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KAC2021あとがき

 晴れて会社員デビューを果たしつつあります市亀でございます。
 半分くらいニートだった先月に行われていましたKAC2021、なんとか10作完走できましたので、一昨年と同様にあとがき兼セルフライナーノーツを記しておきます。

(前回はこちら https://kakuyomu.jp/users/ichikame/news/1177354054889123817

 当然、作中のネタバレはしますので、事前情報なしで読むのがマスト、という方はご注意ください。
 ただ僕は今回、あらかじめネタ明かしをすることで「そういう話なら読んでみようか」と思ってもらえたらな、という考えで書いています。ので、未読の方にこそ読み進めていただきたいです。

 また、作品についてはコレクションにまとめていますのでそちらからどうぞ。


①会えない春に、出逢い奏でるGirl meets GirlS!!

 お題は「おうち時間」ということで、コロナ禍ステイホームの話にしました。
 Rainbow Noiseシリーズ (RN) のガールズカップルである詩葉&陽向が登場するスピンオフですね。RNの高校編(この前完結した)が2015年までの話で、さらにその続編が大体2018年くらいまでの話……なので、コロナ禍の2020~2021年はだいぶ未来の話でした。大人になった彼女たちの話は前からイメージあったので、お姉さんらしい姿も、スター然としたコンビ感も、書くのが楽しかったです。

 加えて。コロナ以前の、自由に密な部活ができている様子を散々描いてきましたし、僕もそうだったので。青春にコロナが直撃した人の話も書いておかなきゃな、という感情もありました。女の子同士の縦の恩送りって良いよね、という理想を込めて。


②秒速1年の別れの歌

 お題は「走る」、真っ先に浮かんだのはKalafinaの「sprinter」です。いっとう好きなのに、数回ほど行ったライブのどれでも聴けなかったんですよね……歌詞やタイアップ(「空の境界」の一作)も相まって、別れの感情を瞬間に濃縮したような歌です。
 加えて、「響け!ユーフォニアム」などで描かれている、ままならない感情を競い合いに昇華するようなストーリーが好きでして。速度、というところから「秒速5センチメートル」を思い出して「秒速1年」が浮かんで、さらに「初音ミクの消失」の一節が浮かんで……という、オマージュが濃い一作になりました。

 これまで競争に興味のない文化部男子を描きがちだったので、そんな殻を破る意味も込めて男子間の話にしました。気に入ってくださった方が多くて嬉しかったですね……ひょっとしてこういうテイストのBL向いてる?


③カンのいい姉は、愛しの妹に騙されたい。

 お題は「直観」、今回一番の問題児……というか、困った枠。
 意味を再確認しつつ、違和感からサプライズがバレる、みたいなのを想定しまして。
 ドッキリとかサプライズとかは割と苦手なんですが、姉妹百合だったら尊いよな~、という思考を経て。

「きみのせかいを変えたくて」で登場した木坂灯恵と、その妹であり「霊域機動隊」現世サイドにも登場している木坂明音……の、小さい頃の話です。説明が面倒。
 上記2作が故人を巡るシリアスめな話だったのに対し、今作はひたすら甘々な姉妹百合です。灯恵が母性の塊のような人で、それが後の恋人である花織に注がれている訳ですが、その源泉は年の離れた妹への愛情だった、という話でもあります。


④日常系ミステリーへの、スゝメ?

 お題は「ミステリー or ホラー」でした。どちらのジャンルも本格派のは書けないので、どちらかを題材にした平和な話にしよう……という所まで考えて。ミステリーの中でも好きな「日常の謎」の魅力を、布教会話に落としこんでみることにしました。

 そこで引っ張りだしてきたのがRN主人公で本の虫でもある飯田希和です。聞き手は詳しくない方がいいと思い、小説に馴染みのない+希和と特に交流のない女子、美浪さんを新たに呼びました。合唱部の外から見た希和はちょっと取っつきにくい謎男子ですよ、という提示でもあります。

 これはある種の自戒なんですが、本の話を延々とできるのって基本は本好きの間だけなんですよね。本に興味ない人からの「語ってるなあ(困惑)」を適度に入れ込みつつ、語る側(希和)も引き際を弁えている、みたいなバランスにしました。
 ちなみに希和が言及している作家は僕の推しとイコールです、相沢沙呼さんとか初野晴さん(のハルチカ)とか。沙呼さんの「小説の神様」を読んでRNを書き出した身としては、メタ的に師匠に共演してもらったような気分でもあります。


⑤ページ越しにつないだ手が、ほどけたら

 お題は「スマホ」ということで、小説をスマホで読むのと紙で読むのとでは何が違うか、という所から発想しました。
 紙の本、貸し借りによって「あの人もこのページを読んでいた」という意味合いが発生するんですよね。それがピュアに出るのは小学校の図書室だよね、通じ合ったけど別れちゃって……からの意外な再会、という経路。

 小学校時代の僕には遥樹くんみたいな所があったし、優梨さん(=私)みたいな存在もいたんですよね。ここまで密接ではないですし、僕が尊敬されていた気もしないですが。家族をはじめ味方が多かったこともあって学校には通い続けたものの、「図書館なら誰も追ってこないし入り浸ろう」みたいな発想が出てくる時期もあったので。
当時は逃避の手段であったとしても、本を読んできたことは何かにつながるよね、という感情もこもっています……だったらもっとハッピーな話にできないの僕は?


