだって公平なものだとは限りません。力が強い者、知恵を持つ者が有利なのは、どの世界だって同じでしょう?」
そう言いながらにっこりと笑う天使の顔を見た龍斗は、彼女の本心を理解した。
あの天使は、人々が醜く争いを繰り広げるこの状況を楽しんでいる。もっともっと戦えと人間たちが傷つけ合う姿を見て、そう思っているのだ。
彼女がこの状況を制するつもりがないと理解した龍斗が怒りを募らせる中、聞き覚えのある泣き声が怒号と共に響いた。
「寄越せっ! 俺は、俺は死にたくないんだっ!!」
「うわああああああんっ! わああああああんっ!!」
先ほど大男にチケットを奪われ、スマホまでも破壊されようとしていたオタク男性が……泣き叫ぶ少年からチケットを奪い取っている。
自分が助けたはずの彼が、あの大男と同じことをしている様を目撃した龍斗が深い絶望を抱く中、天使は歌うような声で言った。
「所詮、人間なんてあんなもの……自分さえ良ければそれでいい、他人が死のうが泣き叫ぼうが知ったことじゃない。あなただってそうでしょう? 正義漢ぶらず、素直になってくださいよ」
「っっ……!!」
醜い欲望を曝け出せという天使の言葉と、何もかもを奪われて泣き叫ぶ少年の悲鳴を聞きながら、龍斗は拳を握り締める。
異世界への転移が始まったのか、少しずつ体が粒子のように崩れていく中、深く息を吐いた彼は自分を見つめる天使へと言った。
「いいや、違うさ……! 人の心の奥底には、誰かを思う強い優しさがある! 今からそれを証明してやるよ!」
「は……?」
天使にそう宣言した龍斗が、自分のチケットが入った袋を握り締めながら駆け出す。
泣きじゃくる少年に駆け寄った龍斗は、その袋を彼へと差し出しながら力強い笑顔を浮かべ、言った。
「これを使うんだ! これから、すごく大変な目に遭うかもしれない。だけど諦めるな! 絶対に俺が君をお父さんとお母さんのところに帰してみせるから!」
「うっ、ぐずっ……本当?」
「ああ、約束だ! だから絶対に諦めちゃダメだぞ!」
こくりと、龍斗から袋を受け取った少年が頷く。
その様子に龍斗もまた頷きを返す中、天使が呆れたような口調で彼へと声をかける。
「あなた、馬鹿ですか? 自分のチケットをその子に渡したら、どうやって自分の身を守るんです? 家に帰すとか約束しちゃってますけど、転移早々に殺されるのがオチですよ?」
「……死なねえよ。言ったろ、俺が証明するって。俺は生き抜いて、元の世界に戻る方法を見つけ出す! そして、この子や他のみんなと一緒に元の世界に戻ってみせるさ!」
「ははっ……! 今まで愚かな人間は山ほど見てきましたけど、あなたはその中でもトップクラスの馬鹿ですね。あなたみたいな馬鹿がどんな無様な死を迎えるのか、今から楽しみで仕方がありませんよ」
「好きに言ってろ。見てろよ? 絶対にお前の前に戻ってきて、そのニヤケ面をぶん殴ってやる!!」
嘲笑に対しても揺るがず、むしろ反逆を宣言した龍斗の態度に天使が苛立ちを覚える。
人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた彼女がしかめっ面になる様を見て、少しだけ溜飲を下げたところで……目の前の天使たちの姿が搔き消え、龍斗の意識はブラックアウトした。