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「デモネ、スき。」クリスマス小話

「クリスマスといえばさー」
「ずいぶん先のことを言い始めた」

 まだ夏なのに。しかも連日30度を越したり越さなかったりする、真っ盛りの夏だ。今もガンガンにクーラーが効いた部屋で課題をしている。
 対してクリスマスは、ホワイトクリスマスなんて言葉も生まれるくらいに寒い時期にある行事だ。
 というか、ほとんど半年後のことである。

「ずいぶん先だと思ってても、毎日過ごしてればすぐにやってきて一瞬で終わっちゃうよー?」
「それはそうかもしれないけど」

 この課題に悩まされている真夏に、クリスマスの話をする。
 なんだか腑に落ちない。けれどカナの表情はいつも通りに明るくて、否定するのは躊躇われた。

「それで、クリスマスがどうかしたの?」

 だから、彼女の言葉に疑問で返す。

「クリスマスといえば、やっぱりプレゼントだよね」
「うん。一応はそうだね。まぁ俺たちは、もう堂々ともらう側じゃないけど」

 きっとそのうち、あげる側になるんだろう。

「……クリスマスの日に、起きたら枕元にプレゼントがあったのがずいぶん昔みたいに思える」

 カナはもらえなくなったのがとても残念なのだろう、渋い顔をしながら回想する。その顔が面白いのとかわいいのとで、俺は吹き出してしまった。

「ふっふふふ……そうだねぇ」
「そんな笑わなくたっていいじゃん!?」
「ごめんごめん」
「それに! みっちゃんだって今もプレゼントもらえるなら貰いたいでしょ?」
「貰えるんならね、そりゃね」
「ちなみになにが欲しいの?」
「うーん……」

 そう言われてみると、すぐには思い浮かばない。

「あ」
「なに?」
「新しい参考書が欲しい」
「夢がない!」

 わぁあ! と彼女は机に伏す。たしかに夢はない。咄嗟に思い浮かんだのがそれだったから口にしたけれど、今の彼女相手に言うべきではなかったかもしれない。

「よしよし」

 カナに近づいて背中をさすってあげると、彼女がのっそりと顔を上げた。どこかボーッとしている表情だと思った瞬間、その目に光が宿った。

「ここまでは雑談! ここからが本題!」

 俺の手を取り、そう宣言する。そうですかという言葉も出ていかず、ただただ頷いた。


「クリスマスプレゼントの交換がしたい! です!」
「あ、う、うん」

 勢いがすごくて、さらに深く頷くしかなかった。

「交換! 楽しみ!」

 それに気をよくしたカナが、俺の手を握ったまま嬉しそうに振り回す。
 しかし一定回数振り回されたところで、彼女はまたしっかりと俺の手を握った。

「それでさ」
「うん」
「とりあえず予算を決めたいんだよね?」
「……やけに現実的なところから攻めるね」
「だって値段が全然違ったら申し訳ないし」
「分かるけどさ」

 彼女が危惧するのも分かるけれど、カナにしてはやけに現実的な話なので思わず面食らう。
 気づかないうちに、カナも成長しているのかもしれない……。感慨深いものがある。

「私は5000円くらいがいいんじゃないかなって思ってるんだけど、みっちゃんはどう思う?」

 そんな俺の思惑など知らず、彼女は話を続ける。

「俺としてはもっと低くてもいいんだけど、大丈夫?」
「うわ、すごくバカにされてる」
「そんなつもりじゃ」
「大丈夫だし! なんなら1万円でもいいよ!?」
「1万円は俺が厳しくなるからやめて」
「ん! じゃあ5000円で決定だねー!」
「……決めるの早いなぁ」
「プレゼントに悩んでたらすぐだよ!」

 屈託なく笑う彼女を見ていたら、本当にそうかもしれないと思えた。
 プレゼント、何にしようかな。

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