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招魂の儀式

 第一巻でも、実験棟の火事の後で出てきた儀式です。

 事故などの不慮の死だったり、または孤独死などで死因が不明な場合に行う必要のある儀式で、初七日の間、もしくは棺に遺体を収める前に、僧侶や道士などに来てもらって行います。
 これはそういった死の場合、死者の魂はまだその現場を彷徨っていると考えられているため。
 つまりこの「招魂」もしくは「引魂」と呼ばれる儀式によって、死亡現場から遺体の安置場所へと魂を導いてやらないと、通夜も葬儀も死者本人が不在な状態の空っぽな遺体だけを相手に行うことになってしまうわけです。
 これでは死者の鎮魂という本来の葬儀の目的はまったく果たされません(遺族のグリーフケアとしての側面のみを求めるのなら、別にそれでもいいのですが)。なので、鎮魂のためにはこの儀式が必須となります。
 基本的には、まずその死亡現場もしくはその周辺に香卓と呼ばれる簡易な祭壇を設置(これは基本的には普通のテーブルです。映画のクランクインとか、商売繁盛の礼拝とか、鬼節のお供えとか、祭壇を設けることはよくありますが、基本的にはごく普通のテーブルを使います。豪華な彫刻がしてあるようなのは、基本的に廟とか自宅の霊廟にあるだけです)。そして遺族は生成りの麻で作った伝統的な喪服(日本でいう白喪服ですが、染色も縫製もしていないスタイルの、韓国映画で見るのに近いタイプです)に身を包んで儀式に参加し、僧侶や道士の指導の下で死者に呼び掛けます。
 儀式の終了後に僧侶や道士が神筈を投げて、死者がきちんと戻ってきたか、また遺族に望むことがあるかなどを訊ねるので、万が一死者が遺族の元へ戻ってきていなければこの段階でそれが判明します。つまり、東晴の場合もこの段階で、まだ戻ってきてない、と結果が出るのでお母さんがずっと儀式を繰り返しているわけです。
 戻ってきた死者の魂は「招魂幡」という旗を依り代として、遺体を安置している場所まで連れ帰ります。この旗を通常の位牌(台湾の場合は神主牌と呼ばれる)と一緒に祭壇に安置すれば、以降は通常の手順通りに葬儀を行えます。

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