こんにちは。
完全に夏バテている高葉です。
中にはキャラクター紹介さっさと書けやおら、と思っていらっしゃる方もいるかもしれません。はいすいません。
なんでも屋についてはのんびりゆっくりやるので、気長にお待ち頂ければ幸いです。はいすいません。
今回はですね、実は新作はちょくちょく書いてますよ何もしていないわけではないですよ。という言い訳をする為に近況ノートを書いてます。はいすいません。
それでですね、新作なのですが、実際のところどんな雰囲気の物語になるのか分かりやすくお伝えする為に、冒頭部分をここで公開したいと思います。何か感想でも頂ければ幸いです。
新作のタイトルは『無色の魔女は世界を染める』です。
では早速。
生い茂る草も、聳え立つ樹木も、地に枯れ落ちた葉も、その中を這う虫も、枝で翼を休める小鳥さえも、何もかもが白みがかった森の中を、一人の小柄な少女が歩いていた。白を基調とした服装に白いローブ、頭には殆ど顔が隠れる程のややくたびれたとんがり帽子を被り、そこから背の中程まで伸びた純白の髪が覗いている。乾いた音を立て落ち葉と草を踏み締めるブーツも白色で、所々にあしらわれた銀の装飾以外は全身が真っ白だ。木漏れ日が僅かに照らす白き森の、獣道にほど近い道とも呼べぬ道を、純白の少女――厳密に言えば少女ではないが、【白の魔女】は両手に紙袋を抱えて進んでいく。
あまり人が出入りしていないのだろう。彼女は長く伸びた草や木の枝を掻き分けながら歩く。ただし直接触れているわけではない。白の魔女が歩けば、障害となるものは自然と道を空けていた。故に、彼女は深い森の中を歩もうがその純白の姿を汚す事はない。当然だ、ここは白の魔女の領域なのだから。彼女の魔力に染まった大抵のものは、白の魔女に従う。
「⋯⋯⋯⋯」
しかし、そんな中にふと、異質な空間が広がった。木々を掻き分けて進んだ先、森の中に現れた開けた空間。
生い茂る草も、聳え立つ樹木も、地に枯れ落ちた葉も、その中を這う虫も、枝で翼を休める小鳥さえも、全てが白く染まった世界――そこにぽつんと広がる何とも鮮やかな光景。
草葉は緑、枯れ葉は茶色、鳴く小鳥や虫はそれぞれの色を持っており、花壇には色とりどりの花が咲いている。全てのものが、当たり前に自身の色彩を持つ世界――かつてはそれが当然で、今は失われてしまった光景。
白の魔女はしばし鮮やかな世界を眺めたあと、その中心に建つ花壇の側の小さな屋敷へと目を向ける。
反り返り各所が尖った屋根に、幾つかの木造りや石造りの小屋を不規則に積み重ねたような、アンバランスなデザイン。これまた歪な煙突からは細々と煙が立ち上っている。
「⋯⋯相変わらず古臭い⋯⋯」
無駄にカラフルな塗装が施されているその如何にもなこじんまりとした魔女の屋敷に、白の魔女はぽつりとそんな感想を述べた。時代錯誤もいいところだ。そう思いながら彼女は白の世界から鮮やかな世界に一歩足を踏み入れる。
「あいやまたれぇい!!」
と、その瞬間花壇の側に置かれていたジョウロが大声を発し、白の魔女は足を止めた。くたびれたとんがり帽子の広いつばを軽く持ち上げて、その美しくも愛らしい面貌と白銀の瞳をジョウロへと向ける。
すると、ジョウロからは突然筋肉質な人の手足が生えた。白の魔女はその不気味さに端正に整った柳眉を寄せる。何度見ても気持ち悪いものであった。
手足の生えたジョウロが立ち上がると同時に、花壇に咲いていた色とりどりの花たちも土から勢いよく飛び出し、その細い根を脚にする。そちらはまだマシだと白の魔女は思った。
