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オンライン小説興亡記

かれこれ十数年、オンラインノベルサイトに入り浸っておりますので、ここらでその趨勢を記録しておきたくなりまして、少しお付き合いくださいませ。記憶のみを頼りにしていきますので、記憶違いによる誤植がありましたらご報告いただければ幸いです。

 小説を掲載する場というのは、元来個人でwebサイトを持って、その中のコンテンツとして小説を掲載していくというのが一般的でありました。個人サイトでは集客力に限界があるので、リンクを充実させたり、「○○同盟」のような同じカテゴリーの小説を集めたリンクサイトを作ったり、「リング」と呼ばれるwebサイトや小説の情報を登録して検索エンジンやランキング機能などを備えた宣伝のためのサイトが別に作られ、読者側はそうした情報を元に自ら小説サイトにたどり着く必要がありました。
 これらはファンタジーであったりSFだったりジャンルは様々でしたが、主にオリジナル小説を投稿する場であり、二次創作に関しては全く別に発展したように思います。というのも、SS(ショートストーリー)という概念が生まれたのはおそらく2ちゃんねるが発祥で、そこで主にアニメ関連やゲーム、エロゲー、あるいはエロパロと呼ばれる18禁の小説を投稿する専門のカテゴリーまで登場します。2ちゃんねるは長文を書き込めないという性質上、短文のショートショートが主に投稿される場であり、長いものは何回かに分けて投稿されたり、あるいは前述のように個人でwebサイトを持って小説を連載するという体裁を取るのが一般的でした。
 この状況が一変するのが、小説投稿サイトの登場です。どこが草分けなのかははっきりとは覚えていないのですが、現在も運営が続けられている中では、おそらく「Arcadia」が一番歴史を持っていると思っています。投稿サイトというのはこのカクヨムのように小説を投稿できるフォーマットを備えたサイトのことですが、当時としてはまだ個人でサーバーを持つということが少なかった時代であり、また今ほどwebの知識を持った人もいませんでしたので、その出現は驚きをもって迎えられました。こうしたサイトでは、自分で宣伝活動をせずとも、ジャンルの似通った小説を求める読者が自然と集まってきたので、作者は執筆にだけ集中できる環境が整えられることになりました。ちなみに現在電撃文庫で刊行中のアクセルワールドは、この「Arcadia」に掲載されていたもの(後に電撃大賞に応募の上大賞を受賞)、ソードアートオンラインは作者である川原礫氏の個人サイトで連載されていたものであり、これらの電撃文庫での刊行というのは、「webで連載している=プロではなくアマチュアで本は自費以外に出すことは出来ない」という固定概念を崩す先駆けであり、当時は刊行のためにwebでの掲載分が削除された際はかなり激しい論争が起きたと記憶しています。当初は二次創作がメインのサイトが多かったですが、やがて「登竜門」や「アルファポリス」など、オリジナル作品をメインとする投稿サイトも増えるようになってきました。またこの頃、ケータイ小説という、携帯電話で気軽に読める中高生向けのあまり難しくない小説が流行しており、これを投稿するための「魔法のiらんど」などのサイトが立ち上がっていました。この「魔法のiらんど」では「恋空」などの小説が書籍化され、「アルファポリス」ではそもそも書籍化を前提とした企画が行われるなど、徐々にプロとアマチュアの垣根が取り払われていきました。
 そのような状況の中で、サイトに小説を掲載して読んでもらうだけでなく、利用者同士で批評を行って文章力や表現力を高めていこうという動きが現れます。「作家でごはん」がまずその草分けとして登場し、次いで「Total Creators!」や「ライトノベル作法研究所」などのサイトが次々と誕生します。このようなサイトでは、それまでは小説に対して感想を送りあうだけであったものを、その作品に対して批評を行って問題点や改善点を指摘し、お互いに小説の技術を高めあおうというコンセプトの元で産まれました。ただ、これらのサイトはお互いの作品に対して攻撃してしまうことにも繋がりかねず、得てしてサイト自体が荒れたり炎上したりするという危険を常にはらんでいるものであり、実際に私も巻き込まれたことが幾度と無くあります(笑)
 こうした事情もあり、この後に登場する投稿サイトでは、こうした「批評」に対して何らかの制限が規約に加えられている場合が多いです。こうした動きの中で誕生したのが「小説家になろう」や「pixiv」といった現在でも盛業中のサイトでは、規約の中に当時の情勢についての片鱗を見ることが出来ます。「小説家になろう」では、新しい試みとして、出版社に書籍化を促すようなコンテストを行っていることが特筆されます。「魔法化高校の劣等生」や、「ログ・ホライズン」、「この素晴らしい世界に祝福を! 」など、書籍化にいたった小説は他のサイトの活動期間と比べると段違いに多く、「小説家になろう」で高い評価を得た作品には、ある種書籍化が約束されているといっても過言では無いでしょう。しかし、そうした書籍化を目指す勢力による評価第一主義が、同じようなタイプの作品ばかりが評価されて、「なろう系」と揶揄されるように、画一的な作品しか生まれないような土壌を作ってしまったり、あるいは評価をしたら評価を送り返さなければならないという暗黙のルールなどができてしまったりと、小説投稿サイトとしては閉鎖的な環境を作ってしまっているといわざるを得ません。
 この「カクヨム」もそうですが、近年ではそうした閉塞感からの脱却を目指して、自由な物語を投稿できるようなフォーマットを整えたサイトが増えてきたような気がします。現在は「小説家になろう」がこの手のサイトとしてはトップを走り続けていますが、この「小説家になろう」のカウンターとなるサイトがちらほらと出てきているような、そんな状況では無いでしょうか。インターネットがある限り、この興亡はずっと続くと思いますが、ひとまず現状としてはこんなところでしょう。

1件のコメント

  • 某氏の提言により、本体のほうにも同じ文章を載せることにしました。
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