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KACあとがき、という体裁のセルフライナーノーツ。

 カクヨムに登録して2年余り、近況ノートを書くタイミングが掴めなかった……というか、「小説だけ置いておけばいいや」という感覚だったのですが、やはり執筆の裏側とか語りたいもので、このたび初ノートです。

 さて、ひと月ほど前にカクヨム3周年記念選手権(以下、KAC)の企画が発表されまして。10回は無理でも、短編をぽんぽんと書いていくのは新しい出会いにつながる良いチャンスでは……と考え、まずは最初のお題に挑戦したのですが。
 結局、10作できました。皆勤賞のはず、です。
 学業がそれほど忙しくなかったこともあり、空いた時間の多くを小説に充てる月になったのは確かですが。自分がこれだけ広いテーマ(当社比)で、早く(当社比)書き上げることができるとは思っていなかったですし。
 公開した瞬間に「よっしゃ次のお題ください!」というテンションになってたくらい、カクヨム活動に夢中になってた3月でした。

 ということで、KACで書いた小説について振り返っていこうと思います。
 当然、作中のネタバレはしますので……事前情報なしで読むのがマスト、という方はご注意ください。
 ただ僕は今回、あらかじめネタ明かしをすることで「そういう話なら読んでみようか」と思ってもらえたらな、という考えで書いています。ので、未読の方にこそ読み進めていただきたいです。そもそも、10作全てを読んでくださったという仏様のような方は稀でしょうし。
 
 それでは。

①ミヤマ百獣戦記―疾風のリスの章―

 小さい頃にシートン動物記や動物図鑑を愛読していたこともあって、哺乳類は好きだったんです。その頃に「動物に変身する」「動物を使役して戦う」空想はしてた覚えはあるんですが、今回はあまり考えてなかった「動物自身が言葉を操り戦う」話です。異種間チームアクション。たまに微百合。ヒト以外が主人公なのは初めて書きました。

 主人公がリスなのは即決でした。キュートさばかりが強調されがちですし、実際に世界で一番可愛い種の一つではあるんですが、陸生生物屈指の敏捷性を誇る種だとも考えています。樹木間の飛び移りの速さとか、生で見たら仰天すると思います。
 フクロウの能力として、「優れた聴覚による探査力」「飛行時のステルス性」「獲物を仕留める獰猛さ」があると分かったので。まず相棒のコノハズク(健気だけどちょっと心もとない)で、終盤で他チームのワシミミズク(めちゃくちゃ強い切り札だけど、ガラが悪い)で、フクロウという種の強さを表現しました。

 動物ってどの種も特異な能力・習性を持っているので、そういうポイントをフィーチャーするのは非常に楽しかったです。後、異なる動物同士でどうスキンシップを取るんだろう、という疑問も浮かびましたね。とりあえず、リスは尻尾でもふもふしてると可愛いと思いました。


②Best Second ―終わらなかった片想いの向こうで―

 書いたKAC作品の中で、一番愛着ありますね。
 二番目というか、「好きな人の一番になれない」キャラは大好物で、その立ち位置を存分に描いているのが、僕がメインで書いている「Rainbow Noise -雪坂高校合唱部-」(以下RN)シリーズでして。片想いを書くのがとにかく好きです。
 恋愛物にするのは即決、ただ「結ばれない二番目」は他の拙作でいっぱい書いているので、「結ばれたけど二番目」に決めました。ちょっと心が渇いて、甘々な同棲を描きたかったこともあり。

 彼氏の幸嗣(ゆきつぐ)は、僕が一番好きなタイプの男子です。柔らかくて、ちょっと及び腰で、けど芯は強くてまっすぐに相手思い。
 彼女の花歩(かほ)は、アクティブで割と強気なんだけど面倒臭い甘えん坊。そして小説書きです、拙作では三人目。

「生まれ変わったら(それでも私が好き)?」
「生まれ変わるよりは、天国でも君と居たいです」
 という流れは自分でもかなり気に入っています。

 他に恋焦がれていた相手がいた花歩と、最初から花歩を好きだった幸嗣。
 同じ大学に通っていても、花歩にとっては第二志望、幸嗣にとっては第一志望。
 いくら仲良く付き合っていても、なかなか埋まらない感情のギャップ。