「侵入者だ!」
その声と共に、ジョウロは勢いよく白の魔女の方を振り返る。今まで彼女に向けていた方と逆の側面には、太眉で濃い男性のような顔が表れていた。
「皆、我に続けぇい!!」
一度腕を組んだジョウロは、暑苦しい表情でそう号令をかけると、今度は片手を上げて白の魔女へと駆け出した。彼? の後に花たちが「ワー」という甲高い声を上げながら続く。
「はいストーップ!!」
白の魔女の目前まで迫ったジョウロが、立ち止まり両手を広げてそう言うと、花たちもピタリと動きを止める。そして、ジョウロが腕を組むのに合わせるように、花たちは二枚の葉を器用に重ねた。ジョウロが白の魔女を見上げ鋭い瞳を向ける。
「はぁ⋯⋯」
その様子を見て、白の魔女は呆れたように小さく息を吐き出した。そして、白けた薄目をジョウロへと向ける。
「ここから先は我が主の領域! 何人たりとも許可なく立ち入る事は許さん!」
しかしジョウロは彼女の態度を意に介した様子はなく、そう声を張り上げた。
「私だよ、白の魔女。知ってるでしょ」
「もちろん! ご機嫌麗しゅう!」
「じゃあいいでしょ。ちょっと用があるんだよ」
「ノォオオオオオオオウ!!」
白の魔女の言葉に、ジョウロは心底バカにするかのような表情を浮かべ、親指を勢い良く下に向けた。花たちも葉を下に向ける。白の魔女の眉がピクリと動いた。
「我の話聞いてたぁ?」
そのまま、ジョウロは首を傾げるかのように身体を傾ける。花たちも続いて茎を曲げた。
消してしまおうか。白の魔女はそう思った。
「何人たりともだ! な、ん、ぴ、と、た、り、と、もぉ!」
「ああわかった。わかったから」
「知人だろうが友人だろうが恋人だろうが生き別れの姉妹だろうが親だろうがなんか⋯⋯あれだろうが通さんのだぁ!! わかったかぁ!!」
「わかったって言ったじゃん」
早口で喚き立てたジョウロに、白の魔女は頭痛を覚えて額に手を当てた。
「それに今我が主は非常にお忙しいのだ。貴様などに構っている暇はなぁい!!」
ジョウロに指さされた白の魔女は、ふっと視線を逸らし自身の髪をくるくると指で弄ぶ。もはやこの珍妙な何かにまともに付き合う気はなかった。
どうせ暇してるでしょ。
「なんだぁ? その顔はぁッ!!」
白の魔女がそう考えていると、ジョウロは憤慨したかのように声を上げ、ファイティングポーズを取ると左右にステップを刻み始めた。
「シュッ、シュシュッ」
そして、拳を何度前に突き出しながら鋭く息を吐き出す。花たちも真似するようにゆらゆらと揺れていた。
「やんのかあん? あんおいこら? 我は生まれた時から『イカれたジョウロ』で通ってんだぞこら? どういう意味かわかるよなおいこら?」
「君よりもわかってると思う」
ステップを刻みながら挑発するジョウロに、白の魔女は再び小さく息を吐いて僅かに肩を落とす。
「上等だおおぉおおおおおん?」
「鳴き声みたいになってるよ」
「その貧相な身体で我に勝てると思ってるならかかってこいやぁッ!」
ピクリと、白の魔女の片眉が吊り上がる。確かに白の魔女はともすれば少女のような体型でらあるし、特段それを気にしてもいないが、何故こんな相手に侮辱されなければならないのか。
幾ら魔女たちの中でも常識的で温厚な白の魔女とはいえ、流石に限界であった。
「そう⋯⋯じゃあそうする」
「⋯⋯⋯⋯」
