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難題:読者さんにどこまで甘えていいのか?


 今の世の中、生活し続ける事自体が難題だとJCは考えていますが、何とか眼の前に残された米びつで生きながらえております。

 さて、最近AIと作業を共にしているのですが、AIから「読者に甘えている部分は否定できない」という回答を貰いました。
 これ自体は自覚があることなので、さほど大きな問題ではないのですが、「どこまで?」という部分で考えさせられます。

 拙作『ノルンの角笛』は、大学生以上の学徒または社会人をメインターゲットとして設定していますが、それでも読者さんに甘えすぎと見られる箇所がいくつかあると指摘されました。

 そもそも、特にSF小説では「読者には基礎的な科学・数学的知識がある」ということを前提としていることが多いです。これがあるが故に、読者層が広がりにくい、手にとって貰いにくい部分があるのは確かです。
 この「基礎的」という部分をどう設定するかによって、作品内での記述が大きく変わります。

 日本は先進国の中でも比較的教育に力を入れており、義務ではあるものの中学校までの教育システムはしっかり作られております。また義務ではない高校への進学率も高いので、一般的な就労募集でも高卒以上のものが多いでしょう。
 高校の場合(または高等専門学校)ではコースによって異なりますが、少なくとも中学校までは文科省が決めた要項に従って授業が進められています。

 この前提を下に考えると、中学校で習った科学・数学知識は「あるもの」だと思って作品を作るのが順当ではあります。
 ですがこれはあくまでも理想論であり、中学校で習っているはずの線形代数や分子結合ルールなどをしっかり覚えているかは人によります。
 なので、義務教育で習っているのなら説明が省ける、というわけにもいかず、少なくともある程度思い返せるようなヒントとなる記載は少なからず必要です。

 特に厄介なのはコンピューターやネットワーク技術に関してですね。
 現在の義務教育でもこのあたりの基礎知識は学習要項に入っているのですが、入ったのは割と最近で、それ以前に学生だった人は学んでなかったりします。
 ごくごく生活の中に溶け込んではいるものの、「マウスドラッグ」や「スワイプ」などを知らない人が居たりもします。
 ですが、そうした人までをもフォローするとなると、もはや小説作品ではなくコンピューター技術説明書になってしまいますね。

 この匙加減が、「どこまで読者さんに甘えるか」というテーマになります。
 特にSF作品では、最初から「宇宙に興味があり、基本的な恒星の生涯を知っている人」など、ターゲット読者がかなり絞られてしまいます。
 なので、マニアな人しか読まない、元々興味がある人しか読まない──となりがちですが、作者側としてはできるだけ、ほんの少しでも読者層を増やしたいわけですね。

 Web小説であれば、欄外や注釈、サブコンテンツでフォローなど、色々手法があるので紙の書籍よりも便利です。できるだけ利用するのが良いのですが、そもそも「どこで読者がつまづくか」というのは、十人十色な読者を予想するのは難儀です。
 ある程度の反応(感想や指摘)があれば良いのですが、これだけ膨大な作品がある大手サイトなどでは、なかなかそれすら得られません。

 作者ができる事は、何度も自分で読み返しつつ、どこが説明不足なのか、詰め込みすぎてないか、などの多重チェックを繰り返し行う他ありません。
『ノルンの角笛』も既に二桁になる改訂を繰り返してはいるものの、本編自体が膨れ上がり、改訂作業も網羅することが困難になりつつあります。
 できるだけ最新話や、公開前の原稿は幾重にもチェックし、できるだけ程よい密度になるようにしていますが、それでも一般的ではない用語が連続してしまうこともあります。

 プロの作家さんには編集者や校正担当が居たりと、心強い仲間が居ますが、趣味創作では個人で頑張らなければなりません。
 うぇるかむとぅ過酷なわぁるど、です。

 私は主に他作者さんを、SF作品があったり、SF的なニュアンスがある小説を書かれている方をフォローし続けていますが、皆さんこの難題をどうクリアしているのでしょうね?
 JCは興味津々です。

 SF作品に限らず、特にライトノベルでは「小学生が理解できる範囲」に収めるというのは、一見低レベルに見えるような言葉ですが、実際には「確実に一般常識として知られている範囲」という意味では、かなり理にかなった設定方法だと思います。
 自分が知っている一般常識は世間のものと少しズレている、という正しい認識をしつつ、ここまでは必ず知られているだろう、と半ばギャンブルのように打っていかねばなりません。
 だからこそ、作者にとっては感想だけでなく、批判を含めてどのような形であれ、フィードバックというのは大事なんですよね。

 ほんと、難儀な問題です。

 皆さんは、ご自身の作品の読者層をどのように設定されていますか?

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