 それを埋めるために、花歩は「幸嗣をモデルにした主人公を書く」ことで、幸嗣の感情をトレースするという方法を取ったんですが……幸嗣くん、大好きな彼女に主人公にしてもらえるって幸せ過ぎないかな?
 結果、相当なお似合いカップルになり、後のKACでも登場することになりました。

 後は「Best Second」のタイトル回収と。花歩の小説のきっかけがこのやり取りという意味で、エピソードタイトルに「Episode 0 of」を付けました。


③ケルベロスとグリフォンの、いちゃいちゃ八百長デイズ

「シチュエーションラブコメって何ぞ!? 何ぞ!?」
 と頭を抱えたのが懐かしいですね。色々迷った挙句、公式の例にもあった「敵同士に見えて両思い」を「戦ってるふりしてデートしてる」「で、百合」に持ってきて。
 さらに独自色を入れたくて、KAC1での動物主人公が楽しかったのをきっかけに「動物、いや幻獣……そうだ、召喚獣!」と相成りました。
 ケルベロスとグリフォンなのは、単に好みです。多頭だとスキンシップの取り方もバリエーション出そうですし。というかメインは真ん中の頭、で良いのやら……

 書いてるときは「とにかくポップで甘々」のつもりだったんですけど、応援コメントくださった方が「可愛いけれど、せつないですね」と評してらっしゃいまして。
 よく考えたら、設定した召喚獣システムがブラック過ぎますし、召喚されなきゃ会えないって普通に辛いんですよね……任期制で、勤め上げれば幻獣界で会えると信じたい。

 という風に、設定の詰めの粗さが出てしまったのは確かなんですが、色んな方に反応をいただいた一篇でもあり。昔の自分には思いつかなかっただろう点も含め、気に入っています。


④愛の端緒は、ルーズリーフに閉じ込めた恋
 
授業中にイラストを落書きしてる方は多いと思うんですが、僕は文章の落書きをする人でした、というか絵が描けない。好きな作品の固有名詞だったり、書こうとしてる小説のフレーズだったり、色々ですが。
 そんな「授業中の落書き」が、「好きな人への、言えない想い」のアウトプットだったら、という経緯で練りはじめました。ありがたいことに、この発想を気に入ってくださったというレビューもありました。

 同じ人を好きになったけど、どちらも付き合える立場ではなくて、なら片想い同士で友達になって……そのままカップルになってしまう、という。同じアーティストのファン同士で結ばれたという話はよく聞きますし、それほどレアな馴れ初めではないようにも思えます。
 愛で始まり恋で終わるタイトルというのも気に入ってます。
 
舞台となったのは、RNと同じ雪坂高校。片想いの対象である九瀬先生というのは、RNで最初の方に登場していた方です。またRN主人公の希和、さらにRNと世界観を共有している「航学日和」(作:ラスカルさん)の主人公である日和ちゃんが一瞬出ています。
 高校で同じクラスになる数十人のうち、密接に関わるのは一部で、ずっと縁が続く人はさらに少なくて。けど、緩く関わった人たちも皆、自分の人生の主人公で、だからこんなドラマもあるはずなんだ、という感情もありました。


⑤I love you. = 「月夜を越えましょう」

 段々とダークに寄ってきました。「関係性を良好に保つため、お互いに課すルール」という方向はすぐに決まったのですが、ほのぼのカップル・家族な話はかなり多くなりそうだったので、思い切って暗い方向に舵を切り。
 ルールを設定しなければいけない理由として、「妻が狼人間」という試練を課しました。狼人間との共存というと、ハリー・ポッターのあの方が発想の源だった気もします。
 
 ルール10箇条のうち、「ストレス下でも心の健康を保つため」という目的で、実際にありそうな夫婦円満のコツみたいなのを前半に配置し、狼人間対策を後半に持ってくることで、ルール提示に従ってシーンが展開するように書きました。明から暗への急降下、感情のフリーフォール感。
 最後に「私たちの幸せを、諦めないこと。」を持ってくることで、一応は明るい方を向いたエンドになってるとは思います。

 周囲へのリスクを考えると、狼人間を隠匿するのは社会的に正しいとは思わないのですが。一方で、伝えたなら夫婦は離れ離れになる(そもそも狼人間がどれだけ人間として扱われるか微妙)のも確かなので。どんな規範を差し置いてでも夫婦生活を守りたいという、歪みの強めな純愛になったと思います。