その言葉と共に白の魔女の周りには巨大な純白の拳が複数現れ、それを見たジョウロは沈黙する。段々とステップが緩やかになっていき、やがてジョウロは動くのを止めた。表情は達観しているが、怯えているのか注ぎ口からぴちゃぴちゃと水が零れている。
「ふ⋯⋯いや話し合いという選択もあるんじゃないかにゃほべぁッ!!」
ジョウロが目を閉じて片手を前に出し、何やら言い始めた所で純白の拳が殴りかかった。容赦のないラッシュを叩き込まれたジョウロはあっという間に粉々に砕け散る。後には、散らばったジョウロの破片と震え怯える花たちが残された。
白の魔女が細めた目を向けると、花たちはビクリと一層身を震わせる。
そして、「ワー」という声を上げ一斉にその場から逃げ出した。花壇へと我先にと駆けると、元のように土に根を埋める。しかし、地の上に出ている部分は小刻みに震えたままだった。
「やれやれ⋯⋯」
白の魔女はそう呟いてとんがり帽子の位置を直すと、玩具のようにも見える屋敷へと歩みを進める。来る度に同じ様なやり取りをやらされる事に辟易としながら玄関に続く三段程の階段を上り、これまた歪んだ片開きの玄関扉に手をかけた。ベルを鳴らしてもノックをしても住人が出てこない事などわかりきっている。白の魔女は遠慮なくドアノブを回し扉を開ける。例の如く鍵はかかっていなかった。
屋敷の中は、外観通り奇抜な様相となっていた。石壁に囲まれた部屋は板張りの床に何とも言えない奇妙な柄の絨毯が敷かれ、中央には猫足の大きな鍋が置かれている。しかし、よくよく見てみればその上には板が置かれており、テーブルとして使っている事がわかる。
その側にはまるで蜘蛛の足が生えたかのような大きなソファが置かれており、対面には一人がけの小さなコウモリのような羽が生えたゆり椅子。周囲の湾曲した壁には鍋やら箒やら雑多な物がかけられており、天井からも星やら水晶やら統一制のない物がぶら下がっている。部屋の隅には蜘蛛の巣が張られているが、それもよく見れば作り物であり、雑然としているように見えて掃除は行き届いているらしい。天井の中央からは大きなカンテラが下げられており、昼間だというのに薄暗い室内を暖色の明かりで照らしている。部屋の奥には更に扉と、歪んだ螺旋階段が上の階へと伸びていた。
ほんと古臭い⋯⋯。
再度そんな感想を抱きながら、白の魔女はとりあえずとんがり帽子を脱ぎ、両手で紙袋と共に胸に抱える。そして、入口横の壁に寄りかかり、先程から自分にすら気づかず部屋の床で何かやっている二人組へと薄目を向けた。
「がんばれ、がんばれ私ぃ⋯⋯! 理想の自分をぉ⋯⋯! 手に入れろぉ⋯⋯!」
そう言いながら、端正な美しい顔を歪めて必死に腹筋に励んでいるのは、燃えるように赤い髪を長く伸ばした女性だ。部屋着なのか、簡素なシャツに短パン姿で、ぷるぷると額から汗を流している。彼女のやや釣り上がった瞳は、髪と同じ様に赤く染まっていた。
「そうだ! がんばれがんばれ! 君ならやれる! これを乗り越えた先には、明るい未来が待ってるぞぉ!」
そしてもう一人、腹筋に励む彼女の足を押さえ鼓舞しているのは、黒髪黒眼の男性だ。こちらも部屋着なのか、簡素なシャツに簡素なズボン姿で、至極真剣な様子で声援を送っていた。
やはりどう見ても暇していた二人を、白の魔女はしばしの間眺める事にする。
「ふおおおおおおおお⋯⋯!」
「すごい⋯⋯! すごいよ⋯⋯! あと少しだ⋯⋯!」
赤髪の女性が、ぷるぷると身体を起こすと、男性は感動したかのように表情を歪める。たった一回の腹筋でだ。
そもそも何で腹筋⋯⋯?