⑥作者に愛されすぎるキャラの創り方(という名の自分語り)

 RN執筆に至るエッセイですね。お題が「私と読者と仲間たち」で、仲間=自キャラと解釈しました。やはりRNは作品の中でも特殊というか、作品の要素である以上に僕自身の友人、という感情移入をしています。だからこそ、読者さまから応援していただくのが嬉しい。
 僕にとって小説執筆は何か、という話でもあるので、RN未読の方も読んでみると面白いと思います。市亀のコアはこれか、という。


⑦近所の憧れのお姉さんが、十年分の告白に答えにきた件

 お題が「21回目」で、なら1/21ではなく×21にしよう……という所から、タイトル通りのプロットを思いつきまして。
 少年からの告白が10回、それらにお姉さんがはぐらかしてきたのを訂正して10回、ラストに少年から1回でハッピーエンド。アイデアは悪くなかったと思いますが、10回も告白っぽいフレーズ考えるの難儀しましたね……疲れが来ていたこともあって、勢いで押しちゃったところがあります。


⑧百合を理解しきれない百合オタク男子による百合の話

 お題が「尊い」で、なら百合の話にするけれど……と思いかけて。そもそも百合の尊さとは何か、という問いを会話にしてみました。というのも、3月に読んだ「夢の国から目覚めても」という小説が、百合ジャンルの再定義として非常に素晴らしくて。僕自身も、ヘテロ男性という(色んな意味での)非当事者が百合に惹かれる理由、あるいは注意するべき点について、ちゃんと整理しておく必要を感じたからでした。

 登場させたのはRNの下級生チーム。百合オタク男子の清水と、百合に詳しくないけど幼馴染百合ド真ん中である香永の組み合わせ。いくつも理由を並べたけどいずれもクリティカルじゃない、その割り切れなさこそ百合じゃないの、という着地をしています。
 ……けど、男女どっちが受け手でも、男性忌避がどこかで関わっていると思うんですよね、百合オタクは。その辺を踏まえつつ、百合になれないお前にも人生はあるだろ、と気合いを入れる話にもなっています。
香永みたいな、ガサツなんだけど要所インテリみもある語り口は好きですね。遠慮のない男女トークってのも良いですし。

④もそうでしたが、文章プレゼンにおいて対話形式、インタビュー形式ってやりやすいんですよね。映画ブログ「物語る亀」もその形ですし。


⑨研究室ぼっち女子と、架空の後輩との百合の話

 お題は「ソロ○○」ということで、僕がラボ時代によくツイートしていた「脳内の架空の彼女」「脳内の架空の研究室ヒロイン」を女子院生視点で再現してみました。こんな状況でもこんな子がいれば楽しいよね、という妄想です。研究室ラブコメっぽいのはどこかでやろうと思っていましたが、早めに実現しました。
 自分でも呆れるくらいのフェチ詰めですね。丁寧に接してくれるよりも、舐めくさったような生意気が混ざっている方がこちらもノリやすいと思うんです。

 イメージは元からあったし、パロディも多いし、かなり早く仕上がりました。こういう会話が一番得意な説あります。


⑩バージンロードは恋の終点

 お題は「ゴール」なので、結婚=ゴールインという見方の裏をかいてみた、という発想なのですが。もう少し晴れやかな話にしても良かったのでは……
 夫婦仲は人それぞれだと思うのですが。やはり、結婚すると恋愛感情って冷めていくし、嫌な所も増えていくケースが多いと思うのです。そのうえで、倦怠期になりつつもそれなりの関係を維持するためには、それぞれに拠り所となる友人(それも同性の)が必要なんじゃないか、という考えは抱いていまして。
 そこにさらに、女性から女性への片想いを持ってきて、という反転。

 百合に男が敗れる話をメインで書いていた身としては、セルフカウンターのような意味合いもありました。現実に抗うのではなく、上手く現実に折り合っていくのも素敵じゃない、という話もあっていいと思っていましたし。

 ……けど、やはり。色んな背景につなぎとめられている結婚よりも、義務でもないのにずっと続いている友情の方が、感情の純度としては高いかも、みたいな気しません?(険悪な夫婦の話を聞きすぎ)


 ということで10作、何かお気に入りがあれば幸いです。

 

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