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エアの習性、猫の本能を刺激してみたら?

 エアは金虎族という種族の獣人だ。
 本人は虎を自称しているし、その優れた身体能力、戦闘能力は紛れもなく虎に相応しい。
 だが、エア個人としての性格や性質は、渡からすれば虎というよりも、猫に近いように思えてならなかった。

 たとえば、食卓に鰹節が出るときだ。
 ご飯に、あるいはお好み焼きに鰹節を出す。
 袋の封を開いた瞬間から、エアの顔がパッと華やぎ、口元がニパッと笑みを浮かべる。

「ほら、エア。鰹節だぞ」
「うひゃー! 美味しそうだにゃ! はむはむ……かちゅおぶしご飯サイコー!」
「ほら、おちついて食べろ」
「あ、ありがと」

 顎についた鰹節を取ってやると、エアは恥ずかしそうに頬を染めた。
 旺盛な食欲でかぶりついても、この辺りの恥ずかしさは持ち合わせているらしい。
 豪快で気持ち良く食べる姿は、見ていても嬉しくなる。

 お椀一杯に盛られたご飯があっという間に綺麗になくなっていく。
 お代わり! と炊飯器に向かっていく背中は、尻尾がブンブンと振られていた。

「あー、主も唇の端についてるよ」
「お、そうか。人のことを言えないな」
「取ってあげるね。レロッ」
「おわっ!?」
「んふふ、ご馳走様❤」

 頬にざらりと舌の感触が走る。
 ドアップに映るエアの美しい整った顔。
 ニヤッと蠱惑的に笑うエアに、渡はドキドキしてしまう。

 食事中に不意打ちされると、備えていないからか、すごく恥ずかしい。
 子どものようだったり、次の瞬間には老練な遊女のようだったりと、変動が激しかった。
 まったく、と溜息を吐きながらも、渡は怒る気にもなれないでいたのだった。

 〇

 あるいは、狩りの習性に引っ張られる時もある。
 渡が取り出したのは、猫じゃらしだった。
 虎と猫は違うだろうと思いながらも、ついどうなるのかという誘惑に負けて買ってしまったのだ。

 ベッドに寝そべってだらだらしていたエアの顔の近くに、猫じゃらしを左右に振る。

「なにこれ?」
「猫じゃらし。猫と遊ぶ道具の一つだな」
「そういうことを言ってるんじゃなくて、アタシは誇り高き、金虎族一の戦士なんだから。そんなあからさまな道具に引っかかるわけないし!」

 最初は素っ気ない目を向けていたエアだが、次第に目が猫じゃらしに向けられる。
 うずうずとしているのが目に見えてわかった。
 だが、迂闊に反応したくないのか、エアはうずうずとしながらも、体を抑え込んでいる。

 ピクピクと反応し始める。
 しめしめ、もう少しだ。

「ほら、フリフリー」
「にゃ、か、体が勝手に! や、止めるにゃ、主!!」
「ふふふ、恥ずかしそうにしながらも襲い掛かるのをやめられないエアは可愛いなあ」
「こんなことで褒められても嬉しくないにゃ……!」
「くくく……」
「にゃっ! にゃにゃ! にゃにゃにゃにゃ!!」
「おわっと!」

 エアとて本気ではなかっただろうが、飛び掛かった瞬間に、渡の体へと抱き着く形になった。
 幸い倒れこんでも怪我もなく、抱き合う形になったぐらいだ。
 ほとんど身長も変わらないエアの綺麗で大きな瞳が、渡の視界に映った。
 顔が真っ赤に紅潮している。

「ご、ごめんなさい」
「いや、俺こそ悪かった」
「アタシ、本当はこういうのガマンしなきゃダメなのに、主がずっとやるから、ガマン出来なかった」
「そうなのか?」
「うん。だって、こんな習性、罠にかけやすいでしょ。衝動に任せて動いて、護衛対象を護れなかったら大変だにゃ……」
「あー、たしかにな」
「だから、あんまりしないで」
「分かった。悪かった」
「アタシと遊びたいなら、遊びに行こうよ! アタシ、ボウリングとかテニスとかしたい!」
「あー、ラウンドニャンに行くか」

 体を動かしたい欲求を刺激してしまったのは渡だ。
 責任を持って、解消してあげないといけないだろう。
 その日、エアの相手に渡とマリエルは疲労困憊になるぐらい付き合わされた。

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