白の魔女はそう思ったが、まだ様子を見守る事にした。
やがて、赤髪の女性は完全に身体を起こし切る。黒髪の男性が両手を上げて歓声を上げた。
「うあああああ!! おめでとう!!」
「は、はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯今私は、偉業を成し遂げた!」
すると、赤髪の女性も歓喜の笑みを浮かべ――彼女の髪と瞳がその喜びを表すかのように鮮やかな黄色に変化する。
「もう肥満の恐怖とはおさらばだ!」
「そうだね! はいご褒美のドーナツ!」
「うわぁい!」
男性がテーブルの上に置かれていたドーナツを取り、直ぐ様差し出すと、彼女は喜色満面の笑みでそれを咥えた。
「んー」
と、美味しそうにドーナツを頬張り、片手を頬に当てた彼女の髪色と瞳が、再び鮮やかな桃色に変化する。
「いや甘やかしすぎでしょ」
そこで、流石に白の魔女は二人に声をかけた。あまりにもバカバカしい時間だった。
驚いた様に笑い合っていた二人は白の魔女へと視線を向ける。そして、再び女性の髪色と瞳が変化した。げんなりとした表情に相応しい暗い青色へと。しばし白の魔女をじっと見ていた二人は、そっと顔を見合わせて立ち上がる。
「あれ? 扉が開いてる⋯⋯」
「風かなぁ⋯⋯」
そして、二人同時にわざとらしく首を傾げた。どうやら白の魔女の存在をなかった事にしたいらしい。
「無理があるよね」
「おかしいなぁ⋯⋯」
「鍵しめとこ⋯⋯」
白の魔女の言葉を無視し、二人は顎に手を当てながら入り口に歩いてくる。
「いやほら、触ってるじゃん。居るって認めてるじゃん」
「いっその事扉変える?」
「あーそうした方がいいかも」
そして、白の魔女を二人でぐいぐいと押して外に追いやる。白の魔女は呆れてそう言いながらも、大人しく一旦外に出た。パタンと扉が閉まり、ガチャガチャと何やら何重にも施錠を施すよう音が響く。
「ルスニシテイマス。ゴヨウケンノアルカタハ、ジョウロニドウゾ」
更に、明らかに作った声で二人はそう言った。
「ふぅ⋯⋯」
白の魔女は一度息を吐き、口を開く。
「あー、せっかく白花堂の一日十個限定の白宝モンブランを持ってきたのになぁ。留守なら仕方ないかぁ。全部一人で食べちゃおう」
やや大きな声でわざとらしく白の魔女がそう言うと、再び扉の向こうからガチャガチャと音が鳴り響く。白の魔女が振り返り紙袋ととんがり帽子を後ろ手に持ったタイミングで、扉は勢い良く開かれた。
鮮やかな桃色に染まった髪と瞳の女性が満面の笑みを浮かべ、白の魔女に抱きつく。
「なんだもう! 来てたなら言ってよもう! 親友ちゃん!」
「太るよ」
「ふぐッ⋯⋯」
せめてもの意趣返しにと、白の魔女がそう言うと、調子の良すぎる女性がうめくような声を上げ、髪が暗い青色になる。
沈黙した彼女の背をぽんぽんと叩き、肩越しから白の魔女が部屋の中を覗けば、黒髪の男性は流れる様な動きでもてなしの準備を整えつつあった。
僅かに笑み、白の魔女は女性――無職で無色の魔女に告げる。
「実は君にお願いがあってきたんだよね」
「うげッ⋯⋯」
すると、再び無色の魔女はうめき声を上げ、こっそりと紙袋へと手を伸ばし、白の魔女はぺしりとそれを叩くのだった。
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⋯⋯如何でしたでしょうか?
いや、冒頭も冒頭なので如何もクソもないのですが。
因みに主役は最後に出てきた二人で【白の魔女】ではありません!はい!
まあつまりあれですね。
新作も雰囲気は変わらないと思います!コメディタッチです!うん!引き出しが少ない!
以上、高葉でした。