 そしてタイトル。I love youと「月」を絡めた表現はド定番ではありますが、「月夜を越えましょう」とできるのはこの話ならではだと思います。


⑥異世界転生仲介業の3分間が、色々と辛すぎたもので。

 さらにダークというか、救いも何もないですね。最高速度で破滅に突っ込みます。
 前日にRNで幸せいっぱいな告白シーンを描いた反動なのか、バドエン衝動があったからなのか……

 お題の「最後の3分間」を、絶命直前の時間にしたくて。他人のその時間を繰り返し体験させられる、みたいなの面白そうだなとあれこれ考えた結果、異世界転生の裏側を解釈してみるという方向に固まりました。
 しかし本作で描いた霊魂の回収方法、発想が生物系の実験(大学でやってます、ちなみに僕は理系的な知識もセンスも底辺)の原理に影響されているような……
 
 何にも知らない男子学生と、彼がすぐに事故死することを知っている妖精との視点を交互に入れ替えることで、「何も知らずに死んでしまう」無常感が深まったと思います。
 僕が異世界転生モノに詳しくないということもあるんですが、反吐が出るような悪人が転生してチート無双する、みたいなパターンもある訳で。それだと爽快感も何もないよなあ、と。
 システムに使い潰されようとしている存在が、その手の悪に復讐するべく、最後の最後にシステムに叛逆する話でした。


⑦ユーレカ・ナイトメア

「最高の目覚め」はかなり頭を抱えまして。もう会えない人に夢で出会った、みたいな展開を練っていたところで「インセプション」の、夢の中でアイデアを植え付けるという設定を思い出しまして。そこから、「小説のネタが、夢の中で降ってくる」という話に決めました。

 という訳で、KAC2の花歩&幸嗣が再登場です。
 花歩が考えていた小説の構想は、僕が「僕の冥福の十分条件―日本霊域機構作戦局―」(以下、僕の冥福~)の設定がベースになってます。着地点こそ違いますが、構想のスタート地点は花歩とほとんど一緒だったかな。
 
 このふたりはとにかく甘々ラブコメにしたかったので。花歩の新作のモチベが幸嗣だったり。後、「テレビから人が出てくる」よりも「彼氏に殴られる」の方が夢だという根拠として強かったり。それはそうと、KAC2での花歩は昔の片想いを引きずっていたんですが、こちらでは完全に幸嗣しか見えてない一途な心境になってまして……時間が経って、努力の成果も出たのかな。可愛いので何度でも登場させたいです。


⑧After the HAPPY END. -fallen HERO turns to BOSS –

 描かれたハッピーエンドの後もキャラクターたちの人生は続くし、それがずっと幸せなものだとは限らないよね……というお約束を、思いっきり不幸な方向に振って書きました。
 3周年をポジティブなイベントとして書く人が多そうだなと思い、今回も逆を目指しましたね。和風ファンタジー世界観でのRPGを意識しました。

 外部からの侵略に対してコミュニティが団結して、それを退けたとして。団結する理由は減りますし、侵略前よりは色んなリソースが欠乏した余裕のない社会が残る訳ですし、なら内部で紛争が起きるのも無理ないよね、という感覚はあります。
主人公がラスボスと同じ道を辿り、それが次作の序章になるという流れにしたかったのですが。もう少し上手い展開を考えられなかったものか……
 とはいえ、主人公の「諦めない」がボス堕ちを引き起こすという流れは気に入ってます。二作目では強敵として立ち塞がりつつも、最後には味方になるんじゃないでしょうか。


⑨めぐり桜のファンファーレ

 元から頭にあったストーリーなので、お題を見た瞬間に「よっしゃ!」と即決でした。
 
さっきも述べた拙作「僕の冥福~」の世界での一幕です。本作のドラマの感情面を担う舞台装置として、死後の霊人は現世に干渉はできない(してはいけない)が、観測することはできる。しかし現世からは、霊人の存在は感知すらできない……つまり、愛する人をただ見守ることしかできない、そんな現象がありまして。
 自分がいない世界で生き続ける人たちの日々を喜び、祝い、あるいは悲しみ、憎しみ。そんな一方通行の感情を描きたい、というシリーズなんですね。
 
