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ミニ小説第十話

「文芸部的な、余りに文芸部的な」
寝手場架莉



寝手場はスーパーが好きである。
毎日行く。
むしろ勤めたいくらいだが、風呂に入らない人間を雇うはずもない。

「しかし、ここんとこの食品の値上げはどうなんだ」
昭和の主婦のごとくカゴを内肘にかけ、トマトを吟味しながら思う。
いつも買うトマトが100円も値上がっている。
もやしは変わっていないようだ。
貧乏人はもやしだけ食えというなら、そこら辺の草しか食えない埼玉県民よりはマシなのだろうか。

毎日行くと、毎日会う顔がたくさんいる。
その多くは女性だが、数少ない男性のおなじみと目が合うことがある。
マスクの上の顔がお互いニヤッとする。
「俺よりみじめな奴が今日も来ているわ」
きっとお互い心のマウントを取っているのだろう。

1000円以内に収まるよう計算し、レジの列に並ぶ。
レジは自動会計を避け、人間とお金のやり取りをする所しか選ばない。
決してレジの女性の顔で選んでいるわけではない。
機械が嫌なだけである。

「ヒョふえ・・・」
ふとレジで会計している人物を見て、思わず声が出た。


侍がいた。


さ、さ、さ、サムライ?
サムライがスーパーに?
さすがに帯刀はしていないが、着物も足袋も風呂敷も侍そのもの。
別にギターは持っていないけど。
「た、タイムスリップか」
とも思ったが、侍は普通にスマホで支払いをしている。
「PeyPeyで」
侍が電子マネーで支払っている!
そこは和同開珎じゃないのか。


声をかけようと思ったが、自分自身も浴衣なので、桃太郎侍かなんかのコントみたいなのでやめた。

2件のコメント

  • ワタシ、
    成城学園前のホームでサムライを見たことがあります!!
    焦ってました!!
    なんででしょう?
  • 同じ人でしょうか・・・
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