こんばんは。
夏の終わりの台風のように、
うつりと新作ラッシュが始まる・・・かもしれません。
今回は新人ではなく、うつりとの中ではベテランの方です。
何作も書くとだんだんネタが尽きる、とおっしゃって巻いたが、今までとは全く違うジャンルを書かれており、
かつ、うつりとでは誰も挑戦していない内容です。
ファンタジーのカテゴリーではありますが、ありきたりな異世界転生モノではないのが、うつりとの特徴です。
すでに新作が出来てる新人もいるのですが、
どうやらここで発表するのが恥ずかしいようです。
なんとかわいいのでしょう。
みなさんがリクエストしてくれたら、
その方も発表する気になるかも。
よろしくお願いします。
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ミニ小説
「文芸部的な、余りに文芸部的な」
寝手場架莉
「え? 兼本さんがフランスへ行く?」
「そうなんだよ」
寝手場が訊くと、歯医者の息子が言葉に詰まった。
「パリのマドレーヌってとこで」
「お菓子か」
「いや、マドレーヌ墓地ってとこ」
「みょうがぼちか」
「お菓子から離れよう、寝手場さん」
「そことサンドニ大聖堂ってとこらしいんだけど」
「エールフランスで行くパリ七日間の旅か」
「いや、アタック25でもないんだ」
歯医者の息子が暗い顔をする。
「彼女ね、マリー・アントワネットの生まれ変わりなんだって」
ブリーダーの大久保女子が突飛なことをいう。
「異世界転生か」
「真剣なのよ」
「至ってまともな大人だと思ってたけどなあ」
「本当かもしれないじゃない」
窓の向こうから教会の鐘の音が聴こえる。
どこをどうするとそんな発想になるのか、寝手場には理解出来なかった。オカルトはツチノコしか信じていない。
「で、いつ辞めるんだ」
「明日らしいんだ」
「明日?」
歯医者の息子が寂しそうにクラフトBOSSコーヒーを飲む。
それから残った者だけで相談し、送別会の企画を急遽立てると、翌日を迎えた。
「すみません、急に辞めることになって」
兼本さんが挨拶する。
マリー・アントワネットの棺に会ってどうするのかさっぱりわからないが、本人にとっては大事なことなのだろう。
「それでは兼本さんを送る歌を皆で歌います」
歯医者の息子がギターを持って告げる。
「曲はもちろん。マリー・アントワネット、なんて曲はないのでマリー・ゴールド」
麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋
「もう離れないで」と
泣きそうな目で見つめる君を
雲のような優しさでそっとぎゅっと
抱きしめて 抱きしめて 離さない
寝手場がカホンを叩きながら横にいる歯医者の息子を見ると、ギターを弾きながら泣いていた。
なるほど、俺のボケに怒ってた訳じゃないんだ。
好きだったんだな。
遥か遠い場所にいても
繋がっていたいなあ
2人の想いが
同じでありますように