📕「飯屋のせがれ、魔術師になる。」
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https://kakuyomu.jp/works/16816927863114551346📖「第564話 それではまるで獣を語っているようだな。」
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https://kakuyomu.jp/works/16816927863114551346/episodes/16818093080379860260+++++
📄「どうした、ステファノ? お前、震えているのか?」
「すみません。アレはあまりにも異質でした……」
ゴダールの求めに応じ、ステファノはかゆを作った。アーチャーを助けてかゆを口に運んだのはポトスだ。
アーチャーの食事中ステファノはただそれを見守っているだけだった。
食後手持ちの胃腸薬を勧め、ステファノは薬を飲む手伝いをした。その時に、アーチャーのイドを整えてやろうとした。
アーチャーの背中に手を添え、上から下へとそっとさすった。手のひらからほんのりと陽気を送りながら。
「陽気を送り込む時、アーチャー自身のイドを感じました。散ってしまったイドを集めてスムーズに流してやろうとしたんです。その時の手応えが、何て言うか――」
「どう変わっていたんだ?」
ステファノを促すドリーの声もつい低くなる。
「人のものとは思えませんでした」
人間の自意識であれば、おのずとそこに秩序がある。願望と制約がせめぎ合う表層意識の下で、無意識の自我であっても一定の秩序の枠に収まっている。
その枠を外れてしまえば、それはもう狂人である。
「アーチャーのイドには秩序というものが見当たりませんでした。感情さえもなく、衝動だけで生きているような」
「それではまるで獣を語っているようだな」
「そうですね。人の形をした獣がいるとしたら、あんな感じでしょうか」
外見が獣ならば驚かない。人の容姿に獣の無意識が収まっているから恐ろしいのだ。
「人の形をした獣か……。トゥーリオ・ヤンコビッチにふさわしい表現だな」
「俺がゴダールさんと別れたのは、アレと同じ馬車に乗る気になれなかったからです」
人食いの猛獣と一緒の馬車に乗るようなものだった。
「俺はどうしたらいいでしょうか?」
「どうすると言っても、できることは少ないな」
衛兵隊に報告してゴダール一座を追ってもらうことはできるだろう。ネルソンとギルモア家の後押しがあれば、訴えが黙殺されることはない。
だが、それが役に立つだろうか?……
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お楽しみください。