 そんな世界で今回描かれるのは、八歳で亡くなった菜桜という女の子の、自分がいなくなって十四年後の故郷を巡る話です。
 菜桜と残された家族にとって、喪失の悲しみから少しずつ前を向き始めた頃、だと考えています。「おめでとう」を振りまけるようになった菜桜も、昔はきっと絶望と怒りでいっぱいだったはずで。そんな彼女に「おめでとうの魔法」を教えたベテラン霊人の英雄(享年=外見年齢は八歳)は、「僕の冥福~」で既に登場しています。ブラスター撃ってます。

 季節柄もあり、「桜」をフィーチャーすることはすぐに決めたのですが。名前に桜を入れる理由として「枯れた草木が芽吹くように、厳しい寒さの先で、花がまた咲き誇るように」に加え、「その色と香りが、誰かを元気にするように」という面まで掬えたのは気に入っています。
 
 また後半では、「嬉しいのは、花が咲くこと自体じゃなくて。咲いた花を一緒に見て、綺麗だねって一緒に笑顔になれる人がいることなんだ」という、何度となく語られているようなフレーズがありますが。僕がイメージしていたのはAqua Timezの「さくら道」という曲です。この曲の「明るくて泣ける」感覚が、少しでも文体に反映されていればいいのですが。
 
 この場面で登場している灯恵と花織は、拙作の百合短編「きみのせかいを変えたくて」(きみせか)で描いたキャラです。「きみせか」で語られていた、明るい優等生である灯恵の唯一の欠落が、幼い頃の菜桜との別れでして。菜桜のお話を気に入ってくれた方は、ぜひこちらも読んでいただけると。
ちなみに、今回のような自作同士のクロスオーバーは今後もさらに拡大する予定です。それがやりたくて手を広げているみたいな所ありますし。


⑩Chain of STORIES never stops.

 いよいよラストにして、ほぼ把握してなかったカクヨムイメージキャラがお題に来て頭を抱えました(ごめんなさい運営さん、可愛い子たちですね)
 そもそも設定がファンタジックなので、特にバーグさんは非実体なのかアンドロイドなのかとか、色々と分からず。しかし先に投稿されていた他の方の作品を読むに、かなり多様に解釈されている様子でしたので。
 だったら僕が小説をカクヨムすることで見つけてきた感情を、思いっきりぶつけよう……と決めまして。

 僕にとって小説、特に一番長く書いているRNは「自分の経験を出発に」「他の作品に背中を押されながら」書き続けているものです。これは色んなクリエイターさんも仰っていることで、つまり物語が生まれる背景には「人生の経験」「他のフィクション」という物語の存在がある、「物語は連鎖する」。
 その連鎖を、カタリくんとバーグさんがつなげていく、さらにトリが見据えている、という景色です。いつか、一家に一人バーグさん、な時代が来ると願って。

 僕が小説を書く上でとても大きな励みになっているのが、相沢沙呼さんの「小説の神様」という小説で。この作品で得た勇気が、紬実から詠まれた物語やトリのモノローグにつながっています。ラストで「綴れ。紡げ。記せ。築け。熾せ。残せ。彩れ。言祝げ。放て。叫べ。」という、韻踏みながらの単語コンボをできたのも満足。
 加えて、大好きなfhanaの「STORIES」という曲もイメージしています。タイトルの大文字表記はこのオマージュ。

 書くのは遠い未来になりそうですが、今作で描いた感情はいずれRNの中心的テーマになるので、それを早い段階で形にできたのは楽しかったです。
 こんな風に、これでもかというくらいに自分の趣味を詰め込んだ一篇なのですが。
 嬉しいことに、多くのハートやレビューコメントいただいてまして。初めて、星が二桁に乗りました。ありがたい!


 ……という風に、各作を振り返ったというか、好きに語り倒したのですが。
 やはり、ひと月前の自分と比べて、随分と色々な殻を破れたように思えます。制約があることでセンスが広がるとは、まさに今回。
他の作家さんの、これまでは見えなかった魅力を味わえたのも確かですし。本当に楽しい企画でした、また、こんな企画で盛り上がりたい所です……忙しくないといいなあ……

取り留めもない振り返り、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 最後に。
 カクヨム3周年に、おめでとうとありがとうを。
 10年後も、僕はここでカクヨムしていたいです。

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