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「デモネ、スき。」バレンタイン小話

「はい、みっちゃん!」
 通学路で一緒になるなり手渡された、ピンク色の小さな紙袋。何と聞かなくても分かる。分かるから、受け取る手に汗がにじんでいくのが分かった。けれどそれを堪えながら、俺はカナに笑いかける。
「ありがとう。今年はお返し、何が欲しい?」
 去年はたしか、クッキーだったっけ。
「そうだなー……。あ、春休みの課題代わってよ!」
「それはダメ。ちゃんと自分でやらなきゃ意味がないでしょ」
「どうせ最後になって焦って答え写すんだから、なんにせよ意味なんてないよ!」
「そうならないように、早く終わらせて」
「もー! みっちゃんは真面目なんだからー!」
「手伝うから頑張って」
「うー。それなら頑張る……」
「えらいえらい」
 いつもと同じような雰囲気の会話に安心しつつ、どこか失望する。
 これはきっと、本命じゃない。
 幼馴染の温情なのだ……。

 ○

 今になって思うと、あのチョコも全部本命だったんだろう。そうだと知らなかった俺に教えてあげたら、どれだけ喜ぶんだろうか。

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